第二章6 『叱責』
「傲慢、不遜、短気、浅慮、衝動的、慢心、自惚れ、己の力の過信で陥った自分自身の落ち度だ。もう少し己を律する冷静さを持つべきだ。戦場という死地で何が起きるか分からないのも分かる、全員無事で何よりだが。プリメラ、お前ならもっと上手く立ち回れるはずだ」
応接の間で自分の顔が煙で見えなくなる程に葉巻きを口一杯に吸い吐き出す。直近で二度の生命の危機。ヴェルナドットは気が気ではなかった。
「あぁ、すまねぇ」
リーナの転移によりヴェガット家に着いて、早々の叱責。バルトロームでの永久凍結に続いての失態、プリメラはいつもの威勢をなくし伏し目がちになって話を聞いていた。
「まあまあ、マスター。ぶっちゃけあれ初見殺しみたいなもんだったし、むしろ姉さんいなかったら全員死んでたし、一番被害が少ない結果にはなったと思うぜ!!霊器も回収できたし!なぁ坊主!お前もそう思うよな!?」
「は!はい!!間違いなくそうだと思います!!」
レオルが胸の前で両手を開き、まあまあと必死に場を和ませていた。ニックもレオルに便乗する。
「そうだよ!!お姉ちゃん、、じゃなかった。プリちゃんいなかったら皆、今頃飛竜のお腹の中だったよ!」
「クソガキ後で張っ倒す」
銀髪の美少女リーナが金髪の美少女に成り変わったプリメラを擁護する。当のプリメラはプリちゃん呼びに少しイラついていた。
「それで、レオル。勝手に同盟の話まで持って来てくるとは、私を過労で殺す気か」
「す、すいませんマスター」
次にヴェルナドットの鋭い眼光はレオルに向けられた。
「ほっほっほっ、賑やかになりますねお嬢様。何よりも全員が無事でこの老いぼれほっとしております」
緊張をはらんだ空気の中、ヒリタスが全員分のローブ茶を運んできてくれていた。ローブ茶の気品高い香りは部屋中に広がり、ヒリタスの柔和な人柄が場を一気に和ませる。
「すまないヒリタス。そうだな、任務の達成と皆の命の無事に感謝だな。リーナと言ったか、プリメラをこの姿にした者の場所が分かると言ったが本当か?」
「本当だよ!場所の指定なしに転移させた場合は、その人がここ一年くらいで一番長く居た場所に飛ばしちゃうんだ。意地悪なこと言っちゃうけど、同盟組んでくれなきゃ教えないから!」
「ほう」
ヴェルナドットがリーナを熟視する。リーナもゴホード王国発展の為、譲る気はない。
「それに関しては本当だぜマスター。実際、俺は屋敷の庭に、姉さんはバルトロームに転移させられましたから」
「なるほどな、分かった。同盟の件、王に報告しておく。力を貸してくれるなリーナ」
「うんっ!!」
澄んだ青眼を爛々にしてリーナが頷く。
「その件でなんだがマスター、その杖野郎はどうやらジークと繋がってた感じだったぜ。ジークから回収した霊器はジークが元々持ってた物だ。じゃなきゃあの練度で霊器は使えねぇはず。バルトロームの霊器は恐らく杖野郎の手に渡っていると見ていいかもしれません。どおいう繋がりかは分からないですけど」
「それは僥倖だな。そいつを叩きのめし、プリメラの魔法を解除し霊器を奪取する。私はこれから王に同盟の件で会いに行く。リーナ、一緒に来てくれ。プリメラは己の力の全容を把握。レオルはニックに、ジークから奪った霊器の使い方を教えてやれ」
ヴェルナドットの言葉に全員が驚愕していた。静寂の空気の中、レオルが口火を切る。
「マ、マスター。坊主に霊器を持たせるんですか?」
「そうだ。もはや、ニックは貴重な戦力だ。だが身体能力だけでの戦闘も限界がある。半魔故に魔力の制御も難しい。先を見据えるなら霊器の一つは扱えてもいいだろう」
「――自分が霊器を。レオルさんとプリメラさんじゃなくていいんですか?」
ニックは、思いがけない事態に状況を飲み込めないでいた。自分なんかより、レオルとプリメラが霊器を使えた方が良いと頭で理解している。
「坊主、残念なお知らせだが。俺と姉さんは霊器を使えねえんだ」
「えっ!なんでですか!」
「理由は単純明解、悪魔や魔獣と契約しているからだ。契約してなくても霊器は人間にしか使えないんだ、意外と霊器は扱いに制限がある。坊主の場合は、人の血の割合が多いから使えるぜ!ほぼ人間だしな」
「そ、そうなんですね」
「なんだ嫌か?」
あまり乗り気ではないニックに、ヴェルナドットが問う。
「皆が命がけで手に入れた大事な物を俺が使っていいのかなと。自分も魔獣とかと契約した方が、、」
「悪魔と魔獣と契約するには、魔力を喰わせる必要がある。ニック、お前にそれはできない。そしてこの現状、お前にも切り札や必殺技が必要な頃合いだ」
「――必殺技」
ヴェルナドットの口から出た意外なワードにニックは食いつく。ニックはそんな年頃だ。
「自分やってみます!!」
「では、決まりだ。同盟の締結は二、三日もあれば終わる。その後に出発する予定だ、各々己のやるべきことをやっておけ」




