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第42話 違う



 青葉やこはくに背中を押されても、今日の俺の気分はなんとなく憂鬱だった。一応くるみに話しかけようと試みるのだが、くるみは俺の姿に気づくとネコのように逃げてしまうのだ。

 

 それでも、未だに青葉とくるみの仲が良好なことと、こはくが協力してくれているのはありがたいことなのだが、かといって今の俺がくるみと二人きりで話をしようとしたって、何か良い手立てがあるわけではないし、余計に事態を悪化させる可能性もある。


 だから俺は、本当はあまり手段として好まないのだが、自分で自分のことを占ってみようと思う。

 

 ただ、今日はそれとは別の件でちょっと憂鬱なのだが……。



 「ハルの助~。ちょっと占ってほしいんだけど良いか?」


 放課後、HRが終わっていの一番に修治が俺の席へとやって来る。占い料としてジュースを携えて。


 「すまないが、今日は先約がいるんだ」

 「流石は人気占い師だなぁ、残念」

 「週明けならいけると思うが、何の相談だ?」

 

 前払いとして俺は修治からジュースを受け取ると、修治は思いの外深刻そうな表情で口を開く。


 「前に言ってた、俺が助けた女の子っぽい男の子いるだろ?」

 「男の娘な」

 「また今度デートに行こうって誘われたんだが、どうしようかと思ってな……」


 なるほど。どうやら修治は、なんとなく自分に好意を寄せていそうな女の子(男)にどう接すればいいかわからないようだ。結構経験豊富な彼でさえ、昨今のジェンダー的なあれこれには戸惑うところもあるらしい。


 「行っといて損はないだろ」

 「俺の性癖がおかしくなりそうで怖いんだ」

 「大丈夫だろ、向こうはそんなの気にしないだろうから」

 「そりゃ向こうがそんな感じだったらそうもなるだろうけども!」


 大いに悩むと良い、若人よ。丁度俺も大いに悩んでるところなんだから。

 そして俺は予約が入っている占いをするために、オカ研の部室へと向かったのだった。





 今日、俺の占いを受けるのは美術部部長である同級生の鹿取という男子だ。一昨日彼から相談を受けて今日占いをすると約束をしていたため、彼をオカ研の部室へと案内し、暗幕で囲まれた椅子に座らせた。


 「わざわざありがとね、狐島君」

 「そんなかしこまらなくていいって」


 昨日一昨日と俺はバイトが入っていたため今日まで待ってもらっていたが、鹿取の相談内容のさわりだけは聞かせてもらっている。


 「確か……くるみに、告白したいんだったよな?」

 「う、うん」


 くるみは三年生になってもう部活を引退してしまったが、かつては美術部に所属していて、鹿取は同じ部活の後輩だった。俺は美術部員じゃないけどたまに顔を出していたし同級生だから、友達ってほどではないがそれなりに鹿取と面識はある。


 鹿取については悪い噂なんて聞いたこともないし、くるみが次期部長として彼を推薦したぐらいなのだから、ちゃんとくるみに信頼されるような人格を持った人間なのだろう。俺はそういう風に信頼されたことがないからちょっと羨ましく思ってしまうが。


 「猫塚先輩に告白したいんだけど、上手くいくのかちょっと不安で。だから、アドバイスが欲しいんだ」

 「どういうアドバイスが欲しい?」

 「そうだなぁ……告白するタイミングとか、場所とかかな」


 そういう恋愛相談が俺のところにやって来ることは結構多い。それも男女問わず。

 こういう風に、気になっている相手がいるけど告白して良いのか、向こうがどう思っているのか、そんな相談を受けて俺は適宜アドバイスしている。自分は誰とも付き合ったことがないというのに口だけ達者だなんて悲しいことだ。


