第8話「新たな出会い」
湖に落ちた青葉君の、運命や如何に。
どうぞ、お読みください('∀`)
「ん………ゲホッゲホッ……うぇ……」
目を開けると、まず、暖かな太陽の光が目に入った。全身はずぶ濡れになっているが、気温が高いので、服は干していれば、すぐに乾きそうだ。そして、水を吸って重くなった服を煩わしく思いながらも、ゆっくりと起き上がる。
五体満足であることを確かめた後に、現在の状況を頭の中で整理しながら周りを見渡してみる。
青葉はさきほどまで湖の畔で寝そべっていた様だ。すぐそばの湖は太陽の光を反射した水面がキラキラと光っていて、神秘的な美しさを醸し出している。
「確か俺は、地面に叩きつけられる瞬間に、何かにぶっ飛ばされて……それから……湖に落ちた…?」
湖に落ちたまではギリギリ覚えているが、そこから先の、記憶が無かった。湖の畔に寝ていたということは、誰かが引き上げてくれたのだろう。たった今気付いたが、側には御丁寧に、焚き火まで焚かれていた。だが、周りに人の気配は無い。
「誰かが助けてくれたんだと思うけど、誰もいないな……誰だか分からないが、待っていれば帰ってくるか……取り敢えず、濡れた服を乾かさないと。」
青葉は服を脱ぎ、近くの木の枝に掛けておいた。とはいえ、全裸ではない。パンツは履いている。流石に、どこともわからない異世界の地で、助けてくれたのが男か女か、さらに人間であるかも分からない状態なので、パンツだけとはいえ、全裸よりはマシかと思ったのだ。
「異世界……来ちゃったんだよな。なんか、現実感はないけど、これからの事を考えると、ワクワクもするな」
焚き火で冷えた身体を暖めながら、青葉は考えた。まだ見ぬ異世界の人間や、街。リンに存在すると言われた魔法のことや、この世界で、どう暮らしていくべきかについてだ。そして、結論。
「取り敢えず、助けてくれた人?と合流してから考えよ。時間はたっぷりあるし、何とかなるだろ」
青葉はポジティブだった。
そんな事を考えながら四半刻ほど経っただろうか。そろそろ服も乾いたかなと思い、木に掛けておいた服を取ろうと、湖に背を向けた瞬間、「ザバァッ」という何かが湖からでて来た様な音がした。青葉は急に聞こえた音に驚き、反射的に湖の方へ振り向いた。
「おぉ!! やっと起きたか!」
そこには、先程まではいなかったはずの女の子がいた。彼女は青葉を見つけると、赤い瞳を、まるで獲物を見付けた獣のように光らせると、瞬時に距離を詰め、飛びついてきた。
当然ながら、不意打ちのように飛び付かれた青葉は、避けることは出来ず、受け止めるような形で、彼女もつれ合うようにして地面へと倒れた。
「痛っ!?何なんだよ一体……」
青葉が腕の中にいる女の子を確認すると、なんと彼女は全裸であった。青葉はまだ服を着ていなかったため、肌越しに伝わってくる彼女の柔肌に、心臓がドクンと跳ね、思考は停止していた。
そんな青葉の反応を露知らずに、彼女は抱き着いていた力をさらに強め、「青葉〜♪ 青葉〜♪」と上機嫌にスリスリと肌を擦りあわせてくる。まるで猫のようだ。
「……っ!?はっ……離れてくれっ、頼むから!!」
「うにゃあっ?!」
彼女を青葉は強引に引き剥がし、運良く傍に落ちていた自分の学ランを掴んでら
湖のなかに入っていたであろう彼女は、一度身体を震わして、軽く水を飛ばすと、青葉に見られていることを歯牙にも掛けていないかのように、裸体を隠すこともせずに、近寄って来る。
ついまじまじと身体を見て、見とれてしまっていた青葉は、今更の様に顔を手で覆った(だが、指の隙間からチラチラと見ている)が、既に見てしまった少女の裸体が頭から離れない。
「ちょっ!? どなたか存じませぬ事では無いと言いますが!? 服を着てくりゃりませんでしょおか!?」
青葉、既に言葉遣いが、おかしくなっており最後の方など、噛み噛みである。動揺が隠せていない。
それもそのはず、青葉は生前、彼女などできず、風俗に行く度胸や金の余裕は、無かった……つまり、童貞である。目の前の、美少女は童貞には、刺激が強すぎた。
