#09:放課後の音色
高校生編の短編連作です。
#09:放課後の音色
2015/3/×× 夕方
少し薄暗い音楽室。窓の外の光が傾き、譜面台の影が細く伸びている。
フルートケースを開け、銀色の管をそっと取り出す。指先に触れた金属が、ひやりとする。息を吸い、音をひとつだけ置く。
細い音が、まっすぐ伸びていく。
空気の層が、わずかに変わる。
決められた通りに吹くのが窮屈に感じられた。
どこか音の行き先が決められているようで落ち着かない。
…もっと上手くならないと。
高い音に触れた瞬間、胸の奥がわずかに固まった。音が途切れる。
扉の向こうで、誰かの笑い声がした。
その気配が、部屋の空気を少し柔らかくする。
もう一度、息を入れた。今度は弱く。
息を入れた瞬間、
ボビー・ハンフリーの余韻だけが長く残る。
音が消えたあと、陽子の指だけがまだ鍵の上に残っていた。
窓の外で風が止む。
…お腹すいたな。
フルートを拭きながら、遠くで運動部特有の気配が静けさに薄く混ざる。
そのまま、しばらく身を置いた。
次話:#10:賞賛の澱
2026/1/26 20:00に更新します