 「じゃあ、この抽選箱の中に手を突っ込んで、掴めるだけ紙きれを掴んで、机の上に広げてくれ」

 「あ、噂で聞いたことあるよこれ。ちょっと面白いね」


 と、鹿取はワクワクした面持ちで抽選箱の中に手を突っ込んで、掴んだ大量の紙きれを机の上に広げた。

 俺の占いは、この机の上に広げられた文字を目についたものから集めて、それらから単語を作って、その単語を元に占いを構築していくわけだが……。


 さて、告白するタイミングだとか場所か。要はシチュエーションってやつだろうが……げつよう、フム、月曜日か。あと……びじゅつ、美術? 美術室ってことか? 確かに元美術部員だったくるみを呼び出すには自然な場所かもしれない。確か月曜って美術部は休みだし、他の部員もいないだろう。


 あと、ゆうがた……つまり放課後か。そこら辺は普通として……。


 『あおば』


 そんな単語が、俺の目についてしまった。

 どうして彼女がこの占いに関わってくるのかわからなくて、一体どういうことなのかと俺は考えようとしたのだが、どうもピンと来ない。俺の占いで相談事に関係のない単語が生まれることって今までになかったのだが。


 「ど、どんな感じかな?」


 謎の単語が出てきて困惑していた俺に、鹿取が話しかけてくる。彼を困惑させるためにもいかないため、言える範囲で俺は結果を伝える。


 「タイミングは今度の月曜の放課後が良いらしい。場所は美術室だ」

 「確かに、月曜は美術部も休みだから良いタイミングかもね」


 そこまでは良いのだが、俺は未だに『あおば』という単語の意味を理解できずにいた。まだ大葉って言われた方がラッキーアイテムとして納得できたかもしれないだろうに。いや、大葉だろうが青葉だろうが、それがラッキーアイテムというのはよくわからんが。青葉を連れて行くと良いという意味か? いや立会人を置くのも意味がわからない。


 「ちなみにさ、告白が成功するかどうかも占えるの?」

 「そうすれば成功に近づく、っていうアドバイスなら出来る」

 「じゃあお願いしても良いかな」

 「わかった」


 かなり近い未来なら結果がパッと見えることもあるが、明日明後日の出来事となると直感ではぼんやりとしかわからないため、こうして道具を使わないと正確さは微妙なところだ。俺には色んな結果が見えてしまうから、俺に出来ることはその結果に近づくためにはどういう行動を取ればいいか、そんなアドバイスだけである。


 俺はもう一度鹿取に紙を引いてもらい、単語を構築していく。中々変な引き方をしてくれたようで、俺は単語を作るのに苦戦し、そしてようやく見つけた単語が──。



 『しらない』



 俺は、自分の手元で作られた単語を見て、やはり驚きを通り越して困惑していた。

 こういう動詞とかも単語として作られることもあるが、『知らない』って何だ? 誰が知らないって言っているんだ?


 「ど、どう?」


 鹿取が不安げな表情で尋ねてきたが、俺は正直に答えるしかない。


 「ごめん、わからない」

 「へ?」

 「もう一回、紙を引き直してもらっていいか?」


 俺は鹿取にもう一回抽選箱に手を突っ込んでもらい、引いてもらった数十枚の紙きれを机の上に広げてもらった。

 が、それらの紙きれを見た俺も鹿取も、それらの紙きれに刻まれた文字を見て驚愕、いや体が震えてしまう程に恐怖したのだった。


 「な、なにこれ……」


 本来はひらがなや数字ぐらいしか書かれていないはずなのに、広げられた紙きれに刻まれた文字は全て文字化けしていたのだ。「逧」とか「繧」とか、どんなタイミングで使う漢字なんだよ。


 「たまにあるんだよ、こういうの」

 「ど、どういう占いの結果なの?」

 「ひとまず、有名な神社でお祓いを受けると良い」

 「そんなレベル!?」


 実は今までにも、紙きれに刻まれた文字が焼き焦げていたり、こういう風に文字化けすることはあった。そういう時は多分俺の手に負えないような物凄い力が働いているだろうからと、俺は有名な占い師で占いを受けるか、神社やお寺でお祓いを受けるかをおすすめする。だって気味が悪いんだもの。


 「じゃあ、僕は失敗するってこと?」

 「わからない。でも、少なからず大きな困難に直面することになると思う」

 「その大きな困難ってどんなレベル? 天変地異が起こりそうじゃない?」

 「ありえなくはない」

 「ありえなくはないの!?」


 文字が焼き焦げたり文字化けしてしまうと占いをしている俺でさえ結果がわからないのだが、こういう結果が出てしまった時は大抵悪いことが起きてしまうのだ、相談者にとって。


 同じ部活に所属していて、それなりに交流のあったくるみと鹿取は縁も少なからずあるはずなのに、どうしてこんな結果になる?


