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VAGRANT  作者: じょう
第一章 バルトローム
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第一章1 『浮浪者』

「ちっ、これっぽっちしか持ってねぇのかよ」


「ほんとに、それで全部だ俺らが悪かったもう許してくれ、見逃してくれぇ」


 薄茶色のロングマントを身に纏いボサボサの髪は赤栗毛で赤みがかった眼の色をした少年が、広大なリヒフェルスト王国の端、ガジェ村の酒屋に向かう山道で襲ってきた六人の盗賊を返り討ちにしているところだった。


「俺がお前らを見逃して、お前らが復讐してこねぇ保証がどこにあんだぁ?」


「ほんとに神にちかうよ。だからなっなっ?」


リーダーらしき男がそう言い、男たちは両手を合わせて命乞いしてきた。

(ぜってぇ許さねぇ、あとで後を追って寝首かいてやるぜ)


「そっか、神に祈られたなら仕方ねぇ、、、ってなる訳ねぇだろボケカスが!!」


少年は腰につけていた銃をとり六発、盗賊達目掛けて発砲した。 


「ク、クソォォォオ、足が俺の足がぁああ。このクソガキがっ」

 

放たれた銃弾は盗賊たち全員の右膝を正確に撃ち抜いていた。


「まっこれで当分は。追ってこれねぇだろ、次は命をいただく!そのときは、祈る時間もないと思えこのクソどもが!」


そう言って少年は、苦鳴をあげる男たちに背を向けて歩き出した。


「あ、あの野郎覚えとけよくそっ!!」


「あ~ぁ、盗賊狩りじゃ端金しか稼げねぇか。ジェットさんのところで儲け話がないか聞き耳立てるか」


盗賊から奪った銀貨が入っている袋を片手で持ちながら少年は歩きだす。


カラン、コローン。


「へい、いらっしゃ、、、ってまたお前かニック、ここは酒屋だ!お子ちゃまが来るところじゃねぇ、帰れ帰れ、、しっしっ!」


少し廃れた風情のある酒屋は、朝から開いており客は疎らにいた。丸坊主で顎に髭を蓄え体格の良い店主ジェットはため息をこぼし、面倒そうに手で人を払う仕草をした。


「まぁ、そう堅いこと言わずに!それに俺はもう十六だ!!喉が乾いているんだ、キシマリ茶を一杯くれよ!ジェットさんの分も奢るからさ」


「ふん!ありがたくいただくが、飲み終わったら帰れよ!ガキがいたんじゃ店の印象が悪くなる」


「へいへい!わーかったよ!」


「ほらよ。キシマリ茶だ!」

 

「ありがと!」


どんと音を立て、キシマリ茶が入ったグラスを、テーブルに置いた。ニックはキシマリ茶を半分ほど一気に飲み干した。


「ぷはぁー、生き返るー、やっぱこんなクソ暑い時は、キンキンに冷えた、キシマリ茶だよなぁ、なぁジェットさん!」


「いちいち声がでけぇな、早く飲めよ。これは残りもんだが食え」


「ありがとジェットさん」


 ジェットは残りもののサンドイッチを出し、グラスを拭きながら催促してきた。邪険に扱っているようにみえるが面倒見がいい。ニックが十一の頃から週に何回も通ってる行きつけだ。


「おい!知ってるか!近頃、村を襲っている魔獣遣いがいるみたいだぞ!」

 

「あー、知ってるぜ!そいつを殺れば懸賞金二千万ロイがもらえるみたいだ!隣のレカ村も先日やられたらしい!」

 

 少し離れた席から他の客同士の物騒な会話が聞こえてくる。


「おい!ここは酒屋だが、そんな物騒な話はよそでやってくれ!」


「あ、わりぃわりぃ気をつけるよ」 

 

ジェットに注意されると客はバツが悪そうに声を潜めて話し始める。


 カラン、コローン。

 

「じゃあな、ジェットさん!また来るわ!」


「おい!待てコラ!!クソガキ!俺の分の代金置いてねぇじゃねぇか!!」


「つけといてくれ!また来るからよっ!!」


「あのクソガキがぁ!!」

 

(二千万ロイ!!そいつをとっちめれば一生食うに困らねぇ、よっしゃ金儲けの時間だ!とりあえずレカ村に向かうか!)


