第105話 いい物貰いました
「「「ジュン様、御誕生日おめでとうございます」」」
「ありがとう、皆」
今日はボクの誕生日。
国を挙げて祝う、まではいかないが城内でパーティーは毎年開かれている。
今年は成人の歳だけあっていつもより豪華だ。
しかし、誕生日プレゼントをくれるのは身内のみだ、
もしも城内にいる兵や騎士、執事やメイド達全員から貰ったらとんでもない事になるし。
それに彼らからすれば魔王子に誕生日に送るプレゼントなんて、何を贈ったらいいかわからない人が大半だろう。
逆の立場だったらボクにはわからない。
前世で言えば、皇太子殿下に一般市民のボクが誕生日プレゼントを贈るような物だ。
しかし、中には手作りのお菓子をくれたり綺麗な刺繍の入ったハンカチをくれたりする者もいる。
素直に嬉しい。
そして中には変なの…扱いに困る物をくれたりする。
「ジュン様、これを」
「これは…何?クリステア」
「私の脱ぎたてパンツです。どうぞお使いください」
……。
これをどう使えと?
ていうか脱ぎたてって。
「クリステア、もしかして今…」
「はい、ノーパンです」
堂々と言い放ちおった。
もう少し恥じらいを持って欲しい。
「ルチーナ、頼んだ」
「はい、ジュン様。リディアも手伝って」
「はい。よいしょっと」
「きゃっ、ちょっとリディア!その抱え方だと見えちゃいますから!」
「見られたくないなら、ちゃんとスカートを抑えときなさい、姉さん」
ルチーナにパンツを渡してクリステアに穿かせるべく連行してもらう。
怪力の紋章を持つリディアには流石に抵抗できず、大人しく連行されるクリステア。
クリステアと出会って三年になるけど、ずっと変わらない。本当にブレないね。
クリステアは見た目も親衛隊に入った時から、変わってない。
彼女はもう身体的な成長は止まったのだろう。
魔族なのでこれからは長く若いまま、ゆっくりと歳を取ることになる。
ルチーナとユリアも見た目は殆ど変わってない。
ルチーナは少し背が伸びただろうか?
胸が大きくならないと、一時期嘆いていた。
リディアはボクと同い年なので彼女ももうすぐ十五歳。
彼女は結構見た目が変わって、背が伸びて大分大人っぽくなった。
髪型も金髪巻き毛のロングヘアーからストレートのセミロングに変えている。
戦う時に邪魔だから、と結構ばっさりと切ってしまった。
そして十二歳の時でも結構な巨乳だったのが、今ではクリステアにもう少しで追いつくと言えるくらいには大きくなってる。
これからの更なる成長に期待だ。
「ジュン様、楽しんれますかぁ~」
「シャクティは楽しそうだね」
今日のもう一人の主役、シャクティの登場だ。
誕生日がボクと同じで、歳も同じなので彼女も一緒に祝ってる。
彼女が城に来て二年ちょっと。彼女も結構成長した。
主に胸が。
十二歳の時がCカップだとしたら今はEに近いDといったとこだろうか。
十五歳でこれならEに届くのは夢ではないだろう。
対して身長はあまり伸びず150に届いたばかりだ。
そして彼女、成人したのをいい事に酒を飲んでいるようだ。
既にかなり飲んだようで大分酔っぱらっている。
「それで~ジュン様は結局~私の処女を~もらってくれるんれすか~」
「嫁に貰うって話じゃなかった?」
「ああ~そうれした~でもぉ~同じことれすよね~キャハハハハ」
キャハハて。
シャクティにはお酒はあまり飲ませないほうがよさそうだ。
「ジュン様、御飲み物はいかがですか」
「ありがとう、ノエラ」
「ジュン様、これ、自信作なんだ。食ってみてくれ」
「うん、おいしいよ、セバスト」
ノエラとセバストは変わりない。
強いて言うならノエラの髪が少し伸びたくらいか。
「ご主人様~、これすっごく美味しいんだよ~」
この狼人族の少女はハティだ。
人型への変身が出来るようになり、言葉も喋れるようになった。
見た目十四歳前後の中々の美少女だ。
他のフェンリル一家は変わりない。
だけど名前が無いのは不便なので、例の魔法を使って名前を付けさせてもらった。
母がマーナガルム。父がマルコシアス。長男がフレキ。次男がスコル。長女がレートー。次女がアセナ。
ハティもそうだが皆、現代地球の神話に出て来た狼の名前と同じな気がする。
現代地球の空想上の動物がこの世界にはいるし、こういう所でパラレルワールドって感じるな。
「ジュン、お祖父ちゃん達が呼んでるよ」
「あとでいいから、お父さんの部屋に来いってさ」
「ああ、わかった」
アイは十二歳。ユウはまだ十一歳。
二人とも150㎝台まで背が伸びた。
あと胸がBカップになったと喜んでいた。
二人曰く、前世では十二歳ではAカップだった、と。
バストアップ体操が効いたに違いないと言っていた。
ボクは前世と同じ感じで成長しているんだけど、それは参考程度に考えておくべきなのか。
現在のボクの身長は178cm。前世でもこれぐらいだったと思う。
「失礼します」
「おう、来たか」
パーティーを途中で抜け出し、父アスラッドの部屋に行く。
そこにはお祖父ちゃんだけでなく、お祖母ちゃんと父アスラッドと母エリザもいた。
「お呼びだとか。何かありましたか?」
そう言いながらもボクの視線は一点に釘付けだ。
机の上にある、あからさまに貴重な物が入ってますと言わんばかりの大きな箱。
かなりの存在感だ。
「まあ、用件はお前が気になってるこれだ」
「覚えてるか?二年前にお前が成人したらやるって言ってたヤツだ」
「あ、はい。覚えてます。これが『いい物』ですか」
ボクが作ろうとしてる剣に使える物。
あれから目標金額の御金は貯まっていよいよ製作依頼を出せるのだが。
御金はあってもオリハルコンを調達するのは時間が掛かる。
出来上がるのはいつになるやら。
「開けてみろ」
「はい」
言われた通りに開けてみると中に入っていたのは一本の折れた大剣だった。
大きさはかなりの大きく、武闘会であの仮面少女、アイシスが使ってた大剣と同じくらいだ。
「これは?折れてますが…」
「それはな、初代魔王様が倒した勇者が使っていた聖剣だ」
「え」
初代魔王様が倒した勇者が使ってた聖剣?
