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ねこや、放課後。  作者:
第二章 鍵のある場所
33/41

番外編 ランプの裏に、小さな鍵

今回の物語は、静かな午後の「気づき」のお話です。


なにげない掃除の途中で見つけた、ひとつの鍵。

それは、まだ開いていない“扉”への、ささやかな導入かもしれません。


奏がここにたどり着いた意味。

そして、ここから先へ行くために必要なもの。


少しだけ、不思議で、少しだけ現実的な、

そんな「ねこや」の裏側のような一篇をお届けします。

「……ん?」


掃除の手を止め、奏はふとカウンター脇のランプに目を留めた。

ベースの真鍮が少しかたむいている気がして、そっと持ち上げる。


ごとり。


小さな木箱が足元に落ちた。


「なにこれ……?」


拾い上げてみると、古びた小物入れだった。

淡いグレーの木目に、猫のシルエットがひとつ彫ってある。


どこかで見たような――そう思って蓋を開けると、中には小さな鍵が入っていた。


 


「それ、ロコが置いていったやつだにゃ」


いつの間にか後ろにいたクロエが、何でもないように言う。


「ランプの裏、よく見てみると棚みたいになってるのにゃ。ロコは“隠れ棚”って呼んでたにゃ。意味あるかは知らないけど」


「なんの……鍵?」


奏がつぶやくと、クロエは鍵にひげを近づけてくんくんとにおいを嗅ぐ。


「ふるい記憶のにおいがするにゃ」


 


その言葉に、奏はそのまま鍵を握ってバックオフィスの扉の方へ歩いた。


そのとき、店の奥から雪が現れる。

奏は一歩踏み出したまま、鍵を見せた。


「この鍵……あの扉の?」


雪は一瞬だけ目を細め、そしてやさしく微笑んだ。


「その鍵じゃ、開かないわ」


「え……でも、鍵穴が……」


「たしかに似てる。でも、それはあなたの鍵じゃないのよ」


ちょっと残念そうに、鍵をそっと木箱に戻して、奏は雪の横顔を盗み見る。

バックオフィスの扉は静かにそこにあるが、開ける手がかりがない。


「ここは現実なんでしょうか。……こういう場所って、本当はどこにもないのかもしれないなって。

ここに来る人たちは、なんかみんな……救われてるみたいで、まるで夢の世界」


ふと、言葉がこぼれる。


「夢だから……?ここって、なんでこんなに優しいの?」


雪は少し驚いたように目を丸くして、それから、目を細めた。


「優しくなんか、ないわよ」


その言葉はきっぱりとしていたけれど、不思議とあたたかかった。


「選んできたのは、あなた自身でしょ?

怖かったり、迷ったりしながらも、ちゃんと。

誰かに与えられたんじゃない。奏が、自分でここを選んだのよ」


さっきの鍵をもう一度、出してみる。


「わたしの鍵は、どこにあるんだろう」


「きっと、出会うわ」


そう言って雪は、小さく灯りをつけた。

ランプの明かりが、鍵のかたちを、やわらかく浮かび上がらせた。


 

「鍵はどこかにあるにゃ。きづかないとそのまま通り過ぎてしまうかもにゃ」


クロエのささやきが、心の奥に小さく響いた。


奏は、まだ知らない扉の向こうを想像する。

それはきっと、もうすぐ訪れる物語の入り口だった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


「扉」と「鍵」は、ファンタジーでもあり、現実でもあります。

“今の自分では開けられないもの”に出会ったとき、

わたしたちは思い出すのかもしれません。

――「この先に、何かがある気がする」と。


奏にとって、それはまだ手に入れていない“自分だけの鍵”。

だけど、それがどこかにあると気づいたことが、

たぶん、新しい物語のはじまり。


次の章では、また少し、違う世界の風が吹きはじめます。

よろしければ、これからもお付き合いください。


では、また「ねこや」でお待ちしています。

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