初めての異世界
俺はつくづく人間は醜い生き物だと中学3年生にして実感してしまった。ここにいたるまで色んなものを積み重ねた
結果だろう。
・・・・醜いのはもちろん俺も同じだが。
学校の屋上で空を見上げて物思いにふける。今日の空はとてつもなく暗い。
追い風が心地よい。
学校での授業を終えて家へと帰宅すると
姉が晩御飯の支度をしていた。
この8つ年上の姉はテンションが高くて大雑把である。
そして教師である。教師を志した時は何かの冗談かと思ったが・・・。
「おっかえりー」
「ただいま」
「今日も冴えない顔してんねぇ、何回人間嫌いだと思ったの?」
「うるせぇ、火つけたままこっち来たら危ねぇだろ」
冷めたような挨拶を交わすと姉はにやにやとしながら
近づいてきた。料理を放置して俺をからかいながら近づいてきた
姉を冷たくあしらう。
あぁ・・・うかつに
「人間ってのは醜いんだ・・・」
毎日のようにこの世のすべてを捨てたような重苦しさでそんなことをつぶやかなきゃ
良かった。
「ふふふ、今日は人間嫌いの君に朗報がある!!」
ドヤ顔をしながらおたまをかかげる。
おかげで液体が床にこぼれる。拭くの俺なんだから辞めてくれよ!
「あぁ、こぼれてるぞもう!なんだよ」
「ご飯食べながらおしえるからね」
と思ったら今度はウィンクしながら可愛げに言って見せる。
ちょっとむかつくなー
そしてもったいぶるな・・・!
朗報と言ってもたいしたことがないだろうとめんどくささが
入り混じって問わなかったが
しびれを切らしたらしい姉の方が話題を切り出してくる。
「人間嫌いの君に朗報がある!異世界留学が決定した!」
「異世界・・・?」
そういえばこの世界とは別の世界が存在していたんだな。
異世界、かつてアニメ好きの間では憧れとされていた存在だったが
いつの日か起きたある事件により、亜人が誕生したことをきっかけに
どこかの誰かが亜人が暮らせるように異世界を作ったという。
「そうだ嬉しいだろう!?」
喜べと言わんばかりの希薄に押されつつも俺は疑問を問う。
「えーと人間がその世界にいっていいものなのか?」
「あれーそんなことも知らないの?実は人間も住んでるよ。まぁ誰でもいいってわけじゃないから
数は少ないけど。特に学生が留学のために選ばれるんだ」
「なんのために・・・」
「人間と亜人の交流の為じゃない?」
簡単すぎて力が抜けそうな理由だった。ご飯を食べ始めた姉をまじまじ見やるが、特にごまかしているようすもなかった。
ただやはり他にも何かしたらの事情はあると思う。
異世界。こことは違う世界・・・。
迷ってもしょうがないんだが。もう決定してるらしいし。
「わかったいくよ」
「そうか、そうか!じゃあ手続きの書類作成しておくから」
中学3年生の夏という受験勉強に励む時期に決定を
下されたので
受験勉強が追いつくかという不安もあったが、幸いにも
異世界の学校は受験なしで入学できるようだった。
代わりに知識は豊富に持っていた方が良いだろうと図書館に足を運んだりしたが
亜人主の基礎知識ばかりで
具体的な出来事などがかかれた本などはやはり存在しなかった。
そして季節はあっという間に過ぎ
春を迎える。
「じゃあねがんばってねー」
「おう」
旅立ちの早朝玄関で姉が見送る。
相変わらず軽い感じで悲しい表情は見られなかった。家族なんだから少しでも
悲しい表情や名残惜しさが欲しかったなぁ。
一方俺は・・・言うまい。
ちなみに留学期間は定かではない。異世界の方の教師が決定を下すらしい。
異世界へと向かうには人通りが無い廃墟のような街へと向かわなければ
いけなかった。人々が住まなくなり誰からも忘れられた街だ(だがしかし廃墟マニアには根強い
人気があるらしい)
そして周りの崩壊した建物中にそこにひとつだけ大きな建物があり
その中に異世界へとつながる扉があると姉から聞いた。
バスを乗り継ぎ、街へと到着する。そこには想像を絶するような
風景があった。姉が言うとおり建物は粉々に崩壊していた。そこかしこに雑草があり
いつかの資源ごみが散らばっていた。
「おお、これか」
少しづつ歩みを進めていくと建物はすぐに見つかった、他に施設がないから難易度が低かったんだがな。
丸型の5階建のタワーだった。元は何かの施設だったのだろうかと疑問を抱きつつ錆びた扉をあける。
真っ暗で中には何も無い。もちろん人もいなかった。