青葉の言葉が通じたのか、彼女は立ち止まったが、何か考えるように自分の身体を見下ろした後に、顔を上げて言った。
「服が……無い。最初から……着てなかった…」
「何でだよ!? 取り敢えず、これでも着ててくれ!!」
青葉は仕方なく、木に掛けておいた自分の学生服を彼女に放った。そのまま背を向け、彼女が着替えるのを待つ。
彼女は素直に、服を着出したのか、着替えている気配がする。その時に聞こえる衣擦れの音が、彼女が全裸出会ったことを思い出させ、今更になって青葉の劣情を催した。
そのため、いても立っても居られなかった青葉というと……
「1……3……7……11………」
彼女が着替えている間、ずっと素数を数えていた。
「もう…いいよ?」
しばらくして、彼女は服を着終わったようで、声をかけてきた。その声に、素数を数えるのを辞めた青葉は振り向いたが、彼女の姿を見るや、再び背を向けたくなった。
全裸に学生服(上着)だけを羽織った彼女の姿は、大事なところは全て隠れているものの、ある意味全裸よりもエロかったのである。
「大丈夫……服は着ている…………全裸じゃない……! 俺は何も思わないし、思ってない…!!」
傍から見ると、目を泳がせまくっている青葉は全く大丈夫では無かったが、それはこの際触れるべきではないだろう
「それで、君は誰だ? そう言えば、俺を湖から引き上げたのも、多分君だよな? あと、名前は? 此処は何処なんだ?」
「……質問が多すぎる……一つずつ……」
「ごめん!ちょっと焦り過ぎてた。今まで色々あったから……(全裸とか……)」
「大丈夫……まず私の名前だけど、存在しない。リンって言う人は、『隕石の核』と呼んでいた……」
まて、今隕石の核と言っただろうか……そして青葉が名付けた、『リン』という名前……
「君が……あの隕石の核だって? だって君は、どう見ても人間じゃないか!?」
「その認識であってる。この場所に落ちたあとに、リンから人間としての身体を貰った。隕石として永い時間を宇宙で過ごしている間に、私という魂が宿っていた……みたい。
リンが言っていた……これは青葉を助けたお礼だって……これからも青葉を助けになって欲しいって……」
「お礼? 俺を湖から引き上げてくれた事か? そう言えば、まだお礼を言ってなかったな。助かったよ。君が助けてくれなかったら、せっかく転生したのに、また死ぬ所だったよ。」
「湖から引き上げたのは私で間違いない……けど、それは身体を貰ってからのこと……。
リンから感謝されたのは、宇宙から落とされて、ほとんど生存する見込みが無かった貴方を、地面に当たる瞬間にここまで飛ばしたこと……」
言われて思い出した。確かに地面に当たりそうになった時に、何かの力で吹き飛ばされた覚えがあった。
「アレは、君だったのか!?」
ということは、青葉は彼女に、落下した時と湖から引き上げてくれた時の2回分、命を救われた事になる。
「肯定。……でも、感謝は必要ない。私も助けてもらったから。宇宙空間で、私という自我が出来た時には、既にあらゆる鉱物がまとわりついていて、身動きが取れない状態だった。それを開放してくれたのは、貴方達。お互い様……。」
「……俺自身は何もしてないんだけどな……俺はリンに体を貸して、ただ見ていただけだ。それに、隕石を破壊したのだってこの世界を救うためだったし……」
「……結果が重要。」
彼女は、淡々と言葉を口にしているが、じっと見つめてくる赤い瞳からは、青葉に変な遠慮や感謝をされたくないという思いが伝わってくるようだった。
彼女を寄越してくれたリンに、僅かながらも感謝した(だが、宇宙から落とした事は、許していなかった)。
2人は湖の畔で、見つめあう。そして……
「君の名前と服、どうしよっか?」
「……」
これからの事を考える前にすべき事がまだあった様だった……
この話で、第1章、第1部が完結って感じです。
隕石の少女の名前…どうしよ…