第一章2 『ヴェガット』
薄暗い部屋の中でニックはわずかに目を開ける。
辺りを見渡すと棚の上に灯りがともっているランタンが一つと水の入った容器が置いてあるくらいの質素な部屋だった。
(どこだここ、俺は助かったのか、、この感触ベットか、イタッ)
周りの状況確認をしたのち、ニックは左腕を動かし切り飛ばされた右腕の切り口を確認する。包帯が巻かれてあり右腕はなかった。服も半袖と短パンの寝巻きの様なものに着替えさせられていた。銃も見当たらない。
(そうだ、右腕を切り飛ばされてそれから気を失ったんだ)
あの失血で良く生きてたと感心した。それはそうと、あの状況から助かったのだ。助けてくれたのは、ここの家の誰かに違いない。ニックは痛む傷口を包帯越しに抑えながら無理矢理ベッドから体を起こした。部屋の扉を開けようとするが、鍵がかかっていた。
「そりゃそうか。おーーい、誰かいるかー?いるなら誰か来てくれー、礼を言いたい!」
返答はない。
(家には誰もいないのか?どっちにしろ今は動けない、ベッドで横になって待つか)
それから数時間経過した。
(傷口が痛くて寝れもしねぇ!!ちくしょう)
そう悪態をついてた時だった、部屋の施錠が開く音がした。ニックはベットから上半身だけ起き上げた。
「おやおや、お目覚めですか」
そう言ってモノクルをかけた白髪でタキシードを着た執事の見た目をした老人が部屋に入ってきた。老人と言っても齢は60前後だろう。老人は台車に新しい包帯と水の入った容器とパンを乗せていた。
「おっちゃんが助けてくれたのか?ここはどこで、あの後村は?魔獣は?魔獣遣いは?何か知ってるのか?」
矢継ぎ早にニックは質問をする。
「聞きたいことが沢山あるのは分かりますが、そう早まらずに、包帯を変えながら順を追って説明していきます」
そう言って、手際よく執事は包帯を変える作業にとりかかる。
「まず私の名前を、私はヒリタス・ルカクと申します。ヒリタスとお呼びください。この屋敷で執事をしております」
そう丁寧にヒリタスは、包帯を変えながら自己紹介する。
「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「俺は、ニック!ニック・レガードナー!浮浪者だ。いたっ!」
「おやおや失礼、ニックおぼっちゃんですね、以後お見知りおきを」
「おぼっちゃ、、こちらこそ色々ありがとうヒリタスさん」
お互いの自己紹介が終わり先日の話題に入る。
「それであの後、俺が気絶した後何が起こったんですか?」
「あの後、我が主人が魔獣三体と魔獣遣いと英雄騎士と交戦。主人が魔獣三体と魔獣遣いを殲滅し、英雄騎士とは痛み分け。村と都の兵は半壊の被害で済んだそうです。そこで主人は気を失ったニックおぼっちゃんを見つけ止血したのち、この屋敷に運び込んだ次第でございます」
(あの魔獣遣いと魔獣三体と英雄騎士を同時に!!!そんなことができるのか、、いや実際そうなんだろうが信じられる話じゃない)
「魔獣三体と魔獣遣いと英雄騎士を同時にって、ヒリタスさんの主人は一体何者なんです?」
「ほっほっほっ、私の口からは何も言えません故、会えば分かります」
微笑を含めヒリタスは包帯を変え終わる。
「さっ終わりました。もうしばらく安静にしててください。主人は今外出中です。ニックおぼっちゃんが目覚めたことは主人に伝えておきますのでもうしばらくお待ちを。ご無礼ながらカギは施錠しますので」
「ありがとうございます!!」
そう一礼し、ヒリタスは部屋から出て行きカギを施錠する音が聞こえた。
(どちらにしろ今は動ける状態にない、この現状に甘んじよう。しかし、家主は一体何者だ)
そう思案にふけったが、人の良さそうな執事と会った安心感でニックはいつの間にか眠りについた。
―――――――――――――――――――――――
「ニックおぼっちゃん、起きて下さい。主人が帰って来ました」
ヒリタスの声が聞こえ、ニックは虚ながら目を覚ます。
「ニックおぼっちゃんおはようございます。主人が帰って来ましたよ。ニックおぼっちゃんに会いたがっています」
「おはよう、ヒリタスさん。家主が帰ってきたんですね。今起きます」
部屋をでて、背筋が伸び品良く歩くヒリタスの後ろについて行く。初めて部屋の外を見て豪勢な屋敷の作りにニックは感嘆していた。
(すごい広い屋敷だ、ホントに何者だ。貴族には違いないだろうが)
「ニックおぼっちゃんもうすぐ着きますよ」
ヒリタスは、他の部屋の扉より一際大きな扉の前で足を止めた。
「さっ着きました。ご主人は慈悲深い方ですがくれぐれもご無礼のないように。その時は、もう片方の腕もなくなりますよ。ほっほっ」
「忠告ありがとうございます。へへっ」
人差し指を口に当て笑えない冗句をかます執事にニックは苦笑いで返すしかできない。
コンコンコン
「少年を連れて参りました」
「入れ!!」
(女の声?)
