第一章終幕 『一滴』
「―――これでいいですか?」
ニックはプリメラに言われるまま広い部屋の端に移動して上着を脱いだ。ここからどうやって、腕を治すのか全く検討がつかない。
「それでいい、気張れよガキ」
一拍の間を置いてプリメラは、左手の手刀でニックの切り落とされた右腕の切断面とニックの右腕の切断面のそれぞれの薄皮を削いだ。ニックが声を上げるより早く、プリメラは切断面同士を密着させ、己の親指を噛みそこに血を一滴垂らした。あまりの早業にニックの意識が追いついたのは、プリメラが自分の結合された右腕に血を垂らしている時だった。次に痛覚が意識の後を追うようにニックに痛みを知らせてきた。
「うっ、ああぁぁあああ」
「動くなガキ!!レオル!手を貸せ!!」
「あいよ!アネさん!」
プリメラの叱咤の声で、ニックは今にも崩れ落ちそうな膝に力を入れ、握りこぶしを作り、涙ぐむ瞼を懸命に閉じ、喉の奥から溢れる苦鳴を変え必死に堪える。それでも、プリメラの異質の血の侵入を身体が拒絶するように暴れ出そうとする。無意識のそれは、レオルのデーモン・ハンドで抑える。
「――はぁはぁ、も、もう大丈夫です」
数分に及ぶ激痛を耐え抜きニックが声を上げる。声に合わせてレオルがデーモン・ハンドを引っ込め、膝から崩れ落ちるニックに駆け寄り体を支える。
「あのまま死んじまうかと思ったぜ、ほれ水だ坊主」
「ありがとうございますレオルさん」
水を一気に飲み干し、レオルの肩を借りて立ち上がる。
「よく気絶しなかったなガキ、腕はくっついたみたいだが動くか?」
痛みで腕の事などすっかり忘れていたニックがプリメラの言葉で自分の右腕に意識を向ける。冷凍されていて血色の悪かった腕に血の気が戻っており、熱を感じる。
「動く!動きますよ!!プリメラ先輩っ!!!」
掌を開いては閉じ、肘を曲げては伸ばし、肩を回し、右腕が治った喜びを右腕で表す。
「痛みも全然ない!!プリメラ先輩流石です!!!ありがとうございますっ!!」
「ハハッ、ワシの偉大さが分かったかガキ!!」
「おぉー、よかったぜ坊主」
「ほんと良かったです。二人ともありがとうございます。ヴェルナドットさんもヒリタスさんもありがとうございます」
「お疲れ様です。ニックおぼっちゃん」
「無事で何よりだ。それで、ゴホード砂漠にはいつ出発する?」
腕の治療の成功もそこそこに、ヴェルナドットは次の任務の話題に戻す。
「明日の日の出に出発する。てめぇら遅れたらぶっ殺すかんな」
プリメラが今にでも飛び出して行きたい衝動を抑え息巻く。
「私は別の案件がある。今回は何かあっても駆けつけられないやもしれん。頼んだぞ」
「任してくださいマスター」
「俺も頑張ります!!」
「これでお開きだ」
ヴェルナドットの掛け声で会議は終了。各々が解散し明日からの旅路に備える。