「扉どこだろう・・・うーん?これは違うよな」
暗闇とほこりで良く見えないが
扉の中心に線が引かれている・・・様な気がする。
恐らくエレベーターだろう。異世界の扉とは違う感じもしたが物は試しに起動させてみようと考えた。
あまり期待はしていないが。
エレベーターってのは普通にはあかないもので、スイッチなるものを押そうと近くを確認するとやはり壁に三角のボタンが
あった。こちらも同じく相当な誇りをかぶっていたが・・・。
軽く押してみると、がこんという謎の恐さがある音と共に明かりが点滅し
しばらくすると扉が開かれる。
「おお、乗っていいのか?」
不安はあったが閉じられる前に俺は乗り込んだ・・・。
瞬間にかなり驚いてしまった。
突如どこからともなく女の人の声がしたからだ。その声はかすれていた。
『こちら自動メッセージ。異世界への移動を希望する者?』
「お、おう・・・」
どこかにテープでも仕込まれてんのか?
・・・自動メッセージに応えるのもおかしな話だが
だが問われたら応えなくてはいけないという義務感に襲われたのだ。
『異世界に行く者はこのまま乗るべし。そうじゃないものはいますぐおりるべし』
「このまま乗り込んでればいいのか」
最初の5分ぐらいは立っていたがなかなか着かないので座り込んで
待つ。エレベーターの床が冷たい。
もしかして辿りつかないんでないだろうかなどと新たな不安を覚えたのは3時間ぐらいしたころだ。
スマートフォンで時間を確認しながら絶望感に襲われる。
幸い明かりはついているもののずっとここでひとりでいると不安になるもんだな。
これは人間嫌い俺を姉が見かねて仕組んだ罠かもしれない。
泣きそうになったころ、がこんというぼたんを押した時の音と共に
扉が開かれる。
「ついたんだ・・・・」
良かった。希望を見つけたようによろよろと降りると
そこにはどこまでも生い茂る森林と一本の狭い道があった。
空は薄暗い。
「ここが異世界・・・なのか?」
森林には鳥の声が響いていた。自然界って感じだ。
とりあえず歩いてみるか・・・。
ほんとに見た通りどこまでも森林が続いていたがやがて草藁の石段で
女の子が座っているのを見かける。
良かった・・・!道を教えてもらおう。
・・・しかし喜ぶのはまだはやかったらしく
「すいません、ここの街に住んでる方ですか?あ・・・」
良く見ると・・・女の子は寝ていた。うーんこんなところで?
そして良く良く見るとひざには小さなネズミがいた。こちらも動く様子は無い。
「起こすのも悪いな・・・」
仕方なしに再びひとりで歩みを進めようと決意したが
遠くの方からがらっとまるで雷でも落ちたような音がした。
あいにく森林に囲まれていて詳しい状況を確認することは出来なかったが。
「なんだ・・・!?」
「うーん・・・」
と同時に女の子も目を覚ましたようで・・・
流石にこの音じゃあ目が覚めるよな。
「えーとあのっ」
「だれ・・・?」
眼を擦りながら不思議そうに俺を見やる。
はやく説明しないと不審者になりかねないと焦ったがなかなか言葉が出てこない。・・・どう説明していいものか。
「俺別の世界から来たんだけど。どこに行けばいいのかわからなくて」
女の子はしばらく考え込んでいたがやがて閃いたように
「先生から聞いてる!ハヤト君?」
「そうそう。良かった。・・・って俺の名前知ってるんだ」
「うん!わたしハヤト君と同じ学校に通うひまりっていうの。よろしくね」
「よ、よろしく」
ひまりさんはまだ眠っているねずみを肩に乗せて
俺の両手をぎゅっと握りながら立ち上がる。女の子に手を握られることなどなかったので
ドキドキしてしまう。しかも・・・かわいい。
しかし彼女の立ち姿を見ると春から高校1年生の女の子とは思えない・・・・容姿は小さく小学生のようだった。
いやいくらなんでも失礼か・・・。
「学校まで案内するね」
「ありがとう・・・!」
ー
「ここで眠ってたの?」
「そうだよ、ここね日差しが無いから寝やすいんだよー」
歩きながら俺は尋ねた。
環境的には良さそうな感じはしたが人気が無さ過ぎて少し怖い気がした。
少し太陽が出ていた方が気持ちよさそうなものだが。
彼女はもしかして。
「そうか・・・。そういえばさっきすごい音がしたよな」
「あーくまちゃんかな?」
「く、くま!?」
「お友達なんだけど。山で修行してるからなかなか会えないんだー」
くまと友達なのか・・・?いや苗字?修行?
