第二章2 『カーム・ウネルマ』
――――薄っすらと視界が開く。意識が朦朧としている中で焚き火の淡い光が石造りの部屋をほんのりと照らしていた。
「――目覚めたか」
金色の装飾をいくつも付け、椅子に座りながら本を読んでいた銀髪の男がニックに気付き語りかける。
(そうだ、こいつに痺れさせられて、その隣で寝てるクソアマに気絶させられたんだっけか。手足はもちろん、、拘束されてるな)
縄と鎖でニックの手足はがっちりと拘束されていた。
「貴様にいくつか聞きたいことがある。ここに来た目的を話せ」
「話しても話さなくても殺されるなら話さねぇよ」
「そうか、では殺さんから話せ。妹と歳がいくつも違わん子供を殺す趣味はない」
「はっ?テメェ舐めてんのか?そんな賊の言うことなんか誰が信じるんだよダボが!」
男は静かに読んでいた本を閉じ、壁に背を預け不自由に座っているニックに近づく。
「賊だと?私をそんな下賤な者達といっしょくたにするな」
男はその青眼で静かにニックの顔を覗き呟く。
「てめぇらは空賊なんじゃねぇのか?」
「なるほど、何を勘違いしていると思えばそういうことか。私はその賊どもを殺しに来たのよ。そこでこの黄金宮殿を餌に罠を張ったら貴様らがかかったということか」
(こいつら、空賊じゃねぇのか)
男は静かに椅子にもう一度腰を掛けた。
「そして、貴様らは何用でここまで来た?」
「空賊から霊器をぶんどりに来たんだよ」
「霊器か、いつの世も人は卑しいな。貴様も賊の類いと変わらんではないか。しかし、こんな子供を誑かし賊の真似事をさせるなど貴様の親玉は気狂いか?可哀想に」
「知ったふうな口聞いてんじゃねぇぞ、カマ野郎。テメェみたいに恵まれてるやつには分かんねぇよ」
「ふん、そう見えるか?確かに運は良い方かも知れんが全ては自分次第だ。あまり過去に囚われ過ぎるな。邁進する者には必ず救いの手がある」
「余計なお世話だ!!テメェこそ何者なんだよ!!」
「うるさいなぁ〜、あんま大きい声出さないでくれる〜?」
怒りのあまり怒号は発してしまったニックの声に寝ていた銀髪の少女がまだ寝不足気味な目を擦りながら起き上がる。
「すまんなリーナ、少年と少し雑談をしていた。もう行けそうか??」
「少し寝たからバッチリよ!お兄ちゃん!!その子はどうする事にしたの?」
「急かしてすまないな。この少年と私達の敵は同じみたいだ」
「じゃあ殺さないんだね!良かったね、盗賊さん!」
「俺は盗賊じゃねぇ!!」
銀髪の少女リーナの微笑みにニックは何故か顔が熱くなったのを感じた。そして、銀髪の男は椅子から立ち上がりニックの紐と鎖を解き始めた。
「貴様、名を何と言う」
「何なんだよ急に、ニック・レガードナーだ」
「ニックか、良い名だ。私の名はカーム・ウネルマ。ゴホード砂漠を統治している者だ」
キツキツに絞められた拘束具の後を手で摩りながらニックは顔面蒼白になっていた。
「ゴホード砂漠の王様ってことか?」
「いかにも、正確にはゴホード王国だ。少しは口を慎める気になったか」
「あ、あのー知らなかったんだ。ここが国になってたの。すいませんでした!!」
カームは、ニックの綺麗なお辞儀を片目を瞑り見つめる。
「それは無理もない。ここの環境がそうさせている」
「それで、何で拘束外してくれたんですか?」
態度が先程までとは別人のニックを見て、嘆息気味のカームは答える。
「貴様にも付いてきてもらう」
「へっ?どこに??」
「貴様の仲間が連れてきた三ツ首の獣とその空賊とやらの決着が着いた頃あいだろう。確認しに行く。貴様は責任を持って着いてくるべきだ。そして同じ賊を敵対している。賊が持つ霊器には興味がない、欲しければ持っていくがいい」
「空賊が現れたのか!!」
「宮殿を置いた場所の近くのピラミッドを根城していたのよ、あの無礼者共が。獣の雄叫びを聞いてわらわらと出てきていた」
カームは、静かに握り拳を作る。
「なんで王様はここにいるんですか?たぶん宮殿は獣にぶっ壊されちまった後じゃないんですか。どれくらい時間が経ってるか分からないですけど」
「一時間程しか経っていない。そして宮殿は無事だ。リーナが丸ごと移転した。空賊が出てきたタイミングでな」
「リ、リーナってその女の子のことですか?」
ニックは、声を上擦らせながらカームの隣で爛漫な笑顔でピースをしている銀髪の少女を指差す。
「そう!あたしがやったんだよ!凄いでしょ!」
「あんなデカいのをマジかよ。すげぇな」
自分とそう歳が変わらない少女がとんでもない魔法を使っていると知り己の非力さを思い知る。
「それより時間が惜しい。行くぞ」
「俺が逃げるとか考えないんですか」
「その時は雷を落とすまでよ」
そう言ってカームは、腰に巻かれている黄金色に輝く四つの金剛杵に手をかけ微笑む。




