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side:彦星

「なんでなん!?なんで七夕の日にバイトなんか入れるん?!」

詩織の高い声が俺の心にグサリと針を刺す。詩織は俺の腕を固く掴んで離さない。

「しゃあないやん。先輩がどうしても抜けられん用事があるってゆうたんやから」

「じゃあウチはどうなるん!?達彦のアホぉ!!」

「うるさいなぁ」

気怠い雰囲気を装いながらも、内心俺は申し訳ない気持ちで一杯だった。詩織が怒るのはよく分かる。七夕は俺達にとって、クリスマスやバレンタインよりも大切な行事だった。

「もぉ知らん!!達彦なんて、バイト中毒になってまえばええんや!」

詩織は捨て台詞を吐き、バッと身を翻し、走り去って行った。

「なんや、バイト中毒って……」

俺は頭を掻きながら、はぁ〜と長い溜め息をついた。もうどうしようもない。取り返しがつかないのだ。



俺、星野達彦と姫川詩織が初めて出会ったのは、丁度七夕の夜だった。と言っても、合コンでなのだが。しかし知り合って間もない詩織はいきなり目を輝かせて言った。

「ウチら、織姫と彦星やね!」

始め、詩織が何を言っているか全く分からなかった。首を傾げていると詩織は続けた。

「よぉ見て」

そう言って詩織は鞄から小さなメモ帳とボールペンを取り出した。そして二人の名前を書き込む。

「星野の星と達彦の彦で彦星。姫川の姫と詩織の織で織姫」

言い終わってからニコッと笑った詩織の顔に俺はやられた。何だかんだで2週間後、俺達は付き合う事になった。そういう理由もあって、七夕は俺達にとって欠かせない行事なのだ。



「眞美がゆうてたで。詩織が泣き付いて来た、ってな」

ファーストフード店で玉木がポテトを頬ぼりながら言った。玉木は俺の友達で、詩織の友達の眞美と付き合っている。詩織が眞美に相談しても俺に筒抜けという訳で、もちろん逆もそうだった。

「眞美がな、星野君はアホやなぁ、って毒吐いてたで」

玉木は面白そうに軽く笑う。それが気に食わなかったので、俺は玉木のナゲットを奪った。

「どいつもこいつも、やかましいわ」

「そう言ってもな、詩織ちゃんの気持ちは分かるよ」

「しゃあないもんはしゃあない」

「たつ、そんなゆうとって詩織ちゃんに愛想尽かされても知らへんで」

玉木はジュースに手を伸ばしながら、もう片方の手で俺を指差し忠告した。俺はドキリとしながらも、表面上は平静を保った。

「しっかし、おかしな話やな。七夕っちゅうもんは、織姫と彦星が会えるって日なのにな」

俺は意地悪そうに笑った玉木をキッと睨んだ。





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