やばい考えるといろいろな疑問が浮かんでくる。
「いたっ・・・・!!」
見とれていると足元を何者かに噛まれる。・・・ねずみ?
肩に乗っていたネズミがいつの間にか俺の足元に来て・・・
ものすごい鳴き声でなおも俺を噛み続ける。
「あれ、ちゅうたろういつの間に!?だめだよかじったら」
ひまりさんは忠告しながらねずみを救い上げたからなんとか助かった。
「ハヤト君だよ、今度同じクラスになる、うーんどうして怒ってるの?
ハヤト君はそんなことしないよ」
そしてひまりちゃんは笑いながらネズミを説得していた。もしかして会話が出来るのか?
うん・・・そんなことって・・・!?
いったいネズミにどのような印象を与えているのだろう。
「ネズミと会話できるのか?」
「うん出来るよ~。ちゅうたろうっていうの。お友達だよ」
「へーちゅうたろうよろしくな」
と言ったもののぷいっとそっぽをむかれる。・・・残念ながら嫌われているようだ。
森林を抜けると明るい日差しが指しこむ。久しぶりの日差しだ。
そこからまたしばらく歩いたところでようやく建物が見えてきた。
小さなホールのような建物だった。
「ここだよ~」
「え、これが学校!?小さいなー」
まさかこれが学校だったとは。
建物中は静まり返っており物音一つしない。
「なんだか静かだな」
「いま春休みだから学校には誰もいないんだよー」
「あぁなるほど。・・・教師もいないのか?」
「うん、学校が終わってからとかお休みの時は診療所の方にいるから」
診療所?この世界にも医療的なものがあるのか?
それにしても教師と医者かけもちなのか、だとしたらハイスペックすぎる。
それとも保健室の先生みたいなものか・・・?
「教室の方案内するね」
「おう、頼む」
教室の方へと到着するとひまりちゃんが扉を開ける。
やや広めの教室には5席という割に合わない机が並んでいる。
「あんまりいないんだな・・・」
「うん、でもみんな仲良いんだよ」
ひまりちゃんは嬉しいような哀しいような表情をしていた。
この時はひまりちゃんが抱えていた事情など全く分からなかったしあったばかりで深入りするのも
気が引けたので理由を何も問うことなく終わったのだが。
・・・そして事情を知ったのはしばらくあとのことになる。
それから少しの間があって・・・
「ハヤト君ともお友達になりたいな」
「お、おう。俺で良かったら」
あんな人間嫌いしてたのに俺はあっさりそんな返答をする。
人間じゃないからなのか、それとも可愛らしい笑顔に負けたのか。後半だったら俺の今までの
人生ってなんだったんだという話だが・・・。
「ありがとうーじゃあ次は寮の方案内するね、ハヤト君疲れてない?大丈夫?」
「俺は大丈夫だよ。ひまりちゃんは?」
「私も平気だよー」
「どうした?」
じっと俺をみたあととびっきりの笑顔をつくる。
「名前呼んでくれたから、嬉しい!」
些細な事で喜んでくれたのか・・・なんだか可愛らしいなと俺の方も照れはじめたところで
再び足元に痛い感覚がまわる。
見るとやはりネズミがいた。ネズミの仕業だった。
「ちゅうたろうだめだよーー」
ちゅうたろうは忠告された後再びひまりちゃんの肩にのせられる。
しかし機嫌が悪そうにまたそっぽを向いている。
・・・俺にはネズミの言葉はわからないがひまりちゃんの事が好きなんだろうなと感じた。
ー
寮は学校の直ぐ後ろ側にあり学校以上に大きくこちらの方が
むしろ学校なのではないかと錯覚してしまう。
「いこーか!」
ひまりちゃんは何故か先ほどよりハイになっている。
この子はおそらく明るくて元気な女の子だろう。
「おお。うん?なんかいいにおい・・・」
「琴音ちゃんかなー。ごはん作ってくれるってっき言ってたから。
調理室行ってみる?」
「お、おう」
1階の奥の方に調理室があり。確かにいいにおいはここからだ。
ひまりちゃんが扉をあけると更によいにおいが広がり、料理をしている
女の子の姿が・・・・ネコ耳!?
