第103話 カタリナとの約束
「どどど、どういう事ですかジュン様!ヴェルリア王国の王女に求婚したって本当ですか!?」
「今、城内で凄い噂になってますよ!ジュン様が王女を口説いてヴェルリア王国の吸収を狙ってるんじゃないかとかなんとか!」
「ジュン様!私より先にカタリナ王女を調教するなんて納得いきません!」
「うん…そう言って突入して来たのは君達で二十一人目だ。説明するから納得がいったら城内の皆の誤解を解いて周ってね」
今、来たのはシャクティ、ルチーナ、クリステア。
ノエラ、セバスト、リリーは既に城内の噂を消火しに行ってもらってる。
しかし、ここまで大騒ぎになるとは…
いや、無理もないか。
現代地球でも訪問してきた王族に公の場で王族が求婚すれば大騒ぎになるよね…
「というわけなんだ。分ってもらえた?」
「そうでしたか!信じてましたよ、ジュン様!」
「ジュン様って博識なのに意外な事知らなかったりするんですね!」
「安心しました、ジュン様。でも、いっそ王女と一緒に調教してもらうのもアリかもしれません」
「はい、納得してもらえたようだから、噂を消してきてねー」
クリステアはブレないな…。
というかしばらくそっとしといて欲しい。
次に王女と会った時どんな顔して会えばいいのか。
全く分からない。
今頃、父アスラッドが誤解を解く為にカタリナ王女と話をしてるはずなのだが。
コンコン
と、ドアがノックされたので入ってもらうと父アスラッドだった。
「何だ、メイドもセバストもいないのか?」
「全員で噂を消火しに行ってもらってます。凄い勢いで延焼してるようなので」
「ああ、だろうなあ。少なくともエルムバーンじゃ前代未聞。世界中探しても同じ話はそうないだろうしな。物語の中でもあるかどうか。噂にもならぁな」
でしょうね。
ボクもそう思います。
「ところで、カタリナ殿下は?誤解は解いてもらえましたか?」
「ま、一応な。で、お前と話がしたいってよ。連れてきたぞ」
「え」
父アスラッドの後ろから、スッとカタリナ殿下が入って来る。
「やぁ。失礼するぞ」
「こ、これはカタリナ殿下。先ほどはとんだ失礼を…」
「うん。君はあれが単なる挨拶だと思ってやった事は聞いた。誤解は解けたから気にしなくていい。それよりも少し話がしたいんだ。部屋に入らせてもらってもかまわないか?」
「は、はい。どうぞ」
何だかさっきと口調が大分違うけど、こっちが素なのかな。
「感謝する。お前達は外で待て」
「はっ。しかし…よいのですか?」
「心配ない。彼の先ほどの行動は彼の勘違いだとわかったろう?大丈夫だから」
「はっ。畏まりました」
カタリナ殿下は護衛の騎士やお付きの者を部屋の外で待たせるようだ。
あんな事したのに信用されてるのかな?
「あの殿下、内密な話ならウチ…私も席を外しましょうか?」
「私も、必要でしたら」
「君達はアイ・ダルムダット殿にユウ・エルムバーン殿だな。君達はかまわない。ここに居てくれ」
アイとユウが気を使うがカタリナ殿下はここにいるように言う。
とゆうことは、他人に聞かれて困る話では無いのかな?
「えっと…悪い、ユウ。御茶を入れてくれないか?」
「うん。任せて」
ノエラもリリーもいないので、ユウに御茶をいれてもらう。
ティナ達も今は不在だ。
ユウに入れてもらった御茶を殿下に勧めたところで話をする。
「カタリナ殿下、まずは改めて先ほどの件の謝罪を。申し訳ありませんでした」
「気にしなくていいと言ったろ?確かに驚いたし、ちょっぴり残念な気がしないでもないが。友人にいい土産話が出来たと思っているよ。その程度の事だ、気にしなくていい。それと、私の事は呼び捨てでかまわない。公の場で無ければな。私も呼び捨てにさせてもらうから」
随分、フランクな王女様だな。
見た目清楚な美人なのに。玉座の間での王女と違い過ぎる。
「わかりました、カタリナさん」
「さん付けも不要だが、ま、いい。アイとユウも同じように頼む。君達も友人になって欲しいんだ」
「わかった。ウチはかまわないよ」
「私も。よろしくカタリナ」
女同士だからなのか、打ち解けるの早いな。
いや、この二人のコミュニケーション能力が高いだけか?
