第一章9 『天秤』
――――――「銃弾が効かねぇとは!!流石は竜帝さん、英雄騎士の称号は伊達じゃないな」
「ふん、戦闘中に喋れる余裕があるとは舐められたものだ」
巨大な大剣を縦横無尽にまるで木の枝でも振っているかと見間違う程の身軽さで振り回すライオス。一振りが終わる度に、空を斬っているとは思えないほどの豪快な風切音が鳴り、斬られた空気が大剣を追うように風を巻き起こす。
「これぐらいはやれねぇとガッカリだろ?」
「ふん、口が減らんな」
ライオスは、大剣を地面に突き刺し素手でレオルに拳を振りかざした。
(今さら拳?)
レオルは、拳分だけの回避を試みたが失敗に終わる。直後、眼前が一瞬にして暗くなり巨大な岩に殴られた衝撃を身体に受け後方の鉱山に衝突した。
「よくぞ耐えた」
口から血を流しながらレオルは立ち上がる。
「なるほど、そういうことかよ『竜帝』《りゅうてい》さん」
ライオス・アレキサンダーの右腕が竜の前脚に変形していた。
(『能力』でガードしてなかったら即戦闘不能になってたな、クソ痛え。しかし小僧のやつ初撃は上手くやってくれたが、あの龍にはまだ勝てねぇ。助けに行きてぇが今は無理だ!プリメラの野郎ももっと冷静になってくれりゃいいが、チキショー!!!)
事態の好転が思い描けず、焦燥気味のレオルは怒声が聞こえるを横目で見る。
△▼△▼△▼
「このドブカスどもがぁああ!!!」
怒髪天を衝く勢いの女傑プリメラは、ガウル目掛け踵落としをぶち込むがガウルは即座にウィノを抱え後方に大きく回避。プリメラの攻撃はその細身からは考えられない威力を発揮し、ひとたび地面に触れれば龍の光弾に引けを取らないクレーターを作り出した。
回避後、地面に着地したガウルとウィノをクレーターの土埃から飛び出したプリメラが続けざまにガウル目掛け拳を飛ばす。ガウルは、顔面目掛け飛来してきた拳を空いている方の手で地面に向けていなし、訪れる地割れを回避するためさらに後方に避難した。
「ウィノさん、私が時間を稼ぎますので龍の方をお願いしてもよろしいですか?」
「分かりました」
ガウルは、抱えていたウィノを手離し剣の柄に手をかけた。地割れとともに上がった土埃が晴れプリメラが姿をあらわす。
「貴方は命を奪い過ぎました。降伏し我が国にご同行願えるなら命は保証します。このまま戦うというなら手加減はしません」
「舐めたこと言ってんじゃねぇぞクソガキが、殺ってみろ」
「リヒフェルスト王国が第一英雄騎士、ガウル・ギルバード参ります」
ガウルはその漆黒の黒瞳にプリメラを見据え剣を構えた。
「貴様らそこまでだ!!」
今に化物同士の殺し合いが始まろうとした時、高台からもう一人の化物が到着した。
「マスター!!」
「ヴェルナドットだと!!!」
レオルと竜帝が。
「ちっ、速すぎんだよ」
「ヴェルナドット・ドラコ・ヴェガット」
「あれがヴェルナドット」
プリメラと光帝と氷帝がヴェルナドットの登場により動きを止めた。長い刀を肩に乗せたまま高台から飛び降りたヴェルナドットは続ける。
「ガウル・ギルバードは貴様か」
「いかにも、私がリヒフェリスト王国が第一英雄騎士ガウル・ギルバード」
「ふん、こんな若造が第一英雄騎士とは、王国は随分な人手不足と見えるなライオス。気の狂った王は元気か?」
「王に対して不敬だぞヴェルナドット!!ガウルを見くびるなよ、貴様とて敵うか分からんぞ」
「欲にまみれた人でなしなど敬うに値せんな。ほう、それは面白い。どうする若造このまま続けるか?」
ライオスの煽りを受けたヴェルナドットは、葉巻に火をつけガウルに問いかける。
「―――いえ、あまりにも分が悪すぎます。このまま引かせてもらいます。ライオス殿、ウィノさん帰りますよ」
ガウルは、抜いた剣を鞘に納めた。
「なんだとガウル!!霊器はいいのか!!王にはなんと言い訳するつもりだ!!」
短い思案の末に出されたガウルの返答にライオスは了解の意を出せなかった。
「まだあるか分からない霊器一つと私達三人の命を天秤に賭けるのは博打が過ぎると思いますので。王には、ヴェルナドットさんと遭遇したと言って納得してもらうほかないでしょう。ヴェルナドットさんそれでもよろしいですか?」
「好きにしろ」
ヴェルナドットは煙を吐きながらガウルの提案を受諾する。
「大勢殺された兵たちの無念はどうする!!!」
