けものつかいとゆうしゃたち
世界に突然暗闇が襲う。
魔族界から、魔王という存在が人間界を征服せんと、魔物達を引き連れて現れたのだ。
魔物達は各地に散らばり、人々の生命、生活を脅かしていく。
その現況に立ち向かう為、人間達の中から選ばれし能力を持つ者達を集め、魔王討伐へと派遣させた。
メンバーは、回復魔法に長けた異世界人の勇者と不器用だけど力強い剣士、攻撃魔法ピカイチの魔法使い、そして心優しい獣使いの四人だった。
剣士はともかく、獣使いも、女だてらに力が強くHPも高かった。
二人を前衛に、勇者と魔法使いが補助に回りながら敵に攻撃をする。
強い魔物は、獣使いの能力で追い払う。
獣使いの能力は追い払うだけでなく、自分より弱い魔物は即座に服従させ、強い魔物も弱らせる事で従わせられる。
そうして供を増やし、より強敵への攻撃力にしていた。
そのお陰で勝てる相手も増え、得られる経験値も増え、旅が順調に進む。
「アンタの能力、便利ね」
人を上から見下ろす癖の有る魔法使いも、獣使いの能力に感嘆した。
「そうだよな、ちょっとチートだよな」
敵わない相手も追い払える獣使いの能力に、勇者も嫉妬した。
「……今後も、頼む」
言葉を使えたのかと思うほどの脳筋剣士も、獣使いを頼りにした。
みんなの言葉に、獣使いは嬉しそうに微笑む。
みんなの役に立てて、嬉しい、と。
勇者パーティーは絶妙のコンビネーションで、順調に旅を進めていった。
旅が進むにつれ、仲間達の実力は、天井知らずに上がっていく。
最早、魔物を追い払ったり服従させずとも、敵を蹴散らす力が有った。
魔物使いのHPや攻撃力もそれなりに高い方ではあったが、元々戦闘向きの職業ではない。
お荷物になっていく獣使いに、仲間からの風当たりが徐々に厳しくなる。
「獣使い! さっさと宿を取りに行ってきなさいよ!」
「獣使い! 薬草補充しとけ!」
「……これ、下取りに出しとけ」
獣使いは、自分の実力が仲間のそれと比べて低すぎる事を知っていた。
故に、何を言われてもニコニコと、メンバーの雑用係として頑張った。
その態度が、メンバーを更に助長させる。
「獣使い!トロトロしてんじゃないわよ! 愚図が!」
「獣使い!防具下取りに出しとけっつっただろ?! チッ! 使えねーな!」
「……邪魔だ」
終盤には、獣使いに対する仲間達の態度は、奴隷に対するものに酷似していた。
使えなければ、他の人間と交換する。
その手の言葉も頻繁に使われてた。
獣使いは涙を堪え、仲間達に尽くしていた。
「……やった! とうとう!倒したぞ!!!」
勇者パーティーはとうとう魔王を倒し、世界の平和を取り戻した。
全ての魔族、魔物達は魔族界へと逃げ帰る。
もう、魔物に怯え暮らす人もいない、そんな時代の到来に、全ての人が歓喜した。
活躍した勇者を中心に、剣士と魔法使いは各地で祭り上げられ、いつの間にかパーティーは解散していた。
* * *
──世界に平和が戻り、数年──
獣使いは、人材派遣会社に就職していた。
己の能力と、持ち前の我慢強さを評価され、順調に出世し、数多の新人を優良人材に育て上げる敏腕指導員として活躍していた。
そんな噂を聞きつけたのか、獣使いの元に、かつての仲間達が集まってくる。
その出で立ちは、過去の栄光を微塵も感じさせない、襤褸に包まれていた。
「……やれる仕事が無い」
脳筋剣士の力は、武器で相手を倒す事にのみ有効だった。
荷物を運ぶ仕事では荷物を壊しまくり、破壊作業では、壊してはいけない所まで壊してしまうらしい。
「……人に使われたくないわ」
高飛車魔法使いは、人に物を教える才能が皆無だった。
魔術研究などでも、雑用をする気も、人の命令に従う気も無い為、即クビになる。
「……どうしよう」
勇者に至っては、異世界から来た為、字の読み書きが出来ない。
今更誰かに習うのも、彼の栄光が、プライドが許さなかった。
──彼らには、平和な世界で生きていく能力に欠けていた。
獣使いは満面の笑みを浮かべ、三人を見つめる。
「やっと、お役に立てる時が来ましたね」
獣使いは、自分の力不足が辛かった。
メンバーが辛く当たるのも、全て、己の不甲斐無さのせいだと、涙した。
足手纏いの自分を連れた旅、決して容易くは無かっただろう。
それでも、みんなは無理にメンバー変更しようとせず、獣使いを仲間に置いてくれていた。
その恩が、やっと返せるのだと、獣使いは嬉しくて、自慢の鞭を高らかに掲げて笑った。
ホントに、本当に、そう思ってたんですよ?
そりゃ、ちょっとは、酷いな、とは思ったりもしましたけどね。
だって、最初は重宝してたわけだし、仲良くやってたのに、足蹴にし出したりとか、さ……
けど、恩返しだと思って、頑張って指導しただけなんですよ!!!
──結果、魔物使いのお陰で勇者達は無事、職に就事が出来た。
「獣使い様! 肩に埃が…!」
「獣使い様! 指にお怪我が! 私めの回復魔法で……!」
「獣使い様に逆らうヤツは許さん……!」
三人は、獣使いの足下へと跪く。
「「「獣使い様!ご命令を!」」」
獣使いの調教は、総じて鞭を使う。
鞭を使う事によって、相手の能力を鍛える事が出来たのだ。
それが、ちょっと、効き過ぎたようだ。
獣使いは額に汗を流し、苦笑する。
「……ま、いっか」
──こうして、四人の友情(?)は、永遠に続いていった。
※平和になってからの獣使いの職業を、重役から敏腕指導員に変更しました。ご指摘有り難うございました