 いや……。


 もしかしたら、俺が占いの結果を見ることを拒んでしまったのかもしれない。





 鹿取は少し気落ちしてしまったらしいが、それでもくるみへの想いは止められないようで、来たる月曜日に向けて気合を入れているようだった。

 

 もし、俺がくるみに告白する前に自分を占ってあんな結果が出たならどうしていただろう?

 俺も、鹿取と同じように恐怖心を捨てて立ち向かおうとしたかもしれない。


 それに、鹿取はあの占いの結果をこう受け取ったかもしれない。

 俺がくるみのことが好きだから、鹿取への占いの結果をあやふやにした、と。

 それを知っていて俺に占いを相談しに来た鹿取は中々の奴だと思うし、それに感づいてないなら鈍感が過ぎると思う。



 部室に一人残された俺は、とりあえず文字化けしてしまった紙を処分して、そして抽選箱の中に手を突っ込んで大量の紙きれを掴む。

 

 とうとう、俺が自分のことを占う時が来た。

 俺とくるみの縁を結ぶために、俺はどうすれば良いのか。

 さっきみたいに文字化けしたらどうしようかと少し怯えながら、俺は掴んだ数十枚の紙きれを机の上に広げた。



 良かった、今度は文字化けしていない。ホッと一安心した俺は、いつものように単語を見つけてようとしたのだが、自分の目に入った単語達を見て戦慄したのだった。


 

 『かみかくし』



 『あおば』



 『かみさま』



 『ちがう』



 それは、誰かが俺にメッセージを送ろうとしているかのように思えた。


 いや、これはメッセージではなく警告だ。





 「ハルさん」

 「ぬおおおおおおおおおおっ!?」





 人気も感じなかったのに突然誰かの声が聞こえてきたので、俺は椅子から転がり落ちるほどびっくりしてしまい、ドンガラガッシャンと椅子も机もメチャクチャに倒してしまい、抽選箱の中や机の上から飛び散った紙きれがヒラヒラと辺りを待っていた。


 「どうしたのですか、そんなに驚かれて。もしかして私のことをおかずにしていたのですか?」


 この暗幕に囲われたスペースにいきなり現れた青葉は、ニコニコと微笑みながらいつものように俺をからかってきた。

 人の気配を感じなかったのは当然だ、青葉は人間とは違う存在なのだから。


 「そりゃ、物音もしなかったのに突然声をかけられたびっくりするだろ。何かあったのか?」

 「いえ、そろそろ占いが終わる頃かと思いまして。まだお時間かかりそうですか?」

 「あ、いや、大丈夫だ。ちょっと片付けしてから帰る」


 散らばった紙きれの片付けを青葉にも手伝ってもらって、俺は青葉と一緒に帰路についた。帰り道も青葉は今日の授業がこうだったああだったと色々話をしてくれていたが、俺はそれになんとなく相槌を打つことしか出来なかった。



 『青葉』 『神様』 『違う』



 あの占いは、結局何だったのだろう。

 この間、蛇原さんが言っていた言葉も俺の頭に引っかかる。稲荷神社にはキツネそのものが祀られているのではなく、あくまでキツネはお稲荷様の遣いであると。


 あのメッセージは、俺に対する警告だったのだろうか? その警告を通して俺にどうしてほしいのだろうか?


 俺はまだ青葉のことを信頼している。たまに鬱陶しくも感じてしまうが、青葉が俺に対して何か悪事を働いたことがあっただろうか?

 例え青葉が神様でなくとも俺のことを助けてくれている存在だし、知らない誰かが、もっと高位の存在が青葉への信仰心を薄れさせて彼女の存在を消そうとしているのではないかと、そんな陰謀まで考えていたのであった。

 


 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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