懲りない彼等
『引き起こしたのは彼等さ』のちょっとした続きです。
Katharsis.【カタルシス】
意味:浄化
◇*◇
――カツンカツン、
寒く薄暗い先が見えない廊下をわざと足音を発てながら歩く1人のある者がいた。
その者は床に着くくらい白銀の長い髪をした丸眼鏡をかけた人物だった。
「ふんふんふーん♪」
カツッンカツッンカツン、
その人物は音のずれた鼻歌を陽気にステップを刻み唄いながらその長い廊下を歩いた。
端から見ればどこか痛い人に見えなくもない。
「……せめて音合わせてくださいよ、どうやって鼻歌で音を外すんですか」
「え、どこがだい?どこが外れていたと?」
「嗚呼成る程、アナタは御自身が音を外しているのすら気が付けない程に音痴なんですね、嗚呼神と名乗るのにもなんと嘆かわしいことか…。アナタいっそのこと神から単細胞に転職なさっては?」
「なんで!?そこはせめて人間に転職させてよ従者!」
長い廊下の先に数十枚の書類を片手に立っていた黒髪の中性的な顔立ちの泣きボクロが特徴の者は軽蔑した眼差しで神と呼ばれた白銀の神の者を見ていた。
酷いなぁと目元を押さえながら神は従者と呼んだ者が手に持っていた数十枚の書類からペラリと1枚抜き取り、廊下に置かれてある蝋燭にそれを翳した。
「ちょっと燃えたらどうしてくれるんですか」
「だいじょーぶだいじょーぶ、燃えない燃えない」
そう言って神は笑いながら蝋燭の灯りで浮かぶ文字を読む。
そうして神は顔をしかめた。
「…懲りないねぇ人間も、世界も、ナニもかも」
「嗚呼、その書類は確かこの間滅亡した筈の世界の物でしたね」
「懲りずに復活を遂げるとか、あーあ誰か1人か2人生き残りでもいたのかねぇ」
これだから人間も世界も厭きないけどシツコイよね。
ハハハと笑い神は手に持った書類を従者の持つ書類の上に戻す。
「今度はどうなさいますか?」
「うーん…、まあこれからのことは私の担当じゃないから担当に任せるわ」
「………担当はあの方でしたね」
「そーそー、あの全身タイツの奴ね」
「名前は存じ上げませんが」
「蔭、だよ。アイツは存在すら蔭だから」
アイツが一番神様らしいことをしているのにねぇ、やっぱり世の中は誰に対しても理不尽極まりないよ。
そうボヤきつつ神はまた長い廊下を歩き出す。
「ねえ従者は知ってる?」
「何をですか」
「滅んだ筈の世界が復活を遂げることを何て言うのか」
不意に問われたその問いに従者は眉を潜めつつ答える。
「普通に復活ではないのですか」
「ううん違うよ」
神はその答えはありきたりだと肩をすぼめて従者に言った。
「私達は滅んだ筈の世界が復活を遂げることをね、その地が新しく生まれ変わる、または穢れを祓い綺麗になるという意味を込めて“浄化”と言うんだ」
「浄化、ですか」
「そっ浄化。でも実際のところはあの蔭が全部後始末やっちゃってるんだけどね」
「つまりぶっちゃけるとあの全身タイツさんが世界を復活させていると言うことですか」
「遠回しに言えば、の話だけど」
それ考えたらアイツの気分次第で滅亡したまま消え去る世界とかそれこそ不憫だわ、とケラケラ笑いだした神に従者は引きつつ全身タイツのもう1人の神を思い浮かべた。
神はそんな従者を尻目にこう言った。
「ま、その世界を壊すのは毎回私なんだけど」
笑う神の丸眼鏡の奥の瞳は見えなかった。