第114話 ライバルに認定
アーミーアント討伐の祝勝会も終わった三日後。
二日酔いから回復したリディアとユリアが直談判に来ていた。
「納得出来ません」
「どうしてあの二人だけ、ジュン様から特別扱いを受けるのですか」
「そうです。カイエン隊長はともかく、クリステアさんとルチーナさんだけ武具を新調して貰えるなんて」
「はい…そうですね…」
まぁ当然の意見か。
同じ親衛隊の中で扱いに差が出たら、そりゃ不満も出るだろう。
ましてこの二人は、ボクの護衛としてついて行く役をクリステア・ルチーナと争っている。
だから余計にそう感じるのだろう。
「ええと、ロックバードの羽毛とネックレスに関しては現在追加で制作中で。出来上がり次第渡しますので…」
「「そうではありません」」
「ダメっすか」
う~ん。
まぁ正直、この展開は予想してた。
なので羽毛もネックレスも事前に進めていたのだが。
やっぱりこの二人は納得しないか。
どうしたものかな。
「二人共、ジュン様を困らせるのは、関心しませんよ」
「そうですよ」
「「貴女達には言われたくない!」」
ごもっとも。
特別扱いされてる二人に言われてもね。
クリステアとルチーナは、リディアとユリアの直談判に一緒に来ていた。
問題の対象に挙げられているのに、中々のハートの強さだと思う。
「それで、結論として特別扱いを止めろって事かな」
「少し違います」
「あの二人だけじゃなく、私達も可愛がって欲しいんです」
「うん?」
「特別扱いしたくなる相手が出来るというのは仕方ないと思います。感情のある生き物なのですから」
「ですが、自分が特別扱いされないのであれば嫉妬してしまうのも仕方ない事だと思うのです」
「ですので」「私達にも何か下さい」
「はい…」
そうなるか…。
まぁそれも想定はしてた。
しかしなあ…何をあげたらいいのやら。
「でもさ、二人は既にいい武器持ってるじゃない。二人のご両親からの、立派な武器が」
リディアは成人の祝いにアダマンタイト製の特注のハンマーが。
ユリアもミスリル製の剣とアダマンタイト製の盾を貰っていた。
武器は既に文句なしの一級品を持ってる。
「別に武具に拘る必要はありませんわ」
「そうです。高価な物でも、魔道具である必要もありません。例えば指輪とか。ペアリングなら尚よしですわ」
つまり、何でもいいからプレゼントが欲しいと、そういうわけなんですね。
「じゃあ服とかどう?」
「服…悪くないですわ」
「ええ。ジュン様が選んで下さるんですよね?」
「え?ボクが選ぶの?センスないよ、ボク」
前世でもアイとユウの買い物に付き合って服を選ばされたけど。
「構いませんわ」
「ジュン様に選んで頂いた服なら、どんな服でも着ます」
「そう?スケスケのネグリジェとか選ぶかもよ?」
あるんだよなぁ、シルヴィさんの店に。
誰がデザインしたのかは言うまでもあるまい。
「う…アレですか…」
「ジュン様が私に着て欲しいと仰るなら…」
「冗談だよ…じゃあ行こうか」
「「はい」」
「ウチも行くー」「私もー」
アイとユウ、それからノエラにリリー、シャクティもついて来る。結局殆どいつものメンツだ。
セバストは女の買い物は長いからと来なかったが。
あと…
「ちょっとクリステアさん、ルチーナさん。今回は遠慮して下さいな」
「そうです。貴女方は今日は非番でしょう?貴女達まで来たらまた特別扱いじゃない」
今日は二人共、鎧じゃなく私服を着ている。
ユウがデザインした服でどこかのお嬢様に見える。
領主の娘だし、お嬢様なのは間違ってないか。
「ふむ…仕方ありませんね」
「そうね。偶には二人で買い物にでもいこっか、姉さん」
「そうですね。行きましょう」
えらくアッサリと引き下がったな、と思ったら。
その理由はすぐに判明した。
「おや、奇遇ですね」
「本当~。奇遇ですね~」
「何が奇遇ですか!」
「白々しいにも程があります!」
まあ、そうだよね。
王都で服を買うとなれば、シルヴィさんの店に行くのは容易に想像出来るし。
行き先が解ってるなら先回りも容易だ。
「まぁまぁ。抑えて抑えて。ちゃんと服は選んであげるから、ね?」
「…はい」「分かりましたわ…」
何とか、落ち着いたかな。
やれやれ。
「こんにちは~ジュン様。相変わらず女の子に囲まれてるわね~。まだ刺されてないようで、よかったわ~」
「まだってどういう事です」
刺されるの確定みたいな言い方はやめて。
「こんにちは、シルヴィさん。お店は順調のようで何よりですね」
「おかげ様で~。服も下着も売れ行き好調よ~」
「そうですか。どれが一番人気なんです?あ、服のほうで」
「それはね~これよ~」
「え。それですか?」
「そうよ~?どうかした~?」