本物のネコ耳なのか・・・?
「にゃーひまりちゃんおかえり~」
「ただいまー今日はなにを作ってるの?」
まるで親子の会話のようだった。身長的に見てもネコ耳の女の子の方が
随分高い。
「ハヤト君もいこー」
それからひまりちゃんは優しく俺の手を握った。
女の子の和らい感覚が伝わり胸が高鳴ってしまう。
意外と大胆な子だな・・・とこの時は思ったがそれも勘違いだったのだ。
「は、初めましてハヤトと言います」
「琴音です、よろしくお願いします」
ネコ耳の女の子と向かい合い挨拶を交わすと
丁寧なあいさつをふんわりと優しい物腰で返してくれた。
琴音さん・・・癒しのオーラがすごい。あとネコ耳もすごい。
「ハヤト君のご飯も作ったので食べてくれると嬉しいです・・・。あーえと
お口に合うかわかりませんが」
「ありがとうございます、あ、敬語じゃなくていいですよ」
「あ、ありがとにゃ・・あっ」
琴音さんは何故だか慌ててしまう。そしてネコ耳もたれてしまう。
うん・・・どうしたんだろうか?
「ごめんにゃ・・・敬語じゃないとネコ語が出てしまうにゃ。
大丈夫かにゃ?」
些細な事だけれど琴音さんにとっては気にしていたこと
なんだろうな。むしろネコ語って可愛らしい個性だと思う。
「全然かまいませんよ・・・・」
「ありがとにゃ、・・・・ハヤト君も敬語じゃなくてもいいにゃ」
それから琴音さんも安心したのか笑顔になってくれる。
ー
俺とひまりちゃんで手伝って料理をテーブルへと運び
3人+1匹のネズミで食事を始める。ちなみに席は琴音さんとひまりちゃんが隣同士で俺が向かいに
座る形だ。
料理はとても美味しそうなシチュー。
やっぱりネズミが好きなのはチーズなのか。ひまりちゃんの横で大きなチーズを頬張っているネズミを
少しだけ見やる(あんまり見過ぎると攻撃されそうだから辞めておく)
異世界も共通なんだな。
さて俺もシチューをいただこうと一口目を口に運び。確信した。
「うまいな・・・!」
姉も良く料理を作っていたがそれとはまた違う良さがある。
なんだろうこの優しさが溢れる料理は。
「ありがとにゃ、お口にあってよかったにゃ」
「すごいな、琴音さん・・・」
「いつでも作るにゃ」
こんな会話をすると付き合ってるかのようだ。・・・ってなにを
考えているんだ俺は。照れてしまいながら琴音さんも見ると琴音さんも
同じ状況だった。
「あ、ひ、ひまりちゃんおかわりいるにゃ?」
「食べるーー」
既にからっぽになってるひまりちゃんの容器を見て、琴音さんは
チャンスとばかりにその場から去る。
それにしても食べるペースがはやいな、しかしわからなくもない。
「琴音ちゃんの料理は優しい味がするよね」
「そうそうまさにそんな感じがしたよ。ひまりちゃんと琴音さん仲が良いんだね」
「うん!琴音ちゃんは大事なお友達だから。私最初に此処に来た時・・・・」
俯き加減でどこか懐かしそうに何かを打ち明けようとしたところで
2杯目のシチューが運ばれてくる。
会話の続きが気になるとこだが・・・
「ありがとう!おいしそうー」
「どんどん食べてにゃ」
2杯目をいただき始めたひまりちゃんがそれ以上続きを語ることは
なかった。
「ハヤト君ももし良かったらおかわりしてにゃ」
「おう・・・ありがとう」
琴音さんは気持ちを切り替えてきたのか
さっきの照れたような表情はもうなく暖かい笑顔が戻っている。
ー
夕食会を終え
琴音さん、ひまりちゃんに部屋まで案内してもらった。
「琴音さん、ひまりちゃん今日はありがとうな」
