第102話 やらかしました
「ここがシルヴィさんの店だよ」
「普段着はともかく、下着は買いなさい」
「お金は出してあげるから」
「はい…」
シャクティが城に来た翌々日。
今日は王都を案内している。
いの一番に向かったのはシルヴィさんの店だ。
理由はもちろんシャクティの下着を買う為だ。
あとからユウとアイが聞いて来たのだが、シャクティは下着を一切持っていなかった。
どういう事か尋ねたら、島に全て置いて来たらしい。
「島でも着てなかったので…いらないかなって。エヘヘ」
どうやらシャクティのノーパン主義は筋金入りらしい。しかし、ここではそれじゃ困るのだ。
島での生活とは違い、ここでは人の目が多い。
ボクが自分のメイドにノーパンを強要してるとか、変な噂が流れては困る。
それに戦闘技術を持ってるのにノーパンとか。
いざという時、まともに戦えないじゃないか。
そして今日、下着を買いに来たのだが。
「そんな嫌そうに選ばないでよ」
「ですが…どれがいいか、サッパリで…」
「不安になる会話だな」
「服に無頓着なの?可愛い子なのに、勿体ない~」
目的が女性の下着なので、シャクティのことはアイとユウに任せ。ボクは離れた位置でシルヴィさんと話をしてる。側にはノエラとリリー。クリステアとルチーナもいる。
「ジュン様の周りは、可愛い子でいっぱいね~。あの子もジュン様のメイドなんでしょ~?」
「まぁ、そうです」
どちらも事実なので否定はしない。
はっきりと口に出して肯定するつもりはないが。
「ふ~ん。ね~ジュン様はどの子が好みなの~?」
「はい?いきなりなんです?」
「長くて綺麗な黒髪のアイ様~?金髪に混じった黒髪と左右で色の違う瞳が印象的なユウ様~?」
「えっと、シルヴィさん?」
「大人な雰囲気のノエラちゃん?それとも巨乳なリリーちゃんかしら~。見た目は真面目そうなのにオープンで変態なスタイル抜群のクリステアちゃん?真面目で活発なルチーナちゃん?それとも新人のシャクティちゃんかしら~」
オープンな変態はノエラもですけどね。
というか、ユウを入れちゃダメでしょ。
幸いにして、ユウ達には聞こえてなかったみたいだ。
「それとも未亡人の私~?貧乳な娘のフィーリアかしら~」
「いやいや。サラッと酷い事を」
娘のフィーリアさんは今、冒険者の仕事でいない。居たら喧嘩になってたかも。
いや、居たら最初から言わないか。
「教えてください、ジュン様」
「是非シルヴィさんの質問に、お答え下さい」
うん、ノエラにクリステア。
君達はそんな反応すると思った。
「皆、可愛いと思ってますよ」
これがあまり上手い回答じゃないのは知っているけど、この場合は誰と答えてもいい結果にはならなさそうだし、なんとか誤魔化す方向へ持っていこう。
「あら、そう?私も可愛いの~?嬉しいわ~」
「私は可愛いですか。ありがとう御座います、ジュン様」
「えへへ~」
「可愛い方がやはり調教のしがいがありますよね」
「うふ。うふふふふ」
あれ?予想外にも反発もなく受け入れられた。
約一名間違った反応の人がいるけど。
「ん~分かんない!ジュン様~!」
「何?どうかした?」
下着を選んでいたシャクティが、こっちに来てボクの手を引っ張る。
「どれがいいか、分からないので選んで下さい!」
「はい、お断りしまーす」
女の子の下着選ぶとか、ハードルが高すぎる。
前世でアイとユウの下着を選ばされた事はあるけれど。
「何でですか!選んで下さい!」
「プロに頼みなさい。その道のプロに」
「…どうしてもダメですか?…」
「う…」
上目遣いにウルウルな瞳でお願いは反則だろう。
「わかったよ…変なの選んでも文句言わないでね」
「はい!もちろんです!」
「はぁ…じゃあまず、髪の色に合わせて、これと、これ。オーソドックスに白も外せないよね。この薄い黄色のやつも合うと思うよ」
「ノリノリだね。お兄ちゃん」
「しかも結構、センスがいいと言うか…」
いやいや。
ノリノリなんかじゃないですよ?
