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第27話 俺と姉と妹と神様



 「ねぇねぇハルくん。今日の私の運勢はどんな感じかな?」


 くるみと青葉が俺を挟むように、そしてくるみの右隣にこはくが並ぶような形で俺達は歩道を歩く。


 「健康運とかには問題ないが、金運に難ありだな」

 「え、なにそれ。今日の私に一体どんな災難が降りかかるの? 何かスリとか詐欺に遭ったりする?」

 「まぁ、そんな深刻なものじゃないから心配するほどのことじゃないさ。概ね平穏だろう」


 多分財布を落としたけど見つかって良かった~ぐらいのレベルの話だ。多分探せばすぐ見つかる場所にあるだろうし。


 「ではハルさん。今日の私の運勢はどのような感じなんでしょう?」


 と、くるみに張り合うようにして青葉も俺に占うよう迫ってきた。いや、お前神様なんだから自分のことぐらい自分でどうにかしろと言いたいところなんだが。


 「まぁ、なんか良いことあるんじゃないか?」

 「随分とアバウトな内容ですね。その良いことってどのくらい良いことなんですか?」

 「空から百万円降ってきたみたいな?」

 「それで例えるなら一億円ぐらいの額だな」

 「ハルさんはそんな大変な出来事をあんなアバウトに言っていたんですか!?」


 別に一億円が直接手に入るってわけじゃないから、なんとも言い難い。それにその良いことってのはそれを実際に体験した人の主観によるものだから、他人からは十万円ぐらいの価値に見えても本人からすれば一億円ぐらいの価値があるということなのかもしれない。


 そして、くるみと青葉と続いたからには、当然残るもう一人に目が行くわけで。


 「ねぇ、こはくちゃんもハルくんに占ってもらったら?」


 と、くるみがこはくに問いかける。こはくは俺に挨拶した後からずっと黙ったままだったが、くるみに促されて俺の方を向くと口を開いたのだった。


 「今日、私に何か良いことはありますか?」

 

 と、くるみや青葉とはちょっと違う聞き方だ。昨日のことは果たして夢だったのか、そう思ってしまう程こはくはいつも通りである。


 「まぁ、あるっちゃある」

 「なんですか、その煮えきらない答えは」

 「なんというか、不幸中の幸いみたいな良いことだ」

 「じゃあ今日、こはくちゃんに何か起こるってこと?」

 「そんな心配するようなことじゃない」


 道具と時間があればもっと正確に占えるだろうが、今は登校中だし、わざわざそんなものを用意するほど深刻な結果は今は見えない。

 なお、俺自身の占いは、と……前途多難の相が見えまするな。ここ最近はずっとそんな気がする。おかげで朝っぱらから妙な胸騒ぎに襲われているが、今はそんなことなんてどうでもよく思えてしまう状況である。



 「こはくさんにとって良いことってなんなんでしょう? 誰かからお菓子を貰えたとかでしょうか」

 「いや、私はそんな子どもじゃないので」

 「好きな人に褒めてもらえたとか?」

 「べ、別にそんなの嬉しくないしっ」

 「ほんとかなぁ~」

 「ほんとですかねぇ~」


 と、青葉もこはくの扱い方がわかってきたのかというやり取りを見せられる中、俺の胃は未だにキリキリと痛むのであった。



 考えてみろ、この状況を。片やつい最近俺が振られた年上んお幼馴染、片や失恋した俺の前に恋人として現れた縁結びの神様、片やつい昨日俺に告白しようとしてきた年下の幼馴染。


 こんな奇妙な関係性の三人と一緒に登校だなんて、落ち着くはずがない!

 絶対普通じゃないだろ、こんな状況! 俺が今まで見てきたものは全部夢だったというのか!?



 「じゃあさ、青葉ちゃんが一億円貰えた時ぐらいの良い事ってなんなんだろ?」

 「なんでしょうかねぇ。教室の机の中に一億円の金塊が入っていた時でしょうか」

 「そりゃ価値は一億円だろうけど。本当に一億円の価値があるものが手に入るのかな?」

 「その時はくるみさんとこはくさんにもお分けしますよ。ハルさんにはあげませんけどね」

 「いやなんで?」

 

 なんか俺だけ理不尽な扱いを受けるのは癪なのだが、くるみもそういう物言いをよくしてくるし、いつもは不機嫌そうなこはくもクスッと笑っているのを見て、まぁ別にいじられてもいっかと俺は思うことにした。



 きっと、俺を取り巻く状況を何の事情も知らない他人が見たら、両手に花どころか花束ぐらいの状況かもしれないが、俺達のことをよく知っている人間が見たなら、表面上は笑顔を取り繕っている俺達のぎこちなさに気づくはずだ。


 実際、話を進めているのはくるみと青葉だけで、時折話を振られた俺やこはくがツッコミを入れるだけ。会話が無いよりかはマシかもしれないが、くるみと言葉を交わすだけで疲れを感じている自分もいる。


 これが、くるみが望むいつも通りの日常だというのか? こはくもそれを望んでいる?



 この状況は、明らかに異常だ。あんな出来事が続いたら俺達の間柄は疎遠になっていてもおかしくない。

 しかし、この『今』はくるみ達と疎遠になるよりもマシな状況だと言えるだろうか?