 ニックは、足速にレカ村に向かう。


「――――ここが、レカ村か。ほぼ全壊じゃん」


レカ村についたニックだが、その被害の大きさに驚愕している。家屋の大半は崩壊していた。人も大勢死んだであろう痕跡もある。


「おい!そこのガキ!、ここで、何をしている!この状況が分からないのか!早く都の避難所に迎え!」


 救援活動をしている王国の兵だ。鎧には王国の紋章である鷹の紋章が刻まれてある。


「あのぉ避難所の場所がわからないんですけど」


「避難所は、南に向かって歩けば着く。歩きだと着くのは日暮れ時になると思うがここにいるより安全だ。ほれ、食料のパンと水だ。気を付けて行けよ」


(まぁここにいても、情報は得られなさそうだしな。とりあえず向かうか)


「ありがとうございます」


 礼を言ってニックは避難所に向かって歩き始めた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 周りが次第に暗くなってきたころ、避難所が見えてきた。


「おっ、あれが避難所か」


 簡易的なテントがいくつもあり、王国の兵士が周りを警戒していた。避難所の入り口付近で馬に乗った兵士が二十名ほどたむろしていた。ニックが着いて間もなく大音声が聞こえてきた。


「近くのハジテッド村で魔獣が現れたぞ!!戦闘に行ける兵は直ちにハジテッド村へ迎え!!」

 

 急な出兵命令にも兵たちは、即座に身支度を整え馬にまたがり始めた。


「ハジテッド村ってすぐ近くじゃないか、ラッキー!!馬借りてくぜ!!」


 ニックは、救援部隊の誰かの馬に跨ってハジテッド村に向かって馬を走らせ始めた。

 ――――――――――――――――――――――――


 馬を走らせ一時間。夜中というのに村の方が夕日のように明るい。村が燃えていた。


(一体どんな奴だ。二千万ロイの懸賞金がかかるほどの怪物)


ハジテッド村に着くと、すでに王国の兵と魔獣との戦闘が始まっていた。


「全体隊列を組み直せぇえ!!放てぇええええ!!」


喉が潰れそうなほどの怒号が聞こえ魔獣目掛け銃や簡易的な炎魔法が放たれるが、まるで応えていない。


「英雄騎士が来るまで持ち堪えろぉおお」


兵達は、自らを鼓舞するため声をあげる。

ニックは少し離れたところから、魔獣の存在を視認する。


「でっ、でかっ!!」


何回か魔獣遣いは見てきたが、体長五メートルはゆうに超えてる化け物を三体従える魔獣使いと遭遇するのは初めてだった。魔獣は空にニ体、陸に一体、対する兵は約百人。ニックは銃を抜いた。


(こういうときは、術者を先に行動不能にする)


陸にいる一体、長く禍々しいツノを生やし涎を撒き散らし猛り声をあげる猪のような魔獣の後ろに人影が見える。


「そこかっっ!!!」


ニックは、人影目掛けてニ発撃ち込む。人影目掛け一直線に飛んでいった弾丸は着弾する寸前に人影の前で止まる。


「止められた!!能力者か!!」


村の業火に照らされ人影の顔が見えた。男は自分の身長と同じくらいの薙刀の武器をもち、黒いマントを羽織っていた。目は紅く、髪は白く、肌も病的な程白い。端麗な顔立ちの男はニックの視線に気付き口元を緩め笑った。


「このヤロォオオ!!舐めやがって、いくら止められても立て続けにぶち込めばっ、、、!!!」


銃をもう一度構え狙いを定めようとしたときだった、瞬き一つの間に白髪の男の顔がニックの目と鼻の先にあった。


「――なっ」


「随分と自信家だね」


「てってめぇーー!!!」


ニックは、すぐさま銃を男の頭の横に突きつけようと構えたが銃を持っていなかった。あるはずの右腕が視界に入らなかった。


「あっ、あぁあああああ!!!!!」 


「そんな大きな声だすと魔獣が寄ってきちゃうよ」


溢れ出る血を左手で抑え絶叫を上げながらニックは落馬し地面の上に転がり落ちる。


(くそっ!!痛ぇ!!ダメだ、馬でももう逃げられない)

 

「ふーん、、その銃持っててね、、ゆっくりお休み」


ニックの斬り飛ばされた右腕に握られてた銃を見て男は呟く。なくなった右腕の切り口から大量に血が吹き出していた。トドメを刺そうと近づいてくる男の後ろで、轟音とともに大地が鳴動がした。


「今日は良い日だ」


そう言い男が振り返ると、そこには金色の髪が腰の位置まである軍服姿の人物がいた、気を失ったニックが最後に見た景色だった。

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