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春を剥ぐ

作者: 宮田朋枝
掲載日:2026/04/14



 春の桜が満開になる頃、


「毎年、嫌になるぐらい連日雨になるのなんなの」


 おかげで桜も楽しめない。


 会社へ行く通勤路、傘さして歩く私。


 誰とも視線が合わないように、傘で必要以外の視界は遮る。


 ふと、ベージュのスプリングコートの裾が、チラリと視界に入った。


 ――――すれ違う。


(ベージュのスプリングコートを見たら春が来たって実感するわね⋯⋯)


 流行ったり流行らなかったり。


 色合いが丁度良いのよね、明るくて。春物の色合いにも合うし。


 雨はシトシト降る度に、気温が上がって、春はうっとうしい湿度も連れてくる。


 今日も朝から、雨。


 通勤時間が被るのか、またスプリングコートの裾が視界の端に映る。


(⋯⋯ん?)


(暑くないの?)


 コートから覗く足は、ほっそりとしていたし、痩せている人は燃やす脂肪が無いのかも。


(羨ましい⋯⋯)


 今日も雨。


 やっぱり、すれ違うスプリングコート。


(この人、いつ“暑い”って感じて脱ぐのかしら⋯⋯)


 だんだん気になってきた。


 外はシトシト雨。


 傘越しのスプリングコート。


(私なんて、歩くだけで汗をじっとりかくようになったってのに⋯⋯)


 人の顔とか見たくない私。


 でも、このスプリングコートの女がどんな顔なのか気になった。


 翌日は晴れ。


 いつもの時間帯なのに、スプリングコートの女は見当たらなかった。


(晴れだし、今日は暑くて着てこなかったのかも)


 スプリングコートを脱いだら誰なのかも分からない。


 翌日も晴れだった。やっぱり見つけることは出来なかった。



 そして、雨。

 なんだか、ちょっと、期待する。


 いつもの通勤時間。


 目の端に映ったのはスプリングコートとほっそりとした足。


(いた⋯⋯!しかもラッキー!立ち止まってる!)


 少し、傘を上げてスプリングコートの女の顔を見ようと、そちらを向いた。



 ――――間近に女の顔があった。




「え、」



 傘をさす、私。少し、離れたところにスプリングコートの、女。


 そして、私の間近に、女の顔。


(だれ?⋯⋯ってか、なんで人の傘の中に入ってんの?)


 目をかっ開いた女が、じ⋯⋯っと、私を見るなり口を開いた。



「⋯⋯⋯⋯ねぇ、気づいてたよね、私のこと。私もアンタに気付いてたよ」


「――――おんなじだ」


 そう言うと、女は、目を細めてニタリと、笑った。


 ハッ、と気付いた時には、人の傘に入ってきた女も、スプリングコートの女もいなくなっていた。



「⋯⋯なに、今の。キモチワル」


(ん?てか、あれ?身体あったっけ?⋯⋯妄想?白昼夢?)


 


「――⋯⋯っていう訳分からん出来事があってさ」


 仕事帰りの居酒屋で、そう友人に酒の肴として話した。



「ふぅーん、まぁ、お祓いぐらいはしてたが良いんじゃない?」


 気のない返事で友人は、グビリ、とジョッキを傾けた。


「えー、行くならどこが良んだろ?」スマホを取り出し、友人とお祓いの口コミなんて見たり、脱線して旅行の話に花を咲かせていたら、お開きの時間となった。


 別れ際、友人から


「さっきの話だけど、マジでお祓い行ったが良いかもね」


と、言われ


「ずっと、アンタの後ろにいるし。足しか見えないけど」


と、聞きたくなかったことを言われた。


 聞きたくなかった。

 ほろ酔い気分が一気に冷めた。


 それからなのかは知らないけど、


 我が家のワンルーム。

 床は、フローリング。


 ヒタヒタ足音のようなものが聞こえるようになったのは。


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