第一章12 『正体』
――――ヒリタスがヴェルナドットに言われ、大きな黒い箱が乗った台車を部屋に運び込む。
「プリメラ頼んだぞ」
「チッ、足引っ張られるよりマシか。出血大サービスだぞガキ」
「えっ、何のことですか?」
「ほっほっほっ、ニックおぼっちゃんよかったですね」
「ヒリタスさん、さっきから何の話をしているのか俺さっぱりわから」
ニックが話し終わるより前にヒリタスは黒い箱の蓋を開け、その中身を覗いたニックが腰を抜かす。
「ヒィエ!!ヴェ、ヴェルナドットさん、ヒリタスさんこれって、、、、」
「貴様の腕だニック」
ヴェルナドットは淡々としているがニックの心情はそれどこではない。箱の中には、ニックの右腕とその右腕が腐敗しないよう大量の氷が敷き詰められてあった。
「き、切られた俺の腕保存してくれてたんですね、、、観賞用ですか?な、何のために、、、」
(ヴェルナドットさんは、ヒリタスさんと並ぶ常識人だと思ったのに!!もう俺にはヒリタスさんとキャシィしかいない!!)
ニックは一人で絶望していた、自分の命の恩人が自分の腕をコレクションしていることに。
「観賞用だと?戯けがっ!!!私を何だと思っている!!気が動転するのは分かるが浅慮が過ぎるぞ。今から貴様の腕をプリメラが治す」
「えっ!!!本当ですかっ!!!」
ニックは先程とは一転し声に精気が宿る。バルトロームに向かう前夜にヴェルナドットが言っていた言葉を思い出す。腕が治るかもしれないと、自分に発破をかけるための嘘かもしれないと半ば半信半疑であったが、その希望に縋らずにはいられなかった。腕の再生は超一流の魔法使いでも難しい神業。霊器という人智を超えた力をもってして治すと思っていたが、まさかプリメラ先輩が治せるとは。切られた現物があると話が変わってくるのか色々と思案するが、答えは見つからなかったので直接本人に聞くことにした。
「プリメラ先輩が治してくれるんですか?」
「そうだ!ワシの血を使って治す!死ぬなよガキ!」
「血?死ぬ?」
ニックの感情はさながら乱気流のごとく乱れる。対するプリメラは物騒な事を行っておきながら、どこか得意気な顔をしている。
「血を使って治すってどおいう理屈ですか?」
「なんだ誰からも聞いてねぇのか?ワシは、『吸血鬼』だ。これ以上の説明はいらねぇだろ?」
プリメラが見せた不敵の笑みから覗く犬歯の先が、人のより鋭く尖っておりキラリと光ったように思えた。
「プリメラ先輩、吸血鬼だったんですか!!!てか、下手したら俺死ぬんですか!!」
「そうだ!驚いたか?しかも世界最強吸血鬼だ!!ハッハ!!ワシの血を使って治すが下手したらオメェの身体がワシの血に拒絶反応起こして死ぬかもって話だ。ワシの血は異質だからな。ワシも自分以外を再生したことねぇからどうなるか分からんが、成功率のが高いんだろマスター?」
「成功確率は八割強だな。なにせニック、貴様も吸血鬼だからだ」
「えっ、、」
「何だとっ!!!」
「同族だったかガキ」
「おやおや」
その場にいたヴェルナドット以外の声が重なる。ニックは青天の霹靂で雷にでも撃たれたかのように頭が真っ白なっていた。レオルも最初こそ驚愕していたが、魔法を全く使えないニックの頑丈さや身体能力を目の当たりにしてどこか腑に落ちた様子だ。プリメラは初めから薄っすらと感づいていて、どこか嬉しげだ。ヒリタスはプリメラのことも知っておりそこまでの驚きはなかったようだ。
「ヴェルナドットさん、それって本当ですか??」
「あぁ、ほぼ百パーセントだ。貴様らがバルトロームに行っている間に貴様の銃を調べていた。あの銃と一緒に捨てられていたと言ったな、あの銃に刻まれている紋章は吸血鬼の家系のものだった。たまたま一緒に捨てられていたなどそんな偶然があるわけがない。ニック、貴様自身が一番心当たりがあるんじゃないか?」
ヴェルナドットの吐いた葉巻の煙を眺めながら、ニックは心当たりを手当たり次第に引っ張り出す。
(俺は、異常に目が良い。身体の傷も治るのが人より速い。身体能力も魔法や魔具を使用していないのに異常に高い。マントを羽織っているのも太陽の光を浴び続けると皮膚が火傷してしまうからだ。そういうことだったのか)
「俺は人間じゃなかったんですね」
「なんだ、嫌か?」
「いえ、今までずっと人間だと思っていたので。でも違った。これは変えられない現実です。受け止めます、その方が前に進める気がします。何日か考え込みそうですけど」
「ニックおぼっちゃん、、、」
感動気味のヒリタスとハットを深く被り笑みを浮かべるレオルにあまり話を聞いてなさそうに赤ビーラを嗜むプリメラがいた。今となってはその飲み物が赤ビーラなのか怪しいところである。
「いい心掛けだ、どうする残りのニ割は死ぬかもしれん。いくら吸血鬼同士とは言えプリメラの血は、強すぎる。そして、貴様が吸血鬼の力を十全に使えないのも貴様には、半分人の血が入っている可能性がある。プリメラクラスの吸血鬼でなければ吸血鬼は太陽すら拝めんからな」
「半分は人間。。ここまで来たんです、やります!!」
(色々考えるのは後だ!!)
「早速始めるぞ!プリメラ準備はいいか?」
「モノ好きな吸血鬼もいたもんだ。いつでもokだマスター。ガキ、そこに立って上着を脱ぎな」
プリメラは立ち上がり冷凍されているニックの右腕を持ち出しニックに近寄った。




