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ねこや、放課後。  作者:
第二章 鍵のある場所
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第19話 ひとりじゃないって、いつ気づける?

今回は、学校行事に向けて不安を抱える奏の物語です。

“あの場所”の焚き火と、そっと寄り添う誰かの存在が、彼女の背中を押してくれますように。

放課後の廊下。夕陽が斜めに差し込み、床に長い影を落とす。

 靴箱の前で立ち止まり、私は深呼吸をひとつ。


「……明日、キャンプか」


 あんまり気が進まない。

 今はもうそんなにクラスで浮いてるわけじゃないと思う。

 でも、友達と呼べるほどの関係でもない。


 それに、グループ分けとか自由時間とか、そういう“なんとなく”がいちばん怖い。


「また、ひとりになっちゃったら……」


 気づけば、手の中には白い猫のキーホルダー。

 カバンに付け直して、私は校門を出た。



 カラン——。


「いらっしゃい、、あら奏ちゃん、おかえりなさい」


 今日は、いつもより柔らかな声で迎えられた気がした。


「雪さん……ただいま、です」


 雪さんは、あたたかなカフェオレ色のランプを灯していた。

 その光が、ほんのり不安を包んでくれる。


 クロエがカウンターに飛び乗る。首輪についた鍵チャームが、ちいさく揺れた。


「人が集まる場所って、案外ひとりを感じやすいのにゃ」


「……うん。どうしてだろうね」


「にゃんでも、声をかける方も、かけられる方も、ちょっとだけ怖いんじゃないかにゃ」


 私はクスッと笑う。「それ、わかるかも」


 雪さんが、そっとメニューを差し出してくれた。


「今日は“火”をテーマにしたスイーツを作ってみたの。食べる? 明日のための、おまじないよ」


 そこに描かれていたのは、《焦がしバターのフィナンシェ》と《ハーブティー・焚き火ブレンド》。



 バターの香ばしさと、ほんのりスモーキーなハーブの香り。

 焚き火のようなぬくもりが、胸に沁みる。


「……わたし、学校では、なんでもない子なんです。話しかければ返してくれる子はいるけど、自分から行く勇気はなくて」

「明日も、自由時間とか、またひとりになっちゃいそうで……」


 クロエが、そっと私の足元に寄り添った。

 そして、ぽつりと。


「“誰かの視線がないと、ひとりぼっちだと思っちゃうにゃ”。でも、ほんとはそうじゃないにゃ」


「……うん」


「君を覚えてくれてる人が、いるにゃ。前に少し話しただけのあの子とか、レモンスカッシュの男の子とか」


 私は、驚いた顔をしてから、小さく笑った。

 そういえば、最近すれ違うたびに、ちょっとだけ目が合うようになってきた気がする。


「気づいてくれる誰かが、いるかもしれない」

「……だから、わたしも。自分から、ひとつ声をかけてみようかな」



 そして、キャンプ当日。


 バスの中、私はそっと周りを見渡す。

 数人と目が合って、軽く笑顔でうなずかれる。

 それだけで、ほんの少しだけ、世界がやわらかく見えた。


 自由時間には、前にごめんと言ってくれた子が「一緒に回らない?」と声をかけてくれた。

 レモンスカッシュの彼とも、何気なく「晴れてよかったな」って言い合えた。


 わたしをひとりにした主犯格の子は、どこか離れた場所にいた。

 彼女の輪から、そっと距離をとる子が、少しずつ増えていた。


 私はひとりじゃなかった。

 気づくのに、ちょっと時間がかかっただけだった。



 夜。

 焚き火を囲んで、クラスのみんなでマシュマロを焼いていた。


 パチパチと音を立てる火の音が、空を照らす。


 なんとなく輪から外れて、私は少し離れたベンチに座った。

 そのとき、スタッフの大人がひとり、静かに隣に腰を下ろした。


 焚き火の光に照らされた横顔——え? 創さん?


「火って不思議だよね」

 彼がぽつりと呟いた。


「怖いけど、あたたかい。ひとりで見ると寂しいけど、誰かと見ると安心する」


 私は、横顔をそっと見る。

 その目は、どこか遠くを見ているようで、でも優しかった。


「……たぶん、それが“居場所”ってことなんじゃないかな」


 そう言って彼は立ち上がり、静かに歩いていった。

 どこからともなく黒猫が後を追った。


 そのとき、クロエの鍵チャームが〝シャラン”と揺れる音が聞こえた気がした。



 翌朝。

 帰りのバスの中で、私は白いキーホルダーを指先でなぞった。


 ねこやの灯りは、今日もきっとどこかで誰かを照らしてる。

 その“誰か”に、昨日の私がなれたのなら——それだけで、少し誇らしかった。


本日のメニュー

《焦がしバターのフィナンシェ》

《ハーブティー・焚き火ブレンド》



読んでくださって、ありがとうございました。

誰かとつながること、自分から声をかける勇気。

どちらもきっと、ちいさな“おまじない”みたいなもの。


次回も放課後に

またお会いできますように。


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