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VAGRANT  作者: じょう
第ニ章 ゴホード砂漠
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第ニ章1 『黄金世界』


「――あちぃ、あちぃ」


 薄茶色のマントを羽織り、灼熱の地を征くためラクダに跨る人影が三つ。飛び交う砂塵が全身を打ち視界は絶不調、暑いと不満をこぼす赤栗毛の少年ニックの髪は砂の付着でバサバサだ。


「あちぃのなんか分かり切ってんだよ、いちいち口に出すんじゃねぇ」


 腰まで長い金色の髪を靡かせ、止まない砂風に苛つきを隠せないプリメラは、琥珀色の瞳を細めニックを睨む。


「まぁまぁアネさん、お互いの生存確認も兼ねて大目に見ましょう」


 男性にしては長めの茶髪を後ろで括り、お気に入りのカウボーイハットを深く被るレオルが意気消沈のニックを庇いプリメラを嗜める。


「チッ、おいガキ!まだ屋敷を出て一週間も経ってねぇぞ!シャキッとしろ!!」


「は〜い、プリメラ先輩」


 どこか元気がなく疲弊気味のニックには訳があった。本来、ベムド王国の屋敷からラクダを買ったゴホード砂漠近くのコップカ村までは馬を走らせても最低五ヶ月はかかる。それを一日で踏破したのだから疲弊も納得だ。五ヶ月の時短を一日で可能にしたのは金髪の美女プリメラ・キーラナイト。彼女は、自称ではあるが世界最強で最恐の吸血鬼。

 

「まさか乗り心地が悪かったとか言わねぇよな?」


「ハハッ、まじ最高でした」


 心地が悪かったとでも言おうものなら"アイツ"の餌にでもされそうな圧に乾いた笑いしかでないニック。

 その"アイツ"とは、プリメラが従えてるドラゴンだ。体長は、バルトロームで会った白銀の龍と引けを取らない大きさで五十メートルはくだらない。その背に身一つで乗り、背中に人間を乗せているというのに気遣いの一切もない速度で飛行するドラゴンに丸一日乗っていたのだ。竜巻の中にいるような風を丸一日浴び、何度もドラゴンの背から落ちたニックをレオルのデーモン・ハンドが何度救ってくれただろう。プリメラとレオルは、常人としてカウントできないためケロッとしている。


「だよな坊主!あれはかなりクレイジーな体験だ!(アネ)さん帰りも頼んますっ」


「レオル、てめぇよく分かってるな。帰りも楽しみにしとけ」


 (帰りもあれに乗るのかよ、、)

 

 自分とは相容れない両者の感性にニックは嘆息する。ニックの疲労の原因は、せっかくくっ付いた腕がまた胴体と泣き別れになるのではないかと思う程の暴風を耐えた他にもあった。


「ほらガキ、また来たぞ」


「オッス!」


 少し先の砂塵の中から金属音が擦り切れるような音が聞こえてくる。ニックは首に下げていたゴーグルを付けラクダから降りると、その音の方に向かって全力で走り出す。音の正体は、巨大サソリだ。


「先手必勝!!」


 ゴホード砂漠に生息している巨大サソリ。体長五メートルの大きさがありながら俊敏に動き、巨大ハサミと猛毒持ちの尾を持つ凶悪生物。ニックの修行も兼ねて一人での戦闘、銃の使用は不可、素手での討伐で肉体強化が目的だ。即座にサソリの懐に入り右腕で渾身の一撃をぶちかます。腹に埋まった右腕を抜き後ろに退避するとサソリが倒れる。


「坊主!!気ぃ抜くな!!!」


 ニックは、すかさずその場で大きく跳躍する。ニックのいた場所には巨大ハサミが空を切っていた。空中で体を捻り二体目のサソリを目視する。サソリは手を緩めない。空中のニック目掛け猛毒付きの尾で突きを放つ。ニックは近づいてくる尾に対し体を丸め紙一重で突きを躱す。地面に着地したニックは、再度迫りくるハサミを軽い跳躍で躱しハサミの上を駆け抜ける。サソリの頭まで走り思い切り右腕を振りかざしサソリの頭をかち割った。


「よし、上出来だ坊主。今ので何体目だ?」


「はぁはぁ、七体目ですかね」


 ゴホード砂漠に着いてからニックは巨大サソリの相手をし続けてきた。最初は、サソリの甲殻が硬く全くダメージを与えられなかったが何度も殴り続ける内に拳の振り方を覚え今では一撃で甲殻を破壊できるようになった。もちろん、何度も死にかけた。本当にヤバい時はレオルがデーモン・ハンドで助けてくれていた。


「今夜もサソリ肉だな」


「今日もサソリですか。サソリ以外の敵いないんですかね」


「そのうち出てくるから焦んな」


 ここ数日、サソリ肉しか食べてないニックは流石に飽き飽きとしていた。いくら最高の調味料"空腹"があっても別の物も口にしたい。


「レオル、まだ着かねぇのか。もうそろそろのハズじゃねぇか」


「ヒリタスさんから貰った地図だと遺跡付近までの距離は進んでるはずなんすけど。何でもその遺跡、蜃気楼見たいに移動するみたいっすよ。今夜見つかんなかったらあの作戦使っちゃいましょう(アネ)さん」

