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第87話 「両親が許さない・・・みたいな」


(今のは、リールが悪いと思うよ)


(はやく彼女を追いかけて)


喉までは出かかったその言葉を、私には言うことが出来なかった。

彼女達とはそこまでの関係じゃない、余計なお世話、私なんかが差し出がましい・・・たくさんの言い訳が思い浮かぶけれど。

これは単に私に勇気がないからだ。


「・・・」


立ち尽くすリールに何かしらの声を掛ける事も出来ずに、ハラハラと様子を見守るだけ。

『仲良し作戦』とか言い出しておいて、この様・・・我ながら情けない。


「ナデシコ・・・なんかごめん、こんな事になっちゃって」

「!!」


ブンブン…


私を気遣ってきたリールに首を振って否定する。

たぶん責任を感じてるんだろうけど・・・むしろ謝るべきは私の方なんだ。

2人の仲を取り持つだなんて、出来もしない事を安請け合いして・・・


「あの・・・その・・・じ、じつは・・・!?」


こうなってしまった以上は、全てを話してしまって良いんじゃないか?

そう思ってリールに説明しようとした私だったけれど、不意に視界を遮られた。

それは私の視野を覆いつくせるほどの大きさの・・・さっきの絵本だった。


「ホント大きいよね、これ・・・少しだけど魔力もいるし、小さい子供が読むようには出来てないって」


その手に抱えた大きな絵本のページを弄びながら、リールはまたしても絵本の文句を・・・

けれど、その声音はさっきとはどこか違って・・・


「たぶんだけど、大人が読み聞かせるように作られてるんじゃないかな・・・なのに、無理してそれをやった子供が昔いてね」

「え・・・」

「本よりも小さい身体で、ページをめくるのにも背伸びしながらでね・・・読み終わる頃には、魔力も尽きて倒れちゃった」


魔力が尽きて倒れる・・・魔力のない日本人の私にはよくわからないけれど、結構やばいやつなんじゃ・・・


「大騒ぎになったんだよ?図書館長のご令嬢が倒れたって・・・その場にいた私は質問攻めにあって・・・大変だったなぁ」


やっぱり大事件だった。

でもそれをリールは、面白おかしそうに、懐かしそうに・・・

彼女の語るその話は、きっと彼女本人の・・・


「リール・・・それって・・・」

「うん、私が初めてこの図書館に来た時の話・・・で、張り切って倒れたのがファム・・・あの頃から何も成長してないと言うか・・・進歩がないと言うか」


そんな風に言いながらも、リールはとても暖かな表情を浮かべていて・・・

あれ・・・リールってファムのことを嫌ってたんじゃ・・・いつも嫌がらせしてくるって。

その嫌がらせもツンデレによるものだったわけだけど・・・これじゃまるで・・・


「ナデシコ、ファムに頼まれたんでしょ?『私と仲良くなりたい』とかそんな感じで・・・」

「!?」

「あっ、その顔は当たりみたいね」


言い当てられて、思わず反応してしまった。

じゃあリールにはわかってたんだ・・・ファムがリールと友達になりたがってるのが・・・

なら、あんな事言わなくても・・・まるでわざと嫌われようとしてるみたい。

リールはどうしてそんな・・・理由がわからず混乱する私を他所に、リールは芝居掛かった仕草で話を続けた。


「将来ファムが館長になって、私が司書をやって・・・2人で図書館で起こる事件やお客さんのお悩みを解決・・・『ハキハキ』みたいに・・・うん、良いと思うよ、憧れるね」

「なら・・・なんで・・・」

「そんなの簡単・・・『私は司書にはならない』からよ」


・・・??