 こんな奇怪な状況をこの縁結びの神様が気を利かせたつもりでセッティングしたのなら、彼女は人の心を知らなさすぎるだろう。


 





 「おーっす、ハルの助~」


 自分の席に着いて支度をしていると、今日も修治が俺の席へとやって来た。見ると修治の右腕には包帯が巻かれている。


 「おはよう、修治。どうしたんだその腕は。とうとうお前も右腕に何か封印したのか?」

 「クックック……どうして俺が右腕に包帯を巻いていると思う?」

 「やめろ、それ以上近づくな、ソーシャルディスタンスを守れ。中二病がうつる」

 「ちげーよ、この年になってそんなことやらんさ。いや実はな、お前のおかげでな……俺、バイトをクビになったし、せっかく出来た彼女にも振られたんだ……」


 そういえば俺、昨日の放課後に修治を占ってたっけか。なんかすまんな、修治。まさか本当に全部当たるとは思わないじゃん。


 「お前の占いの通り、道端でめっちゃ強そうな大型犬に襲われている女の子を見かけてな、右腕を怪我しながらもなんとか女の子を救出出来たは良かったんだが、結局バイトには遅刻して理由を説明しても店長ガチギレしちゃってクビになり、そして俺の彼女も見知らぬイケメンに寝取られ、昨日の俺はフルボッコだったというわけさ……」


 バイトに遅刻してクビになるのはともかくとして、せっかく出来た彼女をイケメンに寝取られるのは関連性がなさすぎる出来事だ。まさに泣きっ面に蜂。


 「すまないな修治。俺が早めにラッキカラーが空五倍子色だとお前に伝えていれば……」

 「いや良いんだ。なんせな、バイトをクビになって彼女を寝取られ、悲しみに打ちひしがれて一人で街中を歩いていた俺は、大型犬に襲われていたところを助けた女の子と再会したんだ」

 「ドラマチックだな」


 そのままラノベのタイトルになりそうな流れだ。一応、それも俺の占い通りではあるのだが。


 「でな、なんと助けてくれたお礼にって、今度食事に行きませんかって誘われたんだ! これぞ不幸中の幸いってやつだな!」


 と、俺の机の前で浮かれてはしゃぎ回る修治。まだ恋人が出来たわけじゃないのに浮かれすぎだと思う。でも悲しみに打ちひしがれていたところに美少女が現れたら、そりゃテンションもおかしくなるだろう。その流れは俺と殆ど一緒だし。


 ただ、俺と修治の出会いの違いは、修治自身はまだ気づいていないようだが、彼が助けた女の子は見た目が女の子ってだけで、女の子とは限らないという点である。

 まぁ、俺があえて言うまでもないことだ。それに気づいた時の修治の反応を楽しみにしておこう。




 ◇




 つつがなく午前の授業も終わって、というか夏休み明け直後だというのにテストばっかりだったが、まぁそれなりに手応えはあった。きっと、夏休みの間も受験勉強で忙しいはずのくるみが俺に勉強を教えてくれていたからだろう。


 「ハルの助~。お前は今日も美人なお姉さんの愛妻弁当か?」


 と、ニヤニヤしながら修治が俺の席へとやって来る。


 「何が愛妻だこの野郎め」

 「でもよ、青葉先輩が弁当作ってくれるようになったけど、たまには猫塚先輩の弁当も食いたくなるんじゃないのか?」

 「まぁ、そりゃそうさ」


 青葉が現れる前まで、俺の学校での昼食は学食のやっすいカレーか、あるいはくるみが作ってくれた弁当が半々という割合だった。いくらくるみのご厚意とはいえ、毎日作ってもらうのは悪かったし。


 なんて修治と話していると、廊下に見知った顔が三人……ん? 三人?


 「ハルさ~ん!」


 と、廊下から大声で俺の名前を呼んでくる青葉。


 「一緒にお昼食べよ~」


 と、青葉と同じく大声で俺をお昼に誘うくるみ。


 「ほら、早く支度してください」


 と、くるみと青葉に比べると控えめながらも、一緒にやって来たこはく。


 

 そんな三人が現れて教室内が騒然とする中、修治が呟いた。


 「お前、いつか天罰下るぞ……」

 「なんでだよ」


 俺だってわからねぇよ、この状況。しかも天罰って言ったって、それを下す側があの中にいるんだぞ。





 そして、四人で囲むことになった昼食はというと。


 「わぁ、この炊き込みご飯美味しいね。生姜が効いてて良い感じ」

 「そうでしょうそうでしょう。こはくさんもいかがですか?」

 「もごっ!? 聞く前に口に突っ込まないでくださいよ!?」

 

 と、くるみと青葉がお互いの弁当を褒めちぎり、それにこはくが巻き込まれるという状況をただただ俺が見守るだけの時間だった。意外と平和な空間である。


 一方で俺はというと、今日も青葉が作ってくれた弁当は美味しかったはずなのだが、この三人と同席しているとどうも胃がキリキリと痛むので、どんな味なのか全然わからないし、早くこの時間が終わるよう願うだけであった。



 一体、この三人の中の誰が、この面子で一緒に昼食をとろうと発案したのだろう?

 それもこの縁結びの神様の仕業なら、彼女はこの世の因果律というものを無視しすぎているだろう。



 疎遠になるよりかはマシとはいえ、どうして本来あるはずだった日常がこんなにも苦しいのだろう……?


 

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