「それで、カタリナさん。用件は?」
「うん?それも言ったろ。君達と友人になりに来たんだ」
「え?それだけなんですか?」
「ああ。君の事は友人から聞いてね。元々噂で聞いてはいたのだが、いい噂ばかりだし、所詮噂は噂だ。だが友人の話では殆ど噂通りの人物だった。友人の友人も、一人を除いて褒めていたしな」
「あの、その友人って?」
「君なら検討はついてるんじゃないのか?」
まぁ、ヴェルリア王国関連で浮かんで来る人物は一人しかいない。
「アイシス・ノーヴァ殿、ですか」
「その通りだ。随分仲良くなったらしいじゃないか」
「そうですかね?録に会話もしてないんですけど」
まともに会話したのは武闘会の特別戦が終わった時に、ちょっとだけだ。
「ちょっと、ちょっと!ジュン!アイシス・ノーヴァってあの?」
「いつそんな有名人と知り合ったの?お兄ちゃん!」
「武闘会の時のあの子だよ。謎の仮面美少女剣士」
秘密にしたいようだったから、誰にも言わずにいたんだった。
もちろんアイとユウにも。
でも、今この二人の前で話すって事はもういいのだろう。
「ああ、あの子かぁ。納得。ウチらに黙ってたのも、何となくわかる」
「そうね、秘密にしたいから仮面を着けてたんだろうし。実際あの場で正体がバレたら、問題にはならなくても大騒ぎにはなっただろうしね」
「理解が早くて助かるよ」
ま、ヴェルリア王国の重要人物の一人だしね。
ある意味ではカタリナさん以上に。
「それで、彼女はボクの事を何て言ってたんですか?」
「そうだなあ…美人で有能。強くて優しい。国民に人気。ちょっとスケベ。とかかな。概ね合ってるだろう?」
「ええ、合ってるね」
「うん。合ってる」
ああ、うん。まぁいいけど。
スケベなのは否定しないのね?
結構誘惑に耐えてると思うんだけどなあ。
「そして、友人の友人…アイシス殿の友人とは、武闘会に一緒に来ていたあの三人ですか」
「その通り。魔法使いの女の子と、年配の男性は君の事を褒めていた。剣の腕も魔法の腕も一級品だと。人格も出来た人物のようだともね」
「じゃあ、もう一人の男はボクの事を何て?」
「ん?彼はアイシスと仲良くする君に嫉妬して憶測混じりの事を言ってただけだ。やれ、女癖が悪そうだの、金遣いが荒そうだの、国民に人気なのは御機嫌取りが上手いだけだろうだの。殆ど勝手な妄想の類だろう?」
中々酷いな。
嫉妬とは男でも女でも恐ろしいモノだ。
そもそも嫉妬されるほど、あの子と仲良くした記憶はないのだが。
「カタリナ、今度そいつに会ったらウチの代わりにぶん殴っといて」
「私の分もお願い」
「ハハハ、よし、引き受けよう」
まぁ、止めようも無いし、本気で殴りはしないだろうから、いいか。
「それで彼女から話を聞いて、ボクに会ってみたいと?」
「うん、そうだ。あいつがああまで手放しに人を褒める事はそうない。あいつは人の本質を見抜く力を持ってる。それにあいつの人を見る目は結構厳しい。そんなあいつが褒める男。どんな奴か興味が湧いてな。結果は想像以上だったよ。最初からアレだったしな。ハハハ」
「ハハハ…すみません」
ああ…忘れられない黒歴史がまた一つ…。
「あの、今回の件、あまり言いふらさないでくださいね」
「うん?それは無理だろう。あんな大勢の前でやってしまってはな。私の部下達も見ていたし。現に城内は既にその噂で持ち切りなのだろう?ま、気にするな。一時の笑い話として話のネタになるだけで、しばらくすれば皆忘れるさ」
「デスヨネー」
まぁ無理だろうと思ってはいたさ。
しかし、ヴェルリア王国でおかしな形で広まらなきゃいいけど。
「今回の事をアイシスに話す時が楽しみだよ。あいつどんな顔するかな。クックック」
実に楽しそうに、子供っぽい顔して笑ってる。
心底楽しんでますね。
「アイシス殿とは長いのですか?」
「ああ。私の剣の師匠とあいつの剣の師匠は同じでな。妹弟子なんだ、あいつは。もっとも、私は王家の者として義務付けられた剣の稽古をしてたに過ぎないが。私には剣の才能は無くてね」
そうだろうか?
カタリナさんは、結構強そうだけど。
剣以外の何かを鍛えたんだろうな。
「アイシス殿は今はどこに?武闘会が終わって王国に戻られたのですか?」
「いや、アイシス達は旅を続けているよ。定期的に帰って来ているがね。ある物を探しているんだ」
「何を探しているんですか?」
「あ~、すまない。それは言えないんだ」
「そうですか」
いつか一緒に旅をしようって言ってたけど、その探し物の旅について来いって事なのかな。
とゆうか探し物って、もしかしてあの扉のある場所の事なんじゃ…。
それから夕食のパーティーの時間まで歓談を続け、カタリナさんは部屋を出ていく。
そして無事、治癒魔法使いの育成と学校設立のノウハウの提供、その交渉を無事終えてカタリナさんが帰る時が来た。
「世話になったな。楽しかったよ」
「ボクもです、カタリナさん」
「うん。今度は君達が我が国に来てくれ。歓待するよ」
「楽しみにしています、その時を」
「ああ。では…おっと、そうだ。気にするなと言っておいてなんだが、あの件を忘れる代わりに一つ約束してくれるか?」
そう言われたら聞かざるを得ないな。
ぜひ忘れて欲しいし。
「何でしょう?」
「私が危機に瀕していたら助けに来て欲しい。約束できるか?」
これは…エルムバーンの魔王子とヴェルリアの王女がする約束としては、少々不味いかもしれないが…。
「わかりました。約束します。その時は必ず助けに行きますよ」
「ありがとう。では、またな」
「ええ、また」
そう言ってカタリナさんは王国へ帰って行った。
多分、また会うだろう。
そう遠くない未来で。