という事は数千年前の代物?
「何でそんな物がここに?」
「あ~何でも初代魔王様とその勇者は戦う内に恋に落ちたらしい」
「はい?」
「で、戦いは初代魔王様の勝利。勇者は死んだとされ、戦利品として勇者が使ってた剣はウチの宝物庫に仕舞われていた。という事になっとる」
「実際は勇者は生きていて初代魔王様の女になったわけだ」
「え。じゃあボク達って勇者の末裔でもあるんですか?」
「いや、初代魔王様と勇者の間に子は出来なかったらしい。初代魔王様には何人か妻がいたらしいからな。わしらに勇者の血は流れていない」
「そうですか…じゃあ、あの島の扉は?」
「初代魔王様とその勇者が残した何かだろうな。何かは知らんが」
情報あったんじゃん。
まあ、これをあの時聞いていたとしても何にも出来る事はなかったし、今でもないけどさ。
「それで、この剣は?」
「ああ、お前にやる。その剣を使ってお前の剣を作れ。その大きさならお前が普段使ってる長剣と小剣を作るくらい出来るだろう」
数千年前の折れた剣がそのまま残ってるって事は、間違いなく素材はオリハルコン。
この大きさなら間違いなく作れる。それどころか御釣りがくるだろう。
しかしこれ、いわば国宝級の代物じゃないの?
「いいんですか?こんな…国宝でしょ?」
「構わん。もう数千年も宝物庫で眠ってた代物だ。それに初代魔王様の遺した言葉で自分と同じ紋章を持つ者が子孫に現れたらそいつに渡せってあってな。つまりお前だ。気にせず受け取れ」
そう言う事なら有難く使わせてもらおう。
まさか勇者の聖剣が魔王子の剣に生まれ変わる事になるとは…
「しかし、いくらオリハルコンとはいえ凄いですね。数千年前の代物でしょ?これ」
「ああ。宝物庫には状態保存の魔法が掛かってる。宝物庫にある限り朽ちる事は無い」
なるほど。そうで無ければいくらオリハルコンでも折れた剣が数千年もそのままの形を維持できないか。
「さて、それじゃ、わしとミリアは明日にでも旅に出る。次に会った時に出来上がった剣を見せてくれ」
「はい…明日ですか…」
「そんな寂しそうな顔しないで~通信の魔法道具は持って行くから。今度は二十年も明けずに帰って来るから」
とはいえこの二年はずっと一緒だったのだ。
前世では祖父母と遊んだ記憶は無いし、この二人がボクにとってもユウにとっても、初の祖父母なのだ。
「危ないとこには行っちゃダメですよ。知らない人についてっちゃダメですよ。旨い話だからって簡単に乗っちゃ騙されるかもしれませんから注意してくださいね」
「いや、お前な…わしらが何年旅してたと思ってるんだ」
「心配性ね~大丈夫よ。その為に私がいるんだし」
「いや、それじゃわしがまるで…まぁいい。とにかく、その剣はお前が好きに使え。話は終わりだ。パーティーはまだやってるんだろ?主役がいつまでも抜けるわけにいかん。戻ってやれ」
「はい。では、失礼します」
「ああ、そうだ。ジュン」
「はい?」
「「「「誕生日おめでとう」」」」
「有難うございます」
両親と祖父母から祝福を受けて部屋を出る。
お祖父ちゃんが言ってた『いい物』の事はずっと気になってたけど、予想以上の物だった。
まさか勇者が使ってた聖剣とはね。折れてるけど。
でも、これでボクが考えてる剣が作れる。
明日、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの出発を見送ったらステファニアさんの店に行こう。