「失礼いたします。さっ、ニックぼっちゃん中へ」
ヒリタスが扉を開け、ニックに部屋に入るよう促す。
「失礼します」
中へ入ると、広々とした部屋にプレジデントデスクと椅子があり、そこに家主と思われる女性がこちらを見据えながら座っていた。そのデスクの前にもう一つの大きなテーブルとソファがあった。壁には壁画がいくつも飾られてあり、無知なニックでも財が尽くされているのを感じた。軍服姿で絹の様な艶やかな金色の髪を腰まで伸ばした女性は、強い口調とは裏腹な綺麗な顔立ちで宝石の様な碧目の左目の下から鼻筋を通り右下の頬の方まで伸びた傷があった。
「そこへ座れ」
「は、はい」
女性は、机の上にあった葉巻を口に咥え火をつけた。ヒリタスが言ってたのが冗談ではないことがわかった。女性は剣呑な雰囲気を醸し出しており、ニックが無礼を働けば容赦なくもう片方の腕も切り飛ばしてくるだろう。緊張で口の中が渇くのを感じる。
「名は?」
「ニッ、ニック!ニック・レガードナーとい、言います。命を助けていただき、感謝いたしま、」
「自惚れるなっっ!!!!」
突然の怒声にニックは固まる。
「貴様の命を助けたのは、貴様が持っていた銃のせいだ!!」
(俺の銃??)
「貴様何も知らずにこの銃を持ち歩いていたのか。しかもこの紋章。どこで手に入れた」
「その銃は物心ついた頃から持っていて、俺は捨て子だ。路地裏に箱の中に赤ん坊の俺とその銃が入ってた、それを通りすがりのじいさんに拾われたんです。そのじいさんも5年前に死んでる」
ニックは、拳を強く握りしめ俯いて答える。
「――――なるほどな。ニックとか言ったな貴様、目はどれくらい遠くまで視える?」
「本気出せば五百メートル先の的に銃弾を打ち込めます」
ニックは目の良さと運動神経と拳銃の腕前には自信があった。でもなぜ、急にそんなことを。
「そうか、、、」
少しの時間が経ち、ニックはただ黙りながら女性が次に何を喋るのかを待っていた。葉巻を咥えながら女性は自分の顔の傷を指でなぞり始めた。
「ニック、この顔の傷は貴様を助けた時に受けた傷だ」
「えっ!!」
ニックは驚いたがそれもそうだ、あの三体の魔獣と魔獣遣いに英雄騎士との戦闘。むしろそれだけの傷で済んだのが奇跡だ。
「あ、あのーそれはその、」
「女に助けられ、なおかつその女を傷物にして、男という存在に泥を塗り続けるお前はどういう責任がとれる??」
女性の口の端が少し上げる。
(はっ?なんだこのババア、さっきまで自惚れるなとか、銃のおかげで助かっただの好き放題言ってやがったくせに。恩着せがましい!!だが命を助けられたのは事実だ!クソが!!!)
「俺は本当はあの時に死んでた。もし俺にできることがあれば何でもいいです。なにか手伝わせてほしいです!!」
(どっちにしろ俺は浮浪者、帰る場所も家族もいない、しかも片腕になっちまった)
ニックは、立ち上がり深々と頭を下げた。
「聞いたか、ヒリタス?」
「はい、お嬢様」
ニックの後ろで立っていたヒリタスが返事を返す。
「今日から貴様はこの、ヴェガット家に遣えろ!!もし逃げるようなことがあれば、あの三体の魔獣のように消し炭にしてくれる!!ヒリタス!」
「はい、お嬢様」
「この世間知らずのガキにヴェガット家の従僕としての使命と教養を教えてやれ。そしてしっかり見張っておけ!!」
「はい、かしこまりました」
ヒリタスは、深くお辞儀をした。
「さっ、ニックおぼっちゃん食事の準備をして食べ終わったら早速お勉強です」
「は、はい!!」
ヒリタスに優しく声をかけられ、張り詰めた気持ちが少し和らいだニックがいた。
「あ、あのーそう言えば、名前を聞いても大丈夫ですか?」
「私の名は、ヴェルナドット・ドラコ・ヴェガットだ!!貴様の銃は今しばらく預かっておく!私は忙しい!早く行け!!」
「は、はい!失礼しました!!」
二人が出て行き扉が閉まると、ヴェルナドットは呼出煙とともに深く長い息を吐いた。