「今ここで私達が死ねばこれから救えてたであろう命も救えなくなる。彼らの無念は私が忘れない、そして必ず未来に繋げます。体制を整えましょう」
「ウィノもそれでいいのか?」
「私もガウルさんに賛同します」
「そうか、、これ以上は問うまい。承知した」
不服ながらも第一英雄騎士の判断を飲み込み、ライオスは竜化した腕を解き地面に突き立てた剣を鞘に納めた。
「お互い命拾いしたな竜帝さん」
「ふんっ最後まで口が減らんな貴様は。次合間みえたときは命はないと思え!!」
「おっかねぇな」
レオルの減らず口にライオスは宣戦布告をし背を向ける。
「賢明だな。プリメラ納得してくれるな?」
「クソがっ!!」
ヴェルナドットは持ち前の圧で、半ば強引にプリメラを納得させる。
「ウィノさん、帰って休みましょう」
「はい、ありがとうございますガウルさん。足を引っ張ってばかりですいません」
「いえ、ウィノさんに非などありません。では、ヴェガット家の皆様私達は帰ります。もう二度と会わないことを願います」
「次会ったら必ずブチ殺してやるよ、クソアマとクソガキがっ!!!」
英雄騎士達は、大勢の死者と任務の失敗で帰路に着いた。そんな騎士達の背中に捨て台詞と中指を立てて溜飲を落とすプリメラだった。
「マスター、ホントに助かりました。しかし速いっすね。あっ!!坊主のとこに行かねぇと」
「久方ぶりにプリメラの魔力を感じたのでな、近くて良かった。その心配なら不要だ」
「ははっ馬で三週間なんすけどね。――それってどういう、まさか坊主のやつ、、」
「ヴェルナドットさーん、鞘持ってきましたー」
遠くからぼろぼろのニックがヴェルナドットの鞘を片手で大事そうに持って小走りしていた。
「坊主っ!!無事だったか!!イテテ」
レオルは痛む身体でニックに駆け寄り笑顔でニックの肩を叩いた。
「イテッ、レオルさん!!俺マジで一瞬天国見えましたよ!!」
「バカヤロー、お前が天国に行けるかよ!でもどうやって、その鞘そういうことか」
「ヴェルナドットさんが、一瞬であの龍をぶった斬ったんですよ。マジ半端なかったです」
「うちのマスターイカスだろ。坊主もナイスガッツだったぜ」
「ありがとうございます!!!」
レオルはサムズアップでニックを称賛した。レオルの掛け値なしの称賛の言葉はニックの心の奥を嬉々の感情で埋め尽くした。
「ヴェルナドットさん今回で二回目です。俺もっと頑張ります」
「ご苦労、荷物持ちとしては合格だな」
(誰が荷物持ちだこのババア)
ニックは、少し苛つきながらもヴェルナドットの甚大なる強さの片鱗を目の当たりにし、ただの命の恩人としてだけでなく尊敬の念も持つようになった。
「なんだなんだマスター、片腕の荷物持ちなんか雇ったのか。見るからに雑魚じゃねか」
(あの人がプリメラ・キーラナイト、、ヴェルナドットさんに引けを取らない威圧)
ニックは機嫌が悪そうなプリメラの動向を固唾を飲んで見守る。
「そうだプリメラ。ゆくゆくは共に戦場を駆けることになるだろう何か異論でもあるか?」
ヴェルナドットとプリメラが睨み合い不穏な空気が流れる。
「――ねぇっすよ。死ぬ覚悟はあるみてぇだし。だがいっとくぜガキ、ワシはマスターやレオルみてぇにお前が死にそうになっても助けねぇからな」
「はい、よろしくお願いします。名前はニック・レガードナーって言います」
「お前なんかガキで充分だ。ワシのことはそうだな、、プリメラ先輩って呼びな。舐めた口聞いたらぶっ殺すからな」
「わ、分かりましたプリメラ先輩、、そういえばヒリタスさんがお茶淹れて待ってるって言ってました」
(なんだこいつ、ただの輩じゃねぇか。しかも一人称ワシだし、歳もそんな変わらなさそうなのにガキって。くそ腹立つけど口答えしたらホントに殺してきそうだな。黙ってればキレイなのに)
「ヒリタスの茶か久々に飲みてぇな、だがそれより先に」
プリメラがヴェルナドットに目をやる。
「来たついでだ、リュウソウザンに向かい霊器を確認する。プリメラ付いて来るか?」
「勿論、消化不良もいいとこだ」
「レオルとニックは先に屋敷に戻り傷を癒せ。私達が戻り次第会議をする。以上だ」
そう命令を下しヴェルナドットは高く聳え立つリュウソウザン目掛け並々ならぬ速度で走り出し一瞬で目の前からいなくなった。
「レオルとガキ!今日のは貸しイチだ。助かったぜ」
プリメラはそう言い残し、ヴェルナドットの後に続いた。




