第37話 不思議な孤独感
翌朝、くるみとこはくが俺の家を訪ねてくることはなく、俺は青葉と二人で登校した。
校門でばったりくるみと出会ってしまったが、くるみは俺に気づくと挨拶もせずに逃げていってしまった。やるせない気持ちのまま、俺は教室へと向かう。
「おハルの助~」
朝っぱらからうざったい挨拶をしてきた修治の暑苦しさは変わらない。
「おはよう、修治。今日のお前のラッキーアイテムは呪いの人形だ」
「ラッキーアイテムが呪いの人形って、それなんか矛盾してないか?」
「つべこべ言うな。今日中に呪いの人形を手に入れないと、お前は口内炎になるぞ」
「呪いの人形を探すよりかは口内炎になった方が良いんじゃないか?」
昨日、あんなことがあっても俺はいつも通りの姿を演じていた。俺はくるみが望んでいたこれまで通りの日常を壊してしまったが、これが新しい関係を作り出すためのきっかけなのだと信じている。いや、そう信じるしかないのだ。
これも、縁結びの神様の導きなのだと信じて。
お昼になって、俺は学食へ向かわずに青葉を連れて校舎裏へと向かう。屋外だが校舎の陰になっていて涼しく、そして人気もない穴場スポットだ。
「ハルさん。もしかして貴方は、こんなところで所謂ボッチ飯を……?」
「別に良いだろ、一人でゆっくり食べたい時だってあるんだ」
「そんなぼっちの特等席に私を連れてきたということは、つまり人目につかないのをいいことにあんなことやこんなことを……!?」
「学校でピンクな思考を働かせないでくれ」
今頃、くるみとこはくは姉妹で仲良くご飯を食べているのだろうか。そんなことを考えるだけでナイーブになって食欲がなくなってしまいそうだったから、余計なことを考えずに青葉が作ってくれた弁当を口にかき込むのであった。
放課後、今日はバイトがあるため俺はさっさと学校を出ようかと思っていたのだが、廊下で同級生の男子に呼び止められた。
「ね、ねぇ狐島君。ちょっと良いかな?」
いかにも優しそうな人オーラを放っている黒髪のメガネ男子は、引退したくるみに代わって美術部の部長になった鹿取だった。同じクラスにはなったことないが、俺がくるみの部活に顔を出したりしていたから多少の面識はある。
「鹿取か。どうかしたか?」
「実は相談事があるんだけど、時間大丈夫?」
「ごめん、俺今日バイトなんだ。さわりだけなら聞いてくけど」
すると、鹿取は急に周囲を警戒するようにキョロキョロと見回すと、俺の耳元に顔を近づけて囁いた。
「その……僕、猫塚先輩に告白しようと思っているんだ」
彼のその言葉に俺は動揺してしまいそうになったが、平静を装って「そうか」と呟いた。
「明日もバイトだから難しいけど、明後日なら占い出来ると思う」
「わかった。じゃあよろしくね、狐島君」
俺は鹿取と別れ、そのまま学校を出てバイト先へと向かう。
俺は今までに色々な恋愛相談を受けてきたが、くるみの名前が出てきたのは初めてかもしれない。これまではいつも俺とくるみがベタベタしていて、さもカップルのように扱われていたからというのもあっただろう。
もしかしたら今日一日、俺とくるみがお互いにお互いを避けるような動きをしていたことは周囲にバレバレだったのかもしれない。鹿取のそれは、俺への宣戦布告か。いや、それは考えすぎだろう。
こうしてくるみと一言も言葉を交わさずに一日を過ごしたのは一体何年ぶりだろう、いや今までに一度もあったのだろうか。
例え二人がいなくても、事情を知らずとも修治は俺に声をかけてくれるし、青葉も俺の側にいてくれている。
でもどうして、俺は一人になったはずではないのに孤独感を感じてしまうのだろう?
