番外編4 君の知らない“ねこや”へ
ふと検索してみたくなることって、ありませんか?
どこかに記録があるはず、そんな気がして──でも、見つからない。
この物語は、「ねこや」に通うようになった奏が、初めて“この場所の秘密”に少しだけ触れる、小さな番外編です。
静かな放課後、ふと気づいた違和感。
カウンターの奥、鍵のかかった扉。
そして白いぬいぐるみの“お守り”。
いつもの優しさの中にある、少しだけ不思議な気配。
“ねこや”は、もしかすると──
放課後の帰り道、ふとしたきっかけでスマホを取り出し、「ねこや」と検索してみた。
なのに、出てこない。
いや、“出てこなすぎる”のだ。
「ねこや カフェ」
「猫 喋る カフェ」
「白い猫 カフェ ぬいぐるみ」
どれも検索結果は、別の似たような名前の店ばかり。
わたしの知ってる「ねこや」は、どこにも見当たらない。
──変だな。
確かにここに通ってるし、場所だってわかってる。地図アプリには一応、建物のピンは立ってる。でも、そこにカフェの名前は載っていない。
SNSにもほとんど投稿がない。タグも見当たらない。
口コミに載っていたとしても、
「なんだか不思議な雰囲気だった」
「また行けるかな、あの場所」
そんな曖昧な言葉ばかり。
(まるで、誰かがわざとぼかしてるみたい)
思わず背筋がひやりとする。
だけど、それと同時に、ちょっとだけワクワクしている自分もいた。
「ねこやって、もしかして…」
──何か、ふつうじゃない場所なのかもしれない。
⸻
翌日。
放課後のねこやは、いつも通りだった。
ミルキーが店内をすり抜けて歩いている。雪さんは棚を整えていて、クロエは窓際の椅子で丸くなっている。
でも、どこかに“違和感”が残っていて、わたしはそれをたどるように、奥の方へ歩いていった。
目当ては、前にふと見かけた「バックオフィスの写真」。
たしか古い棚の脇、鍵のかかった小さな扉のそばに──あった。
今日は誰もいないのを確認して、そっと近づいてみる。
アンティークの木製フレームにおさまった一枚の写真。
そこに写っているのは、雪さんと、前に店内で見かけた数人と知らない人たち。
その中には、クロエと、他の猫たちの姿もある。
──でも、服装も背景も、今の「ねこや」とは少し違っていた。
どこか別の店。あるいは、もう過去の風景?
それとも……ここではない、“どこか”?
「……これって」
言葉にした瞬間、クロエが足元をスルリと通り抜けた。
そのまま、奥にあるアンティークな扉へ向かい、何事もなかったようにすっと消える。
扉には小さな錠前がかかっていた。
わたしが思わずその前に立つと、消えたはずのクロエの声が後ろから響いた。
「気になるなら、確かめてみるにゃ。でも……いまは、まだ開かないにゃ」
その声に振り返ると、クロエの姿はなかった。
──なにこれ、本当に普通のカフェなの?
ドキドキしながら扉に手を伸ばしかけたその時。
「奏ちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
ふいにかかった雪さんの声に、我に返る。
慌てて「はーい」と返事をして、わたしは扉から一歩離れる。
その背後で、小さく「カチ」と鍵が回ったような音がした気がしたけど、たぶん気のせい。
⸻
その夜、家に帰ってから、もう一度だけ検索してみた。
「ねこや」じゃなくて、少し違う言葉にして。
ふと思い出したのは──創さんが残した白いぬいぐるみのキーホルダー。
“君だけのお守り”
タグについていた紙片に、うっすらと「KOMORI」の文字があった気がする。
「KOMORI カフェ」で検索。
すると、ひとつだけヒットした古いサイトがあった。
レトロなデザインのホームページ。開いてみても、ほとんどのリンクは無効。
けれど、トップに書かれていた小さな一文が、目に飛び込んできた。
“この扉の先に、きっとまだ知らない何かがある。”
わたしは、そっとスマホを閉じる。
胸の奥が、少しだけ熱くなっていた。
この番外編では、「ねこや」がただの癒しの場所ではなく、“もうひとつの世界”の入り口であるような雰囲気を描いてみました。
奏が少しずつ知っていく“ねこや”の謎と、自分の居場所としての繋がり。
次第に深まっていくこの世界を、どうぞこれからもお楽しみください。
第2章はこれからです




