魔法練習したら使えるようになった
仙人みたいなおじいちゃんは俺に座るように促し、それに従って向かい合って座るとお茶を出してくれた。
「あ、ども。」
「よい。して、おぬし、名前をなんというのじゃ?」
「ナツキ。あんたは?」
「わしか?わしのことはクロじいさんとでも呼んでおくれ。」
ふぉっふぉっふぉっとあごひげを触りながらクロじいさんは笑う。なかなかに気さくな感じで割と話しやすい。
「さて、本題じゃが、ナツキ、そなたの魔法は非常に無駄が多いのう。」
「それもう聞いたよ。」
「おや、そうだったかの?まあ良い。して、それを直すために二つのことが必要じゃ。一つは集中力。」
「集中力?今までも結構集中してたつもりだったけど、これでもだめなのか?」
「ふぉっふぉっふぉっ、甘い甘い。魔法とはその程度のものではない。集中してマナを練らねば効率的な使用はできぬぞ?今はその1/10も集中できておらんわ。そしてもう一つ、これも少々集中力とにておるが、『本当に必要な部分だけに限定する』必要があるの。」
「ん?どういうことだ?」
「よいか?魔法とは体内のマナを体外へ放出し、それをエネルギーとして具現化する事で形を持つ。しかし、その形を明確に、はっきりとイメージできておらねば、エネルギーとして形を持てずに消失して無駄になるマナが増えてしまうのじゃ。例えば、ほれ。」
そう言ってクロじいさんはそこにポンと火の玉を作った。
「これの周りをよく見てみよ。周りにマナが漂っておるのが見えぬか?」
「んー?」
じーっと火の玉を観察してみる。すると、周りに青っぽいきらきらする何かがうっすらと漂っているのが分かった。
「もしかしてこれが?」
「そう、それがマナじゃ。今わしはわざとこのようにマナを無駄にしておる。ちなみにおぬしはこれよりもさらに無駄にしておるぞ?」
「まじか?!」
「ふぉっふぉっふぉっ。成長が楽しみじゃのう。そしてこれをこうすると、無駄が無くなる。」
そう言った瞬間火の玉の周りからマナが消えた。それまでよりはっきりと火の玉が見えているように感じる。
「うぉ!消えた!なにこれ!」
「良い反応じゃのう。ほれ、そろそろ魔力も回復したころであろう。一度同じことをしてみい。」
よし、と俺は立ち上がり手の上で火の玉をイメージして発動させる。ぽんと言う音がして手の上に火の玉が出現した。
「あー、確かに、まだまだ周りに無駄なマナがあるなー。」
クロじいさんに言われたように、俺の作った火の玉を見てみると、周りに先ほどのような青色の光が、明らかにじいさんのよりも広く表れていた。
「ふぉっふぉっふぉっ、よく見えておるのう。まあ、これは慣れじゃのう。とにかく、集中するのじゃ。コツをつかめば一気に伸びるぞ?」
「本当か!?よし!」
さっきの火の玉は俺のマナの1/4くらいを消費した程度だったので、もう一度できそうだ。もう一度試してみる。次はさっきよりももっとはっきりと形をイメージする。大きさ、位置、先ほど出たような無駄なマナがないように凝縮するようなイメージで・・・。
「む?ナツキよ、なかなかに良いのではないか?」
「ん?」
クロじいさんがちょっとうれしそうな声を出すから俺も目を開いて手の上を見てみる。すると、さっきとは見違えるほどに鮮明な火の玉ができていた。無駄なマナはまだあるものの、さっきまでより格段に良くなっていた。しかも、体感ではこの火の玉を作るのに必要だったマナは、今までの1/10ほどになっていた。だから、体に残っているマナはあまりさっきと変わっていない。
「おお!これなら俺でもできそう!」
「ふぉっふぉっふぉっ。成長が早くて教えがいがあるわい。今ので分かったかも知れぬが、魔法を使うためには明確なイメージが必要じゃ。だから、自分が知らない魔法や初めて使う魔法は基本的にはマナが無駄になりやすい。じゃから、誰かの使う魔法を一度見て、感覚を教えてもらい、練習する必要があるのじゃ。まあ慣れてくると次第に練習も少なくなってくるがのう。」
しばらくそこで魔法の練習を続けた。練習が終わると、火の玉の周りにはほとんど無駄なマナがなくなっていた。
「ふー、もうこの火の玉ならいくら出してもマナが尽きないな!」
「ふぉっふぉっふぉっ。なかなかの上達ぶりじゃのう。儂としても頭が高いわい。」
「クロじいさんさんきゅー。でもなんでじいさんそんなに魔法使えるんだ?もしかして元冒険者とか?」
「まあ、そんなとこじゃわい。さて、儂はそろそろお暇するでな。ナツキよ、鍛錬を怠る出ないぞ?そうすれば、また何処かで会うことになるじゃろう。」
ふぉっふぉっふぉっといういつもの奇妙な笑いと意味深な言葉を残してクロじいさんは帰って行った。一体何者なんだろうか?まあ魔法が上手く使えるようになったしいっか。