やっぱり、俺にはくるみが必要なんだ。
だから俺は変わらないといけない。そう意気込んで、俺はバイトへと向かうのであった。
◇
「いや~今日はヒヤヒヤしたな~」
閉店時間間際になって片付けをしていると、すっかりくたびれた様子の先輩の蛇原さんがレジ締め作業のためレジへとやって来た。
「あんな揉めるとは思わなかったっすね」
「まぁこっちのミスだししゃーないしゃーない。何とか丸く収まって良かったぜ~」
今日はオンラインサイトで注文した商品が店舗に到着したというメールが来たのに実際には店舗に届いておらず、ただ徒労に終わってしまったお客さんが憤って怒鳴り散らかしてしまったのだ。原因は確認したスタッフのミスで、現場のこっちは長々と説教を聞かされたが、本部のサポセンが上手くやってくれたのか、お客さんも納得して帰っていったのだった。
「狐島君は大丈夫? あまり怒鳴られ慣れてなさそうだけど」
「怒鳴られ慣れてるのもヤバいと思いますけど、別にこんぐらい平気ですよ」
「そりゃ良かった。今日はこはくちゃんがシフトに入ってなくて良かったわ、くるみちゃんは平気そうだけどこはくちゃんは逆に歯向かいそうでヒヤヒヤする」
「いや、こはくは怖くて泣いちゃうと思いますよ」
「あぁ、それもあるなぁ……最初に対応してくれたのが狐島君で良かったよ。んじゃ、後はお兄さん達に任せてゆっくり休みなよ」
と、蛇原さんはガハハと笑いながら俺の肩をポンポンと叩くのだった。
俺はバイトを終えるとスタッフルームで帰り支度をしていたが、蛇原さんがいつもより早く上がってきた。
「あれ? 蛇原さん、今日は早いんすね」
「後は俺達に任せとけって店長が言うもんだから、俺は店長達の遺志を継ぐべく無事に帰らないといけないんだ」
「そうですか、良い店長だったのに……」
「惜しい人を失くしちまったな……」
奥の方から「殺すなー!」という店長の叫びが聞こえてきたような気がする。元々休みだった店長はさっきの揉め事があったから慌てて出勤してきて、そして現場で対応してた蛇原さんを労るべく早めに帰してくれたのかもしれない。
「それにしても狐島君、あんま元気なさそうだけど体調悪いのか? もしかしてさっきの、結構堪えてる?」
「いや、体調は問題ないですよ」
「じゃあなんだ、もしかしてくるみちゃん絡みとか?」
と、蛇原さんは俺の気分を和ませようとしてくれたのか、おちゃらけた様子で聞いてきたのだが、彼のその問いに動揺を隠せなかった俺を見て、蛇原さんの表情が急に固まってしまった。
「そうか……ここはこの素敵なお兄さんがお節介を焼かないといけないってわけだな!」
「いや良いですよそんなの」
「まぁまぁ、俺だって狐島君達にはいつも助けられてるし、少しは手助けさせておくれ。んじゃファミレスね」
「あそこのファミレス、今日は改装とか清掃で休みですよ」
「あー……でも今はラーメンとか中華って気分じゃないしなぁ。居酒屋に行くわけにもいかないし……あ、狐島君の家に上がり込んでいいかな?」
「野郎はちょっと」
「ダメか~」
これまでに俺が家に招いたことがある人物は、幼馴染のくるみとこはくと、後は親友の修治ぐらいか。どうせ一人暮らしには広すぎるぐらいの家だから友人を何人も呼んでも困らないのだが、事情を知らない人達に色々詮索されたり気を遣われるのも困るのである。
でも、蛇原さんなら俺やくるみのことをよく知っているし、青葉だけじゃなくて蛇原さんのアドバイスも参考にしてみたい。
「大したものは用意できないですけど、来たいなら別に良いですよ」
「お、マジ? じゃあ何か買い足して行こうかな」
「いや、青葉がいるのでご飯は大丈夫だと思いますよ」
「そういえばあの子もいるんだったね、狐島君のとこ。次こそはしっかりアピールしてみせる……!」
この人、まだ青葉のことを狙っているのか。
というわけで俺は青葉に連絡を入れて、青葉と会うのが楽しみでウキウキしている蛇原さんを連れて帰宅するのであった。
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