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ねこや、放課後。  作者:
第三章 鍵を手にしたその先
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番外編 ようこそ、こちら側のねこやへ

雨が上がった夜、静かな「ねこや」にひとりで立つ奏。

手には、大切なものたち。


それらはただの“もの”ではなく、

まだ言葉にできない想いの先へと、彼女を導いていくものでした。


“扉”が開くとき、誰かが待っている。

そんな予感を胸に、奏は、そっと歩きはじめます。


雨上がりの夜だった。


静まり返った「ねこや」の店内を、奏はそっと歩いていた。


カウンターには灯りがともり、ランプの光がゆらゆらと揺れている。けれど誰の姿もない。まるで、世界から音だけが抜け落ちたようだった。


手には、旅立った人から譲られた手帳。

その中に挟まれていた金色の鍵型のしおり。

そして、創からもらった白い猫のぬいぐるみのお守り。


どれも、いま自分がここにいる理由を語っている気がしていた。



バックオフィスの奥。普段なら立ち入ることのないその先に、小さな木の扉がある。

鍵がかかっていて、スタッフでもめったに入ることのない、秘密の場所。


でも今夜は、なぜか——


「……開いてる」


小さく開いたその扉を前に、奏は立ち止まる。

引き寄せられるように、手を伸ばしかけたとき。


「ようやく来たにゃ」


ふわりと、クロエが足元に現れた。しっぽを優雅に揺らしながら、まるでそれが当然だったかのように言う。


「それ、持ってるってことは……入る準備ができたってことにゃね」


「……これ?」

奏はしおりを見つめる。金色の小さな鍵の形をしたそれは、確かにただの栞にしては重みがあった。


「君の中に、鍵穴ができた証拠にゃ」


クロエはそう言って、まるで「行っておいで」とでも言うように、軽く背中を押した。



扉の向こうは、「ねこや」によく似ていた。

けれど空気が違う。音が違う。

時間が止まっているような、不思議な世界。


カウンターの奥に、誰かの気配がある。


「来たね」


静かに立っていたのは、梨沙だった。


見覚えのある、人。

奏が初めて見たときの梨沙よりも少し大人びて、でもどこか柔らかい空気を纏っている。


「……?」


「わたしは梨沙よ。雪さんから、あなたの話は聞いてたわ」

彼女はカップを差し出しながら、微笑んだ。

「ようこそ、“こちら側のねこや”へ」



ふたりの間に、深い静けさが流れる。

紅茶の香りだけが、記憶の中の時間を撫でていく。


「ここは……何なんですか?」


「あなたの“内側”みたいなものよ。まだ開きかけの扉の中。

だけど、あなただけじゃない。わたしも、ここで立ち止まったことがあるの」


奏は手帳を開いた。しおりがはらりと落ちかけて、ページの下から、小さな「鍵穴」のような印が浮かび上がる。


「……これ、いつのまに?」


「それが見えるようになったってことは、もう迷ってないってこと」


梨沙はスコーンを皿に置きながら、静かに言った。


「わたしの扉が開いたとき、そこに雪さんがいた。……だから今度は、わたしが、あなたの“扉の先”を照らす番かもしれないね」



「その鍵、どの扉にも合うにゃよ」

クロエがテーブルの上から囁いた。

「でも、“開けるかどうか”は、奏次第にゃ」



そのとき、ゆるやかな風が店内を包み、ふっと灯りが揺れた。

次の瞬間、奏ははっと目を覚ました。



そこは、いつもの「ねこや」。

手には、あの手帳。


そのページに——あの鍵しおりと、小さな鍵穴の印が、確かにあった。



本日のメニュー(記憶のねこやver.)

•記憶のティーセット(紅茶とレモンピール入りスコーン)

•迎える人のためのスコーン

•しずかな鍵のケーキ(鍵型チャームをあしらったミニケーキ)

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