 

「任せときな」


 プリメラが口に笑みを浮かべるのを見てニックは、怪訝な顔を浮かべる。あの作戦とは、プリメラがドラゴンで空中から遺跡を探し先制ブレスをカマすという作戦。戦闘必死で話し合いもない。そもそも相手は賊なのでそんな配慮も必要はないが。仮に霊器がなく、賊じゃなく無関係の人が住んでいたら現地人はたまったものではない。そして、遺跡というだけあってきちんと歴史のある建物らしい。なので最終手段なのだが、プリメラは相当乗り気だ。


 ――――日が暮れ、満月と満天の星が砂漠を照らす、砂嵐は止み、周りは静寂に包まれ果てしない景色が広がっている。気温は昼間と比べかなり冷え込んでいた。


「レオルさん何か見えてきました」


「やっと見えてきたか。でもおかしいな、地図の遺跡はピラミッドって聞いてたんだが。宮殿なんか乗ってねぇぞ」


 遠くに建物が見えてきた。かなり広大な土地に宮殿のような作りをしている建造物が見える。所々に老朽化による影響か損壊が目につくが、損壊があろうとその見栄えはかなり立派だ。


アネさん、人は見えますか?」


「いいや、見えねぇな。誰もいないのか、もしくは出払っているか。この時間に灯りの一つもねぇ」


 プリメラの視力は、半吸血鬼のニックよりも良い。

レオルは遺跡の全体像まで、ニックは遺跡の大きな損壊まで、プリメラは遺跡の細かな損壊やその宮殿の奥にあるピラミッドまで見えていた。


「奥のピラミッドが怪しいな」


「ラクダをおいて一旦宮殿を詮索しましょう」 


                  △▼△▼ △▼△▼


「――――近くで見ると半端じゃねぇな。しかし、やっぱ誰もいねぇっぽいな。蜃気楼じゃねぇよな」


 宮殿の損壊がレオルの目にもハッキリと映る距離まで来た。宮殿は砂は被っているものの夜空の輝きに照らされ黄金色に輝いていた。何千年も前の建物とは思えない気品を醸し出していたそれは、満天の星空と果てしない砂漠とが相まって見た物の心を奪う黄金の景観が誕生していた。ニックも心を奪われた一人で宮殿に釘付けになって歩いていた。未だに人影はなくもぬけの殻だと思われた時だった。三人の足を伝い全身に電流が走った。直後、魔法陣が地面から浮かびあがってきた。


「クソが!!!黒だったか!!」


「坊主っ!!!」


「ぐぅぁああ!!!レオルさん、プリメラ先輩!!体が体が!!」


 電撃で動かない全員の体が半透明になってきていた。


「舐めたマネしやがって!!!クソカスがぁっ!!」


 プリメラは体を無理矢理動かし掌を合わせた。次に地面に手を当てた。


「喰い殺せっ!!三獄頭狼さんごくとうろうケルベロスッ!!!ガキ!!死ぬんじゃねぇぞ!!!」


 薄れ行くプリメラの背後に大きな地鳴と共に巨大な門が現れる。黒塗りで厳かなその門がゆっくりと開かれると、中から黒い炎が吹き出し雄叫びが聞こえる。黒炎を撒き散らしながら、黒い毛並みの犬、いや狼の頭を四つ足の巨躯に三つ生やした化物が涎を垂らし現れた。その姿を目にした直後ニックの視界は暗転した。


「――おやおや、こんなところに子供とは驚いた」


「兄ちゃん、どうする?殺しちゃう?」


「いいや、彼からは少し話を聞きたい。内容次第では殺すが」 


 暗転して視界が切り替わったニックの前に、澄んだ青空をその瞳に写した、小麦色の肌で長い銀髪の眉目清秀な青年と。同じく小麦色の肌で澄んだ青眼で銀髪の容姿端麗な少女の姿が目に入った。


「どこだここは!!てめぇら空賊か!!舐めたマネしやがって!!ぶっ飛ばしてやる!!」

 (転移系の魔法?レオルさんとプリメラ先輩の姿が見当たらない)


 ニックは石造りの部屋を見渡したが二人の姿が見当たらない。いるのはやけに豪華な装飾を付けている兄妹らしき二人だけ。ニックは状況把握をそこそこに男に向かって全力で走りだしたが、一秒後には電撃で灼かれていた。


「ぐはっ」

 

「舐めているのは貴様らだ、ここがどこだか分かっているのか?神聖なる地に無用心に足を踏み入れおって」


 ――――ゴゥン、ゴゥン。


「外が騒がしいな。リーナ、その少年を見張っといてくれ。外を見てくる。合図を出したら始めてくれ」


「りょーかい、兄ちゃん!いってらっしゃい!」


 小柄な少女リーナは敬礼のポーズを取り、兄を見送った。


「体が痺れて動かねぇ」

(クソがっ!!レオルさんとプリメラ先輩はどこまで飛ばされたんだ。この女の子一人なら俺一人で何とかなる)


「そこでジッとしときなさい!盗賊さん!」


「盗賊はそっちだっ、、ろ」


 リーナは、冷たい石造りの床から無理矢理体を起こそうとしたニックの顔面を力一杯足蹴し気絶させた。

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