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第3話 雨に濡れた美少女



 神社からの帰り道。

 ギラギラと日差しが街を照らしていたはずなのに、ポツポツと雨粒が顔にかかってきたかと思えば、まるでスコールのような勢いで猛烈な雨が俺を襲いかかっていた。


 「おいおいおいおい! 強すぎだろ!」


 天気雨、所謂狐の嫁入りにしては雨の勢いが強すぎる。まるで、長年想い続けてきた幼馴染に振られた俺に、さらなる罰を天が与えてきているようで……さっき神様にお参りしたはずなんだがなぁ。竹やぶにいたキツネに油揚げでも献上しないとダメだったのだろうか。



 

 「あ~……最悪だな、これ」


 俺は大急ぎで帰宅したが、それでも頭から足までビショビショで、体にピッタリ張り付いた服の感覚も、歩く度にビチャビチャと水が吹き出てくる靴の感覚も不快でしょうがなかったが、この雨が俺の心にかかった深い靄を洗い流してくれたわけでもなく。


 家の鍵を開いて、誰もいない廊下に向かって「ただいま」と呟く。誰もいないから俺は玄関でビショビショの服を脱ぎ、湯船にお湯を貯めてからシャワーを浴びたが、やはり俺の心にかかる靄を洗い流してくれるわけもなく、長風呂するような気分でもなかった。


 「はぁ……」

 

 入浴を終えて、テレビも照明も点けずに、俺は深い溜め息をついて冷房が効いたリビングのソファに腰掛けた。天気雨なのかと思ったが、未だに外からは激しい雨音が室内まで響いてくる。

 ドライヤーで頭を乾かす気にもなれず、何か気分を紛らわそうと思って携帯を手に取った瞬間、突然着信音が鳴り響いた。



 「く、くるみ……!?」



 俺に電話をかけてきたのは、なんとくるみだった。

 くるみが俺に電話をかけてくること自体は珍しくない。


 『ごめん、ハル君』


 さっき、あんなことがあったばかりなのに、一体何の用だろう?

 まさか、気が変わったのか? そんな楽観的な展望を見いだせるわけもなく……あのくるみのことだ、これからも仲良くしようと念を押すか、俺がさぞかし落ち込んでいるのだろうと思って心配しているのか、だろう。


 「くるみ……」


 くるみの反応を見るに、きっと俺のことが嫌いなわけじゃないはずだ。ただ、これまでの関係を変えるのを拒絶されただけで……でも、もう良い方向に変えられるような気がしない。


 「ごめん……」


 ほんの僅かな可能性ながらくるみの気が変わった可能性もあったが、今の俺はとてもくるみと話せるような精神状態ではなく、ただただ着信音が鳴り止むのを待ち続けたのだった。





 着信音が鳴り止むと、再び外から激しい雨音が響いてきた。きっと俺の心にもこれぐらいの猛烈な雨が、いいや、この家が吹き飛んでしまいそうな突風が吹き荒れていて、この世の終末を感じさせるように雷鳴が鳴り止まない世界に成り果てているに違いない。


 俺はくるみに振られる可能性だって考えていたはずなのに、覚悟していたはずなのに、いざこうして残念な結果を突きつけられると、それでもなおくるみのことを諦めきれずにいる自分が情けなく思えてしょうがなかった。


 

 時計を見ると、既に夕方の六時を回っていたところだった。いつもならこの時間、家のインターホンが鳴って──。



 『はい、ハル君! 今日は肉じゃが!』

 『今日はコロッケ!』

 『今日は冷やし中華だよ!』



 と、くるみが自分の家の夕食をタッパーに詰め込んだり大皿に盛り付けたままラップで包んで持ってきてくれる頃合いなのだ。

 


 『今日は私が作っておくよ。カレーとかで良い?』



 場合によっては、くるみ自身が手料理を振る舞ってくれることもあったのだが……そういったくるみの行為は、決して俺に対して好意があったわけではなく、身寄りのない俺のことを憐れんでの親切心によるものだったに違いない。

 

 くるみは、優しい奴だから……。





 ピンポーン




 と、家のインターホンが鳴り響いた。

 俺はびっくりして廊下に出て、玄関の方を見る。

 そして、もう一度ピンポーン、とインターホンが鳴る。


 「く、くるみ……?」


 まさか、今日も夕飯を届けに?

 いや、まさかそんな。


 玄関の扉を開いて、くるみが笑顔でタッパーを持っていたら、俺は彼女の正気を疑うだろう。それが失恋した男に対するくるみなりの優しさだとしても、俺は今、そういう優しさを求めてはいない。


 それに、こんな猛烈な雨が降り続ける中、わざわざ好きでもない奴の家に夕飯を届けに来る義理なんてくるみにもないはずだ。


 でも……くるみが言っていたように、彼女がこれまでと変わらない関係を望んでいるのなら。

 しかし、この扉を開けてしまうと、もう二度とくるみとの関係を変えられないような気がして。



 だが、俺は扉を開けてしまったのだった。



 もう変えることの出来ない、日常へ戻りたくて────。

 




 「こんばんはっ」





 軒先で俺に無邪気な笑顔を向けてきたのは、くるみではなかった。


 ただ、くるみじゃなかったとしても、この家に誰かが訪ねてくる事自体が本当に珍しいことなので、俺はまずそれに驚いて。


 「ど、どちら様……?」


 くるみと同じぐらいの長さの黒髪で身長もくるみと同じぐらいだが、童顔だからくるみより幼く見えるる。そんな彼女がニコッと微笑んだだけで傷心気味の俺がときめいてしまいそうになるぐらいには、可愛らしい容姿の少女だった。


 「私、不運なことに雨に濡れてしまったんです」

 「いや、見ればわかるが」


 少女が着ていたのは、夏らしい青地に無数の向日葵が描かれた着物だ。近くで祭りがあったわけでもないのに、ここら辺でそんなおめかしをしている人は珍しい。

 そんなせっかくの着物も、彼女の長い黒髪も、傘がないからかビショビショだったが。


 「なので、少し雨宿りさせていただけませんか?」


 ここら辺には他にも住宅が連なってるのに、どうしてよりにもよってこの家に訪ねてきたのだろう。何か悪いことを企んでいるような悪人には見えなかったし、年頃の男一人しかいない家に年頃の少女を招き入れるのは流石にどうかと思って、近くにあるくるみの家へと案内しようかとも考えた。


 しかし、今はくるみに顔を合わせられる気がしなくて、何よりも、軒先に佇む彼女は俺に笑顔を向けていたが、雨で冷えているからかその体を震わせていたため、俺はそのまま彼女を中へと通したのだった。


 「た、タオル持ってくるから」


 俺が何枚かバスタオルを用意すると、少女は雨に濡れた自分の体を拭き始める。同年代ぐらいの女の子が雨に濡れた姿はどうしても官能的に見えてしまって、ついついその姿をジーッと見てしまっていた俺の視線に、彼女も気づいてしまったようで。



 「いかがですか?」

 「へ?」

 


 彼女はまだ水が滴る自分の髪をかき分けながら、クスッと微笑んだ。



 「雨に濡れてピッタリと美少女の体に張り付いた衣服。女の子らしい体のラインが見えて、とても情欲をそそりませんか?」


 

 幼気な可愛らしい声で発せられたとは信じられない、俺を誘惑するような言葉。



 ……もしかして俺、コイツを家に招き入れない方が良かったか?


 

 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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