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ねこや、放課後。  作者:
第二章 鍵のある場所
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番外編5 ねこやのヒミツ、もう少しだけ。

今回はもうひとつの“ねこやの夜”をお届けします。

雨の音、静かな店内、見えてしまった秘密。

奏の視点から、少しだけ“あちら側”がのぞけるお話です。

― 雨の夜にだけ、見えるもの ―


雨が降っていた。


学校帰り、少しだけ遠回りをしていた私は、急な雨に降られた。

傘はなく、走っても間に合いそうにない。自然と足が向いたのは、あの場所だった。


「……ごめんなさい、勝手に……」


裏手の小さな扉をあける。普段は入らない、スタッフ用の勝手口。

でも、鍵は開いていて、私は雨宿りのようにそっと中へ。


店内は、いつもと違っていた。


静まり返ったカフェの中。灯りはごくわずか。

夜のねこやは、まるで時間の外にある場所みたいだった。


そのとき——


奥のカウンター席で、ふたりの男性が話していた。


ひとりはあの猫のお守りをくれた創さん。もうひとりは、黒いジャケットを羽織った川崎さん。


ふたりはコーヒーを前に、ぽつりぽつりと何かを語っていた。


「……それでも、俺はあの夜を忘れない。雪がいなかったら、あっちのねこやは続かなかったな」


その空気は、どこか“戦友”のようだった。

穏やかなのに、過去を背負うような、そんな重たさを帯びていた。


私は声をかけられず、柱の影にそっと隠れる。

耳が、離せなかった。


——そのとき。


あの奥の扉が「カラン」と音を立てて開いた。


現れたのは、雪さん。


いつもより少しだけ違う服装。

白いシャツに細身のスカート、髪を下ろしていて、どこか“カフェの人”というより、

“もう一人の顔”を持った誰かのように見えた。


「……また、来てたの?」


「鍵は開いてた」


3人のやりとりは、親しさの中に緊張感があって——

まるで、長いあいだ誰にも見せてこなかった会話みたいだった。


「あっちに顔出すの久しぶりだろう」


「……そうね、もうわたしがいなくてもいいのね」


「あの子には隠したままなのか」


「隠してないわ。でも時ってあるじゃない」


その言葉の意味は、私にはわからなかった。

でも、なぜか胸の奥が、少しだけざわついた。


そのとき、足元にふわりとした気配。


「……クロエ?」


黒猫が、何でもない顔で私の足元に丸くなる。


「にゃにゃ。見ちゃったにゃ?」


「……知らないままでいたほうが、よかったのかな」


「そう思うってことは、もう知りたいにゃ」


その声に、私は少しだけうなずいた。


たぶん、もう戻れない。

でも、それでも見たかった世界が、ここにはあるのかもしれない。



翌日。


私はカウンターに立っていた。何事もなかったように。


雪さんが、静かに紅茶を差し出してくれる。


「昨日は、雨、すごかったわね」


その言葉に、私は笑ってこう返した。


「はい。でも、少しだけ、違う景色が見えた気がしました」


雪さんの微笑みが、ゆっくりと深くなる。


その瞳の奥にある何かを、私はまだ知らない。

でも、きっと、いつか——


ご覧いただきありがとうございます。

まだ語られていない“もうひとつのねこや”があるのかもしれない。

それでも、ひとつずつ。奏が触れていく世界を、見守っていただけたら嬉しいです。

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