「ああ、いえ。可愛いですもんね、それ」
まさかセーラー服が一番人気とは…
セーラー服を着たオカマさんには出会いたくないな。
「ジュン様」「服を選らんでくださるのでしょう?」
「ああ。はいはい」
それから数時間も掛けて。
二人の服だけでなく、他の皆の服を選ばされた。
クリステアとルチーナの二人は今回だけはと遠慮していたが。
それから帰りに近くの店に入りお茶を飲む事に。
「ジュン様。有難うございました」
「服を選んで頂いた上に、買って頂いて」
「気にしないで」
アダマンタイト製の武具に比べたら安い物だし。
「ジュン様、後程新しい下着の感想を…」
「そういうのは女の子だけでやってね」
男にそういうの聞かないで欲しい。
恋人や夫ならともかく。
「全く…貴女はもう少し…いえもっと慎みを覚えるべきですわ、クリステア」
「本当に。止める私の身にもなってよ、姉さん」
全くだね。
ルチーナは頑張ってるよ。
「私は負けるわけにはいきませんから」
「え?わ、私に?そ、そう。貴女がそこまで私との勝負に拘ってるとは思っていませんでしたわ」
「え?いえユリアではなく、ノエラさんにです」
「どうしてそうなるんですか!」
本当に。
どうしてそうなるんでしょう。
君、何かノエラと勝負してたっけ。
「あら、私ですか?」
「ええ。ジュン様との混浴…そんな夢のようなシュチュエーションを先んじられるなんて…一生の不覚。せめて一緒に入れていれば…」
入れてればなんだ。
何にもないぞ、その先は。
無いんだからねっ。
「本当に…どうしてそんな風になってしまったのかしら?昔の貴女はそんな風では…」
「そうでしょうか?私は昔と変わってないと思いますが」
昔と今のクリステアが違うとしたらきっと原因はあの本です。
「昔の貴女はそんな…その…は、はしたない事は言わなかったじゃないの」
やっぱりね。そうだよね。
やっぱり「魔王子様と女騎士」の悪影響だよね。
「ユリア、貴女と出会った時から私は変わってはいませんよ。ただ隠さなくなっただけです」
「隠して、姉さん。お願いだから。せめて身内以外には」
「ボクからもお願い。ボクの前でも隠して。ノエラと張り合う事もしなくていいから」
「それは無理です。身内以外はともかく、ジュン様にはアタックあるのみです」
なんでやねん。
仮にも主の言葉をいともたやすく拒否しよってからに。
「それにユリア。私からすれば貴女の方が変わったと思うのですが」
「わ、私?」
「そうです。昔の貴女はそれこそお堅い高飛車な御嬢様といった感じで、今ほど柔らかい雰囲気ではなかったでしょう。それに私との勝負とはいえ、スタイルの良さ対決や告白された回数対決なんて以前なら昔の貴女ならしなかったでしょう」
「そうでしょうね…」
「そういえば、ユリアはどうしてクリステアをライバル視してるの?」
「えっと、それは、ですね…」
「言い難い事なら、いいけど」
「いえ…その、昔の私はクリステアが言ったように高飛車でワガママなだけの子供でした。ある日クリステアと出会って…皆から優秀だとチヤホヤされてるクリステアが気にいらなくって…それで意地悪な事したり喧嘩を吹っ掛けたりしたけど全て返り討ちに会いまして…」
あ~。
なんか似たような事が前世のユウにもあったな。
ユウも優秀で妬まれたりしてイジメを受けた事もあった。
ボクが出るまでもなく全て自分の力で返り討ちにしてたけど。
「そしてクリステアを罠にかけようとして自分が崖から落ちてしまいまして…途方に暮れてる私を助けてくれたのはクリステアでした。自分に散々嫌がらせをした相手を助ける事が出来る、そんな器を持った彼女を尊敬し、勝ちたいと思ったんです。何か一つだけでも、と」
そうかぁ。ええ子やね、ユリア君。
そこで腐らずに真っ直ぐになって今があるんやね。
「あの…ジュン様?何です?」
「ま、いいからいいから」
真っ直ぐに頑張ってる子を見ると頭を撫でたくなっちゃう。
前世で教師だったせいか、ティナ達の頭もよく撫でちゃうし。
「で、クリステアはどうしたの」
「ユリアさんに尊敬してるって言われて、驚いてるんじゃないの?」
すっごく驚愕って感じの顔してるけど。
「まさか、ユリアにまで先を越されるなんて…」
「「はい?」」
「ご主人様からのナデナデなんて雌犬に与えられる御褒美の一つじゃないですか!」
「誰が雌犬ですか!誰が!」
「いいでしょう、ユリア。今、正式に貴女をライバルの一人と認めましょう」
「今!?じゃあ今までは一体何だったの!?」
「ノエラさん、貴女にも負けませんよ」
「うふふ、受けて立ちますよ」
「聞きなさい!」
ユリアのいい話でクリステアの株もちょっと上がってたのに…
クリステア…残念な子…




