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ガイコツ様とエンドロールまで  作者: 猫塚ルイ


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9/10

第9話

眩い光に視界を焼かれ、意識を失った私が次に目を開けたとき。


そこに広がっていたのは、地下聖堂の静寂ではなく


何千もの民衆が発する憎悪の混じった喧騒だった。


冷たい石の感触。頬を撫でる湿った風。


見上げれば、そこには巨大なギロチンの刃が鈍い銀色に光っている。


……本来のシナリオにおける、悪役令嬢クラリスの終着点。処刑台の上だった。


「罪人クラリス! 聖女を陥れ、王国の秩序を乱した報いを受けよ!」


審判席から響く王子の声には、以前のような人間らしさは微塵もなかった。


その瞳は虚ろで、まるで何かに操られているかのように一点を見つめている。


王子の背後には、ヒロインである聖女も


騎士団も、かつての友人たちも勢揃いしていた。


だが、全員が一様に生気のない、システムに制御された「人形」のような動きで私を包囲している。


(ヴィクターがいない……。世界は、彼を犠牲にして修復されたの?)


絶望が胸を締め付ける。


ヴィクターがその存在を削ってまで私を逃がそうとした先が


結局この「断罪の日」だというのか。


世界という名のシステムは、イレギュラーな生存者である私を排除しようと


全キャラクターを「殺戮の刺客」として書き換えたのだ。


「……殺せ。悪役を排除し、終わらせろ」


王子の号令と共に、騎士たちが一斉に剣を抜き、処刑台へとなだれ込んでくる。


逃げ場はない。魔力も底を突き


私はただ、その刃が振り下ろされるのを待つしかなかった。


その、刹那。


────カチャリ。


喧騒を切り裂くように


耳に馴染んだ、あの乾いた硬質な音が響き渡った。


「……やれやれ。たった一時間、目を離しただけでこれかい? 随分と品のない劇だね」


ドガシャァァァァァァン!!


処刑台の床が内側から爆発し、数人の騎士が吹き飛んだ。


もうもうと立ち込める土煙の中から現れたのは


ボロボロの漆黒の外套を纏った、真っ白な「骸骨」の姿。


「ヴィ……ヴィクター……!?」


「いやー待たせたね、澪。少しばかり、自分の骨を繋ぎ合わせるのに時間がかかってしまった」


彼は完全に骸骨の姿だった。


右腕の先は欠け、肋骨も数本折れている。


けれど、その眼窩の奥に宿る蒼い燐光は、以前よりも強く、激しく燃え上がっていた。


「死んだはずじゃ……!貴方は、消滅したんじゃなかったの!?」


「言っただろう? 僕は君が込めた『愛』そのものなんだ」


「……君が僕を求めて泣いている限り、僕はゴミ箱の底からだって這い上がってくるさ」


ヴィクターは残された左手で、自身の肋骨を一本、パキリと引き抜いた。


その骨が瞬時に巨大な漆黒の鎌へと変貌する。


「わ、私の涙返してよ!!本当に死んじゃったんじゃないかって……!」


「ごめんごめん。驚かせたくて」


「あ、あなたって人は…っ」


「…行こう、澪。君が描かなかった、その先のページへ。……この世界の『仕様』なんて、僕がすべて骨まで噛み砕いてあげるよ」


ヴィクターが鎌を一閃させると


襲いかかる騎士たちの武器が、まるでおもちゃのように粉々に砕け散った。


洗脳されたキャラクターたちが、システムの命令に従い、津波のように押し寄せてくる。


ヴィクターは私の前に立ち、盾となり、矛となり


その身をさらに削りながら道を切り拓いていく。


「澪、僕の手を」


差し出されたのは、冷たくて、硬い、骨だけの手。


けれど、今の私には、それがどんな温もりよりも確かな「愛」に感じられた。


私は迷わずその手を握りしめた。


悪役令嬢と、ボツになった骸骨。


物語から見捨てられた二人の、世界を敵に回した最終決戦が、今ここから始まる。

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