そこにいたのは、本好きの主人公が司書をする物語に、自分を重ねて憧れていたはずのリール・・・ではなかった。

ぱっつんの前髪の向こうに見える双眸は、大人びた雰囲気を纏っていて・・・


「憧れは憧れ、現実は現実・・・私には『両親の店を継ぐ』っていう将来がありますので」


実にあっけらかんと、ごく当たり前の事をわざわざ声に出すかのように、リールは言い放った。



「それって・・・司書になるのを、両親が許さない・・・みたいな・・・」


それを聞いて私が真っ先に思い浮かべたのは、厳しい両親の反対。

芸能界だったりスポーツ選手だったり・・・子供の夢に理解のない両親が反対する・・・そういう話は日本にもたくさんあった。

私にはそんな大それた夢はないけれど・・・もし私が『アイドルになりたい』とか言い出したら、反対されるだろう事は簡単に想像がつく。


「そういう話だったのなら、何も迷わないんだけどね・・・」


けれど、そんな想像をした私に、リールは大きな絵本を棚に戻しながら答えた。


「お店の仕事も好きなんだ、新メニューのアイディアとかもあるし・・・常連さんも皆良い人達でね・・・だから司書には『ならない』」


そう言ってリールが浮かべたのは輝くばかりの営業スマイル。

手頃な大きさの絵本をトレーに見立てて小脇に抱えた彼女のメイド風の姿は、図書館の受付ではなく、飲食店のそれだった。


「図書館で働く気もないのに無駄に図書館に詳しくて、こんな風に新参相手に先輩風吹かして絡んでくる・・・お店で言ったら結構な厄介客じゃない?」

「あっ・・・」


そう言われると・・・そうかも。

いやいやそんな事は・・・私はそれで助かったのも事実だし・・・図書館からしても・・・あー、そこはどうなんだろう。

なんと答えれば良いのか・・・返答に窮していると。


「常連だからってそういう客と仲良くしてたら、そのお店に未来はないわ・・・ファムは私なんかと仲良くならない方が良いのよ」

「・・・」


それで、あんな風にわざと素っ気なく・・・まぁ・・・たしかに・・・それもそうなんだろうけど。

うーん・・・でも、本当にそれで良いのかな。

理屈はわかるんだけど、釈然としないと言うか・・・こういう時の為の良い言葉があったような気がするんだけど。

ええと・・・なんだっけ・・・たしか、これは


「「____!!」」



その時だった。


急に周囲の空気が変わったと言うか・・・

何か、冷たいムカデみたいなのが背筋を這い回るかのような感覚が・・・うぅ・・・気持ち悪い。

それは私だけじゃなく、リールも同じだったみたいで・・・顔色が・・・血の気が引いた感じで・・・たぶん私も同じような顔だ。


「な、何・・・これ・・・」

「わからない、けど・・・ここに居ちゃいけない気がする」


そう言いながら、リールが私の手を引こうとしたその瞬間・・・私は見えてしまった。

その背後・・・図書館の奥の方から・・・もやもやとした黒い霧のようなものが漂ってくるのが。


「・・・!?」


喉の奥から悲鳴が沸き上がるのを感じる・・・けれどそれが声になることはなかった。

な、なにこれ・・・まさか、おば・・・心霊現象?!


はやくここから逃げ出したい、にげないと!


けれど、私の身体はすごくゆっくりとしか動かなくて・・・それは私の手を引くリールもだ。

なんか目に見える全てがゆっくりと・・・これは・・・時間がゆっくり流れてる?

すごくもどかしい・・・はやくここから逃げたいのに。


ゆっくりと流れる世界の中で・・・黒い霧がぎゅっと集まって・・・

真っ黒な蛇みたいになったそれが、やっぱりゆっくりと私達の方へ迫ってきた。

しかも、どっちかと言うと私の方に向かって・・・


「?!」


こわいこわいこわい・・・


けれど私の身体はゆっくりとしか動かなくて・・・あ、あんなのどうすれば・・・

ゆっくりと、けど真っ直ぐ迫ってくる『それ』に、私は持っていた学生鞄を盾にするくらいしか出来なかった。



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