シャクティの買い物と王都の案内も終わり。
城に戻ると、父アスラッドに呼び出される。
ボクだけじゃなく、ユウとアイもだ。
「何かありましたか?お父さん」
「うむ。近々ヴェルリア王国の第三王女がうちに来るのは知ってるな?」
「はい」
「王女の名前はカタリナ・エレオノーラ・ヴェルリア、十八歳。要件は治癒魔法使いの育成と学校設立の為のノウハウの提供、その為の交渉だ」
どちらも研修生を派遣して下さいとしか、ボクには言えないな。
見返りに何を求めるのかは、ボクが決める事じゃないし。
「それでな、その王女が王都の案内をお前にして欲しいって打診があったんだよ。手紙でな」
「はあ。それは構いませんけど、何故です?」
「知らん。お前にこそ、心当たりは?」
無くはない。
きっとあの子が何か話したんだろう。
でも、ここは無いという事にしておこう。
あの子の名前は誰にも言ってないし。
「特には浮かば無いですね」
「そうか?ならいい。ユウとアイはジュンと一緒に王女の相手を頼む。女同士のほうがいい時もあるだろう」
「「はい」」
「話は以上だ」
「では、失礼します。あ、そうだ。例の本の作者はまだ分かりませんか」
「う、うむ。まだだ」
「そうですか…では」
エルムバーンの最高権力者の父アスラッドでも分からないとは。
一体何者なんだ。
自室に戻ってノエラにお茶を用意してもらい、お祖母ちゃんとお祖母ちゃんも居たので、カタリナ王女について話をする。
「ヴェルリア王国のカタリナ王女?いや、知らねえな」
「そうね、私達がヴェルリア王国に行ったのは二十年前。カタリナ王女が生まれる前になるから」
なら知らないか。
変な人だったら困るし、もうちょっと情報が欲しいんだけど。
「まぁ変な人だったら噂が流れて来るんじゃない?それが無いって事は普通の人なんでしょ」
そうかなぁ。
そうだといいなぁ。
「カタリナ・エレオノーラ・ヴェルリア第三王女は治癒魔法使いの育成と学校の設立を我が国から学んでヴェルリア王国でもやろう、と提案し、中心となって動いている方です。国民にも人気のある方で美人だそうですよ。王女自身は子供が好きで、よく孤児院に遊びに行っているとか」
知っているのかノエラ。
しかもえらく詳しい。
「よく知ってるね、ノエラ」
「はい。王女が来訪されると決まった時に一応調べました」
そう言えばノエラは諜報員というかスパイというか。
そういった訓練も受けているんだった。
情報を集めるくらいお手の物なのか。
「まあ、普通な人っぽいし、普通にしてれば大丈夫か」
そしてカタリナ王女来訪の日。
ボク達は玉座の間で王女が来るのを待っている。
父アスラッドと母エリザは玉座に座り、その脇にボクとユウとアイがいる。
「こういうの慣れないなぁ」
「そだね。ウチも慣れない」
「私だって…あ、来たよ」
扉が開き、音楽隊が音楽を奏で、王女と護衛の騎士、付き人達が入って来る。
カタリナ王女は慣れているのか、堂々として歩みを進めている。
カタリナ王女は背中まである長い金髪に銀のティアラに白を基調としたドレスを着た美人だ。
「よく来てくれた、カタリナ殿。道中は何も問題無かっただろうか?」
「盛大な歓迎感謝致します、魔王アスラッド様。道中、何も問題ありませんでした。エルムバーンの治安の良さは流石ですね」
この日の為に王女の通る道の警備、危険な魔獣の排除、盗賊狩りを各領主に徹底。
普段から国内の治安には気を使ってる父アスラッドだが、やはりこういう時はより一層気を使う事になる。
「なら良かった。さて長旅で疲れているだろう。まずは休むといい。後の歓迎パーティで会おう。部屋までは息子に案内させよう、ジュン」
出番のようだ。
緊張するなぁ。
「初めまして、カタリナ王女殿下。ジュン・エルムバーンです。お見知りおきを」
「貴方が…カタリナ・エレオノーラ・ヴェルリアです。お噂はかねがね。よろしくお願いします」
こちらに手の甲を向けて差し出すカタリナ王女。
これはアレか?
手の甲に口づけをするアレか?
アレやんの?マジで?
アイとユウに目をやると二人とも頷いてる。ヤレって事か。
仕方ない…手に口づけするくらいなら、なんとか…
「え?」
スっとかがんで片膝をつき王女の手を取りそっと口づけをする。
どうだ、これでいいんでしょ?
「ん?あれ?皆、どうしたの?」
場の空気が止まってる。
王女の顔は真っ赤だ。
あれ?何か間違った?
「だ、大胆なのですね、流石と言うべきでしょうか…聞いてた話とまた違うようですが…」
「はい?どういう事でしょう?」
アイとユウもわからないって顔してる。
あれ?何か間違えたみたいだけど、何を間違えたのかわからない。
「じゅ、ジュン!ちょっと来い!こっち来い!」
「は、はい。ボク、何かやらかしました?」
「お前、さてはわかってないな?今自分が何をしたかわかってないんだよな?」
何だろう、相当な事をやらかしてしまったようだが…
「はい。ボク何をやらかしたんですか?相当不味い事をしたようですけど…」
「あのな、女性の手に口づけをするってのはな結婚してくれって意味だ。私の愛を貴女に捧げますって意味だ。お前は公の場で王女にいきなり求婚したんだ」
………………………………………
何だとぉぉぉぉぉ!
この世界ではそういう意味なのか!
「あ!あの!王女殿下!あのですね!」
「う、うん。いや、大丈夫。私も王族に生まれた身。政略結婚の対象になる事は理解している。まさかこんな場面で求婚されるなんて思わなかったけど…あれ?でも事前に何にも聞いてないし、これはもしかして純愛?でもでも、確か彼は十二歳だし…あ、魔族だから多少の歳の差なんて関係ないのか?でもでも、私の事よく知らないはずだし、私も噂しか聞いてないし、でもでも…」
ダメだ。
すっごいテンパってらっしゃる。
どうしよう、どうしたらいいんだ。
誰か助けて―!




