ご飯は暫く御預けのようです
大変お待たせしました!
如何に朱璃を可愛く書くか考える、今日この頃です。
2人は森の中を…正確には『青葉が吹き飛ばされて来た道』を進んでいた。
周りには、青葉がなぎ倒した木が散らばり、さらに地面がえぐれており、とても歩き辛い。不可抗力とはいえ、森を破壊してしまったことを、青葉は少し申し訳無く思った。
「湖の所から結構進んできたと思うけど、何も無いな。動物さえ出てこない。たまに鳴き声が聞こえたりするから、森の中に居ない訳は無いはずだけど……」
「多分、 私が降って来るのを察知して逃げ出したんだと思う……獣は……敏感。」
「あ〜なる程ね。まぁ、あんな巨大な隕石なら、人間だって逃げ出すだろうし、動物達なら尚更だろうな。」
獣が居ない理由は分かったが、現状で食料の選択肢は、森に生っている(ハズの)木の実やキノコ(どれが食べれるか分からない)くらいしかなくなった。
(……耐久力強化で、毒も大丈夫ならいいんだけど……)
青葉はそんな事を思ったが、出来れば危ない橋は渡りたくないというのが本心である
そんなこんなで、森の中をしばらく歩いていた二人の所へ、近づいてくる一団があった。青葉たちもすぐに彼らの存在に気付いた。
「……何の集団だ?」
彼らの姿は甲冑であり、腰には剣。身長や体格はばらばらで、兜は付けておらず、顔を出している。青葉達から見える人達だけでも、髪や瞳の色、肌の色や質が違い、果ては顔がタヌキや、イノシシといった、所謂獣人など、いずれも屈強そうな男(?)たちが、同じ甲冑に身を包み、列をなして、進んできていた。その数はおよそ三十人ほどだろうか。そして彼らもまた、青葉達の存在に気付いた。
彼らは青葉達の前で立ち止まると、先頭にいたスキンヘッドの男が一歩前に出てきた。察するに、彼がこの団体を率いているのだろう、と青葉は思った。
「俺たちは、『クルファナ王国』、『王雷≪オウライ≫騎士団』所属、『第一混合偵察部隊トルヴェロス』だ。ちなみに俺は、この部隊の隊長をしている『ヴァン』だ。苗字はない。俺は貴族じゃないからな。」
(言葉がわかる!!)
青葉は驚いた。耳に響く声は全く知らない言語のはずなのに、言葉が日本語に翻訳されて聞こえてくるのだ。隣にいた朱璃のほうは当然のように、彼の言葉を理解できているようで、「クルファナ王国はこの世界の首都……の一つ」と、青葉にしか聞こえないような声で、補足説明をしてくれるほどだ。
「それで、お前らはこんなところで何をしている?」
「え~と、俺たち旅をしていたんですが、この森の中で迷ってしまって……」
ヴァンに問われ、青葉は適当に考えた理由を答えた。正直に言ったところで、信じて貰えるとも思わなかったし、現状で彼等が敵ではないと断定も出来ないからであった。
「……なる程な。お前達が知っているかは分からないが、この森はA級指定のかなり危険な森なんだぞ?今は魔物の気配が無いが、普通に入るなら、俺達の様に装備を整え、少なくとも10人以上は場慣れしている奴が必要になるはずだ。
見た所、武器もないようだし、防具も付けていない。この森で、そんな軽装をしてんだから、最初にお前らを見たときは、人形の魔物かと思ったぜ。」
「……運が良かったんですね…」
食料を求めて、森をさ迷い、魔物…?を避けるどころか、食用にするために探していたとは、言えない……
話の流れを変えるために、青葉も気になっていたことを彼等に質問してみる。
「ところで、貴方達は何をしに来たんですか?あと、森から出るにはどっちに行けばいいでしょうか?出来れば街や村が近くにあれば教えて頂きたいのですが?」
「……あー……まぁ、いいか。極秘とは言われてないし…
まず、俺達の事だが、さっき偵察部隊って言ったろ?大まかな目的はそれだ。信じるかはわからんが、なんでも、世界が滅びかけたらしくてな?滅びは回避されたらしいんだが、その事に大きく関わってものがこの森にある…らしい」
いきなり世界の滅びとか言われたが、青葉達には心当たりがあり過ぎる…というか、十中八九関わったものというのは、青葉達の事だろう。バレると、色々厄介そうだと、青葉は思った
「らしいって事は、誰かが貴方達にその指示を出したんですよね?例えば…預言者…みたいな人が。それも、騎士団を動かせるくらいの地位にいる人が」
「あ〜まぁ、その通り何だが、世界が滅びかけたとか言われて、もっと驚かないか?」
「ほら、世界だって、滅ぶ時は滅びますよ。それに、わざわざ貴方達がこの森まで来ているんですから、信憑性はあるかなって」
ヴァンが少し訝しがっているようだったので、青葉は適当に誤魔化しておいた。
ヴァンはまだ腑に落ちないような顔をしていたが、「まぁいいか」と、話を再開した。
「大体はお前が言う通りだ。預言者…なんて大層な名前は持ってないがな。今回の偵察も、その方の独断によるものだ。全く、俺らも暇じゃあ無いんだがな……困ったじゃじゃ馬娘だ…」
娘…?と青葉が思ったとき、「だぁ〜れがじゃじゃ馬娘だぁ!!」と、一つの声が響き渡った。
その声の主は、何処からとも無く現れると、残像が残るほどの速さでヴァンに近づくと、彼を思いっ切り蹴っ飛ばした。
「はっ?」
青葉は全く反応出来ず、蹴られたヴァンはというと、「うごぉあっ!?」という声とともに、蹴られた先にあった樹に頭から突っ込み、沈黙した。他の騎士も余りにもいきなりのことに、呆然としている
「全く。アンタ達が森に入ってから随分経つのに、定期報告もないし、もうすぐ日も暮れるというのに、戻ってきやしない。挙句の果てに、こんな所で道草食って、私の悪口を言っているなんて、いいご身分ね。待ってるのが暇過ぎて、来ちゃったじゃない。」
声の主は女性であった。それも、かなり若い。青葉と同い年くらいだろうか?いまは青葉達に背を向けており、顔は見えないが、腰まで流れる輝くような銀髪が、素直に綺麗だと感じた。
彼女がヴァンを蹴った本人だろう。「ふぅ〜」と、一息つくと、姿勢を正し、青葉達の方へと振り返ってきた。
「あら?貴方達…誰?」
(気付いてなかったのかよ!?)
こうして青葉は、この先長い付き合いになる『彼女』と、初対面を果たしたのであった。
「……青葉、ご飯は……まだ?」
「…もうちょっと我慢してね」
「………」
トルヴェロス→→トルトニス(ラテン語で雷)と、ヴェロス(ギリシャ語で矢)を合わせた造語です