説得したらやる気出された
(これやばいんじゃね?)
そう思ったときには時すでに遅し。ハージェノの両鍬が俺に襲い掛かる。後ろから俺の名前を呼ぶニーナの叫び声が聞こえる。すでにハージェノの鍬が俺の両脇に回り、そこから一気に力が籠められ俺を切断しようとした。ハージェノの鍬が交錯した瞬間俺の姿はそこから消滅した。
(・・・・あれ?何が、起こったんだ?)
挟まれる瞬間目を瞑っていたためか、何が起こったのか理解できない。俺は切られて死んだのでは・・・?恐る恐る目を開けると、目の前にはカインとアルフォンスがの後ろ姿があった。ハージェノはというと俺から、というよりも俺たちからずいぶんと離れた位置にいる。いったいどういうことだ?すると、後ろからため息とともにニーナの声が聞こえた。
「危なかった~。ちょっとナツキちゃん!早く逃げなきゃダメでしょ!あとちょっと死ぬところだったよ!?なんとか瞬間移動で回避したからよかったものの・・・。」
「テレポート!?ニーナそんなのも使えるの!?」
「まあね、これでもわたしはランクBの魔法使いなのよ?」
そういって胸を張るニーナ。二重の意味で胸が張られている。けしからん。そんな俺の考えをよそにニーナは真剣な表情に戻る。
「いい?あいつはかなり強い魔物なの。私たちなら倒せるけど、簡単に、とはいかない。正直苦戦すること必至ね。だから、ナツキちゃんはヘモイン達と一緒に後ろに下がってて。あいつは私たちが倒すわ。あなたたちのことはリューリクに守らせるわ。」
ニーナはそれだけ言うとアルフォンス達のもとへと戻っていった。向こうではニーナが戻ったことで前衛2人、後衛2人の陣形が出来上がっていた。俺は言われた通りヘモイン達のように後ろに下がっていた。っていうかあれ?リューリク達はどこに行ったんだろう?そう思って探していると、馬車を中心に俺たちとは反対側で、武器を持ち、ハージェノの方を向いてはいるものの、明らかにおびえた様子である。そんな様子では俺を守ってもらえないじゃないか。ちゃんと守ってもらえるように言いに行かなければ。
「おい、リューリクさん、なんでこんなところにいるんだよ。あんたら護衛のためにいるんじゃないのかよ。」
「・・・無理だ。あんな化け物、倒せるわけがない・・・。」
がたがたと震え、今にも剣を落としそうである。どこまで頼りないというのだ・・・。こんなんじゃ俺たちが危ないじゃないか!どうするんだ!仕方ない、こいつに自信を与えるしかないか・・・。
「大丈夫だ、リューリクさんならできる!あんなの大したことないって!ほら、隊長とかカインでさえあれだけ戦えてるんだぜ?」
俺が指さすその先ではハージェノに対し全く引かず、というか、おそらく俺たちのもとへ注意を向けさせないためだろう。圧倒的手数と素早さで翻弄し、自分たちにもダメージが当たらないように注意しつつ、ちょっとずつダメージを与えている。前後の連携もばっちりである。なんかむしろこっちのほうが化け物じみてる気がしてきたな・・・。リューリクも同じことを思ったのか、もう顔面真っ白である。
「・・・俺たちじゃ・・・誰も守れない・・・・。所詮ただの凡人なんだから・・・。」
その言葉にカチンと来た。
「お前ふざけんなよ・・・。」
「え?」
「ふざけんな!凡人だから勝てないってそう言いてえのか!?いいか!隊長もカインもニーナもケビンもな、お前が見てないだけで毎日ひたすら訓練したり、連携の練習したり、作戦を考えたり、毎日お前らの何倍も頑張ってんだよ!それを凡人だからの一言で片づけるんじゃねえ!誰も、何も守れなくても自分の誇りくらい守りやがれ!」
リューリクは俺をまっすぐに見つめ、しばらく何かを考えるように目を閉じると、再度目を開けたときには、その目に先ほどまでのような弱気な心は見えなかった。
「まさか、君みたいな子に諭されるとはね・・・。確かに、俺が間違ってたよ。最初からなんでもできる人なんていない。努力しなければ絶対に何も成せないんだ・・・。俺はそんな大切なことを忘れてしまっていたのか。えっと、たしかナツキさん、だったかな?ありがとう。おかげで目が覚めたよ。」
リューリクは立ち上がると隊員の方へ向き、声を張る。
「皆!これから私はあの魔物、ハージェノと戦う!協力できるというものはついてこい!もちろん恐れるものはここに残て構わない。そのような者はいても邪魔になるだけだ。いいか、死ぬ覚悟のある者のみついてこい!」
そういってリューリクはハージェノへ向かって走り出した。隊員たちはしばらくざわざわとしていたが、しばらくして静かになった。そしてそのうちの誰かが叫んだ。
「隊長だけに良い格好させられるか!行くぞ!」
『おー!』
そういって全員がリューリクを追って走り出した。皆の輝く笑顔がすごくまぶしい。っておいいいいいい!それじゃあ意味ねえんだよ!俺たちを守ってくれればいいの!わざわざ向かってくれとは言ってねえんだよ!誰が俺たちを守るんだよ!
*****
こいつ異常に硬い。これまで甲殻類の魔物とはいくらか戦ってきているがこいつの硬さは異常である。剣の一振りじゃ傷一つ付けられない。ニーナの武器属性付加をかけてようやくダメージを与えられる。しかも昆虫類に最も効く火属性でなく、水属性であるというのが驚きだ。火属性では傷一つつかなかった。現在、俺と隊長で盾になり、後衛2人にダメージを与えてもらっている。最初は攻撃を避けてカウンターを与えていたがほとんどダメージに入っておらず、作戦を変更したのだ。しかし、本当に嫌になるほど硬い。
そんなことを考えていると後ろから雄たけびが聞こえてきた。
(何事!?)
驚いて振り向くとリューリク含め、護衛団の隊員がこちらへ向かってきていた。
(いやいや、なんで!?お前ら主守ってろよ!)
その時、あっちに気を取られていたためか、ハージェノの動きが見えていなかった。鍬による打撃により剣が吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
「カイン危ない!防御壁!」
すると周りに光の粒子による半球状の壁が構築され、ハージェノの追撃を防ぐ。
「カイン馬鹿!よそ見してんじゃないわよ!」
「お、おぉ。すまん。」
いやでもあれは誰でもビビるだろう。っていうか本当あいつら何してんの。
「カイン!すぐに体制を立て直せ!陣形が崩れている!」
隊長の叫び声が聞こえる。しかし、それに気付いた時にはもう遅かった。ハージェノが後ろのヘモイン達を見つけてしまった。まずいと思った瞬間、ハージェノが地中に勢いよく潜っていく。その拍子に砂が巻き上がり、俺たちの視界をくらませた。
「やっべ!ナツキ!そっちに行った!」
その声を遮るようにナツキと俺たちとの間の開けた空間で地面が爆発したかのように砂をまき散らしながらハージェノがナツキたちに対峙したのであった。万事休すである。