「困ったことがあったらいつでもいってね」
「・・・私も力になるにゃ」
快く頼もしい事を言ってくれる二人に心底安心してしまう。
「ありがとう、じゃあまたあしたな」
部屋は広々した空間では無かったが生活するには充分なモノだった。
長い道のりで疲れた身体を休めようとベッドに寝転がろうとしたが
ふと思いだってがらりと窓を開ける。
俺はもう一度実感したかったのかもしれない。
「はぁ、俺ホントに異世界に来たんだな」
遠くの方に山が見えた。先程大きな物音がした原因の場所だ。
俺が住んでたものとなんら変わりもないようなものだった。少し変な感覚に襲われそうになる。
あんなところにクマちゃんという子がいるのか?きっと修行に出てるくらいだからこわもての女の子なんだろうな。
しかしこの世界の方が空気が澄んでいる・・・気がする。
窓をしめたところで風呂に入ってないことに気づく。
念のため部屋を確認してみるがそれらしきものはない。寮内にあるのか?
ひまりちゃんに聞けばよかったな。今から聞きに行く手段もあったが何度も行くと申し訳ないかな。
困ったことがあったらいつでもいってね・・・か。
2階は俺、ひまりちゃん、琴音さんの順番で部屋が並んでいるらしい。
3階は誰が住んでるのだろうか。クマちゃん・・・かな?
さっきも気になったけれどクマちゃんって苗字なのか、それとも名前?
それはおいといて・・・来てしまった。ひまりちゃんの部屋の前に。
軽くノックするとすぐに戸をあけてくれた。
「ハヤト君?遊びに来てくれたの?」
「いやえーと風呂の場所聞いてなかったから」
「あ、そういえばそうだった!ごめんね」
「いやいや謝らないでいいよ」
「ありがとうー。じゃあ行こうか」
案内をしてもらっている途中でひまりちゃんが
時折ふらいついてるのが気になった。
「大丈夫か?」
「・・・大丈夫だよ」
言葉とは裏腹にひまりちゃんは相当無理して笑顔を作っているように
見えた。やはり疲れてたか。悪いことしてしまったな。
このまま部屋へと戻る手段も考えたが・・・。
近くにベンチがあるのに気付いた俺は休むことを提案する。
「ベンチで少し休もうか」
「うん・・・」
しかしこの選択が間違っていた
ベンチで休んでいると元気になるどころかどんどん体調が悪化してしまっている。
一体どうしちゃったんだ。
「大丈夫か・・・?」
ひまりちゃんは決意をしたように泣きそうにになりながらも打ち明けてくれた。まるで自分の特性が
好きではないかのように。
「・・・私吸血鬼だから。人間の傍にいるとどんどん苦しくなっちゃって。
お薬で抑えてたんだけど。・・・・ごめんね」
「薬?薬は持ってるのか・・・」
と言ってから気が付く。きっと部屋にあるのだろう。
持ってきていれば対処をするはずだ。・・・俺が急に呼んだから忘れてきちゃったのかもしれない。
「・・・血を吸うと元気になったりするのか?」
責任感もあったけれどなによりひまりちゃんがつらそうに
しているのが俺は耐えられなかった。
「うん・・・」
「じゃあ俺の血を吸ってくれ。それで元気になるんだろ」
「えっ、だめだよ・・・!それはだめ・・・ハヤト君の身体に何か起きる
かもしれないんだよ」
本気で心配してくれているようだった。知り合ったばかりの俺を心配してくれるのか。
だったら尚更・・・。
「それでもいい」
ひまりちゃんはとうとう泣いてしまい、泣きながら俺の腕を掴む。
「ハヤト君の手温かくて優しかった」
それからゆっくりと優しく腕から血を吸っていく。
不思議な事に痛みはほとんど感じなかった。