第一章6 『崩壊』
「観光って言ったら信じてくれるかい?」
レオルは振り向き様にそう答え、その人物を目の端に捉えた瞬間、体に緊張が走った。ニックも振り返りその人物を確認した。声をかけてきた人物の他にもう一人の人物がいた。二人とも胸元に鷹と蛇の紋章の入ったマントを羽織っていた。
「確かにこの鉱山地帯の景色は圧巻だが、にわかには信じ難い話だ。何か別の理由があったりしないか?」
最初に声を投げかけてきた人物だ。黒髪で黒瞳の好青年で腰に剣を携え、齢は二十前後に見える。その若さで英雄騎士の称号を手にしていることから、実績もあるだろうが類まれなる才能の持ち主だろう。
「観光なわけねぇだろ、ヴェガット家の紋章が見えないのか。あいつは、レオル・バーン・デイモンドだ。隣の片腕のチビは知らんな」
続けて黒髪の青年の隣にいた、短髪の赤髪で身長は二メートルもあり過剰な筋肉が目立つ大男が返答した。その過剰な筋肉は背中に携えているとても一般人が扱えない大きな大剣を振るうためのものだろう。額には横一線に傷跡があり、その風貌からは数々の死線を乗り越えてきたであろうただならぬ雰囲気が醸し出されていた。
「あの方がレオル・バーン・デイモンド。お初にお目にかかる。私はリヒフェルスト王国が第一英雄騎士、ガウル・ギルバードと申します」
ガウルは、胸に手をあて律儀に挨拶をした。
「この世界で知らない奴のが少ないと思うが、ご丁寧にどうも英雄のなかの英雄、英雄光帝のガウルさん。お隣にいるのは、第三英雄騎士の竜帝ライオス・アレキサンダー。英雄騎士が二人も揃ってなんでバルトロームに?」
英雄騎士は今現在六人、一個人が万人の兵力に値すると言われている。その中でも序列があり一から六の数字が割り当てられている。王国への貢献度や戦果・人望・力量が高い順に決められている。そして、他の英雄騎士の追随を許さない圧倒的な強さを誇り、その強さは世界で三本の指に入ると言われている堂々の第一位。生きる伝説、英雄光帝ガウル・ギルバードが目の前にいる。そして、竜帝と言われるライオスもその称号に相応しい戦果と強さを誇る英雄騎士。
(クソッ、よりによって英雄騎士二人と遭遇するとはツイてないな。さてどうするか、恐らくコイツラの目的は氷の姉ちゃんの救出とプリメラの抹殺。だからこそ第一英雄騎士が直々に出向いてる。戦闘になった場合、坊主を守りながらは戦えねぇ。だが氷山をブチ壊してプリメラと乱戦に持ち込めば勝機はあるか?いや、全員の生還を考えるならあれを使うしかないか)
レオルは、冷静に問いを投げかけ思案する時間を稼ぐ。
「私達は、そこに凍結されている婦人方に用があって来ました。君たちがただの観光客ならこのままお帰り願おうと思っていましたが、ヴェガット家の従者と知った今、それができなくなってしまいそうです。できれば穏便に済ませたい、このままおかえり願えないだろうか」
ガウルは真っ直ぐとレオルの目を見て言った。リヒフェルスト王国の第一英雄騎士として任務の失敗は許されない、だが奪う必要のない命は奪わない強者としての慈悲がそこに感じられた。これは命の選択を迫る警告。
「氷漬けにされてるお宅のお姫さんを助けたいのは分かるが、俺達も自分とこの姫様を見殺しにすることは漢としてできねぇ。ここはどうだお互いがお互いの姫さんを無事に連れて帰るって案が一番平和的だと思うが?」
「それができるのなら私も苦労しないのだが、ライオス殿はどう考える」
ガウルの隣で腕を組み、黙って話を聞いていたライオスが口を開いた。
「貴様は相変わらず甘いなガウル、この状況でヴェガット家のものと遭遇した時点で答えは決まっていよう。我らの任務は変わらん。そしてこの地に眠る霊器は、あの氷漬けにされてる龍の体内にあるやも知れん。霊器が絡んでいる時点で我らとベムド王国で結ばれている協定も意味をなさん。任務を邪魔立てするものは叩き斬るのみッ!!!リヒフェルスト王国が第三英雄騎士、ライオス・アレキサンダー参るっ!!」
口上を言いライオスは、背中に携えている大剣を抜き構えた。
「そんな上手くはいかないわな。坊主!馬達を引き連れて走れ!!」
「えっ、でもレオルさ、、」
「行けぇえ!!!!」
レオルの怒声は、ライオスがその大きな四肢に力を込め、彼を支えてる地面が沈み、レオル目がけ一直線に駆け出す瞬間に放たれた。ニックは、馬達を引き連れて走った。氷山から離れる、レオルから英雄騎士から逃げ出すように。
(クソックソッ!!!逃げるしかできねぇのか俺は!!!)
レオル目がけ一直線に飛んでいくライオスは、大剣を大きく振りかざした。高速で向かってくるライオスに対してレオルは無防備に立ったまま待ち構えていた。若干の違和感を感じたライオスであったが、仮に何かの能力を発動されたとして、それをいなせる自信があった。レオルの眼前で今に大剣を振り下ろそうとした瞬間だった。レオルの背後から轟音が鳴り響いた。
「新人の前でカッコ悪いとこは見せられないんでね。しかし、随分と血の気が多いな。おっかねぇ」
轟音とともに振り下ろされた大剣をレオルは体を半歩反らし躱していた。ライオスは、一瞬剣先に妙な違和感を感じたが轟音の正体を確かめるべく追撃を辞め一気に後退し、眼前の光景を前に更に集中力を高めた。
「ガウル、奴を頼む」
「承知した」
レオルの背後で氷山が崩壊していた。雪とともに舞い上がる粉塵と砕けた氷塊を吹き飛ばしながら大きな両翼が勢いよく音を立て上空に飛び立った。その白銀の龍が咆哮を上げながら吹き飛ばした粉塵が晴れ、凍結されたいた亡骸が続々と倒れ始めた。二人を除いて。




