第一章5 『異常事態』
「おいおいおいおい、やりすぎだぜ」
リュウソウザンへ向かう道中レオルが言葉を漏らす。
そこには、全長十メートルはくだらない大型魔獣の死体がごろごろとあった。魔獣の首はもがれ、腕や足は千切れた状態で転がっていた。死んでから何日も経っているのか腐敗臭が撒き散らかされていた。
「オッオエ、、」
「おい大丈夫か坊主」
ニックは悪臭と鮮烈な光景を前に馬から降り嘔吐していた。
「これ全部プリメラさんがやったんですか」
「おそらくな、この様子じゃここら一体の魔獣共は全滅してるかもな。これじゃ修行にもなんねぇ、ほら先進むぞ!」
「は、はい」
レオルはあっけらかんとしていた。こういう血生臭い光景は何度も見てきたのだろう。
「おい!!坊主!あれ見ろ!!」
しばらく馬を歩かせていると唐突にレオルは馬を止めてニックに呼びかける。レオルが声をかけた方に向くとそこには鉱山地帯の景観にそぐわない異質な光景があった。
「な、なんですかあれ氷の山??」
「鉱山地帯に氷山はおかしい。何かしらの異常気象、もしくは魔法によって作り出されたか」
「もしかしてプリメラさんですか!」
「わからねぇ。何であれただ事じゃねぇな!リュウソウザンは一旦後回しだ!確かめに行くぞ!!」
レオルは馬を走らせる。それに続くようにニックも後を追う。
氷の山がだいぶ近づいてきた。近づくにつれて周りの気温が下がっていくのが分かる。
「雪、、?」
突然降り始めた雪にニックが気を取られていると。
「坊主!止まれ!!!」
ニックは慌てて馬を止める。
「周りを見てみろ」
ニックは周りを見渡して絶句する。そこには、リヒフェルスト王国の兵士の死体が百体以上は転がっていた。道中に転がっていた魔獣の死体同様、体は千切れ臓腑は漏れ死体によっては体の一部が消し飛んでいた。
「ここまでする必要があるんですか……ウッ」
あまりに残虐な光景にニックは、吐き気ともに怪訝な表情を浮かべる。
「ニック、俺達の世界はこういうところだ。相手だって容赦してこねぇ。どうするまた浮浪者に戻るか?マスターに助けられたからとか恩があるとかじゃなく、自分の意志で決めろ。命あってこそだ。マスターには、魔獣に食われちまったって言っといてやる。今なら引き返せるぞ」
レオルは、タバコに火をつけた。ニックは懊悩する。この世界では命がこんなにも軽いのか、自分自身も片腕を切られた。命があるうちに引き返すか、それとも命をかけて片腕を治すか。片腕でも生きてることの方が大事だ。でもその後は、俺はどう生きる、何ができる、いや、もう賭けるしかない。
「俺は浮浪者に戻らない!今、何かが変わっていきそうな気がするんです!!」
タバコの煙を吐きながらレオルは口角を少し上げた。
「先に進むぞ!」
「はい!」
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氷山のふもとに着いたニック達は、氷山の大きさに呆然としていた。この氷山が人工的に作られたものなら英雄騎士クラス級の人物に相当するだろう。
「周りの警戒を怠るなよ坊主」
「はい!警戒もそうなんですが、氷の中に人影が見えます。あ、あと龍がいます!!」
氷山の中には、五十人程の人と全長四十メートルはありそうな白銀の龍が一体凍結されていた。大多数は、リヒフェルスト王国の兵士だがその中でも異彩な雰囲気を放つ人物が二人いた。一人は王国の鷹の紋章と別に蛇の紋章が入ったマントを羽織った長い白髪で透き通るような白い肌をした女性、そしてもう一人は、腰まで長い金色の髪で犬歯を剥き出しにし怒りをあらわにした女性だ。
「おいおいおいおいおい!!!あれはプリメラじゃねぇか!!」
「えっ、あの金髪の人がですか?」
「帰って来ねぇと思ったらこんなとこで氷漬けにされてたのかよ。そうだ、あの金髪でおっかねぇ顔してるのが行方知れずの用心棒、プリメラことプリメラ・キーラナイトだ」
確かに凄まじい剣幕をしているが、その顔はとても整っており、今降っている雪のように肌も白く、とても道中の大虐殺を行った人物には見えない。
「死んじゃってるんですかね?」
「あいつがこんなんで死ぬかよ。こんなんで死ぬなら王国の連中も気が楽だろうよ。ほかの兵隊どもは死んでると思うが、あのマントの女と龍は生きてるな。恐らくこの氷山を作り出したのはあの女だ」
「もしかして、英雄騎士、、」
「あぁ、天候を変えちまうほどの能力だ。こんなことができるのは英雄騎士以外いねぇ。何よりあの鷹と蛇の紋章が英雄騎士の印だ。だが知らない顔だな。とりあえず、、この氷の山をぶち壊すか」
「そんなことしたらプリメラさんも粉々に」
「言ったろ坊主、プリメラはそんなんで死ぬたまじゃねぇ。英雄騎士と龍も復活すると思うがまぁ三人がかりなら訳ねぇよ」
レオルは、馬からおりて氷山の前に立った。拳をつくり力を込めて素手で氷山を砕こうとしていた。
「君たちそこで何をしている」
不意にレオルとニックの背後から声を投げかける人物がいた。ここはバルトロームの鉱山地帯、龍や魔獣の危険度から少し腕に自信のある戦士すら入ろうと思わない。こんなところで人と出くわすことは異常自体だ。




