閑話 図書館の娘
___王立図書館、そこは私の世界の全てだった。
『門』によって繋がったニホン国との国交は、王国に様々な変化をもたらした。
国民に開かれた王立図書館もまたその1つに数えられる。
王宮の奥深くに保管され、一般庶民の目に触れる事もなかった書物の数々が気軽に閲覧できる場所。
どうせなら1冊でも多くと、近隣諸国からも本をかき集め、新たな本の執筆も推進し・・・
そして膨大な数となったそれらの本を収蔵しても余りある、巨大な図書館が建てられた。
・・・その指揮を執り、初代館長に就任したのが私の父だ。
元々かなりの本好きだったらしく、図書館の敷地内に自宅を作らせると、完成するや否や家族で移り住んでしまった。
表向きは館長としての仕事に専念する為、という事になっているけれど。
そんなわけで、私は物心がつく前からこの図書館で暮らしている。
ここの児童コーナーはほぼほぼ私の為に造られた私のお城だ。
ここで私は毎日、たくさんの絵本を読み、ぬいぐるみで遊び・・・疲れたらベッドでお昼寝。
そんな日々を送っていた。
子供1人には広すぎる児童コーナーだけど、私以外の子供が来る事はなく・・・そもそも図書館に子連れの客など来なかった。
来場者自体が少なかったのだ。
『国民に開かれた図書館』なんて言った所で、それまで本を読む習慣がなかった国民が急に本に興味を持つわけがない。
図書館に来るのは主に貴族の知識層・・・それもすぐに本を借りる為の使いを寄こすだけになってしまった。
「としょかんはしっぱいなの?」
所詮は貴族の道楽、あるいは税金の無駄遣い・・・図書館の悪評は子供の耳にも入って来ていた。
このままでは国からの援助金も打ち切られるのではないか? 最悪取り壊しに? そしたら追い出される?
・・・不安になる私を、お母さんは優しく撫でてくれた。
「誰もが皆、まだわからないから図書館に戸惑っているだけ・・・ここには素敵な本がたくさんあるのだもの、利用者はこれから少しずつ増えていくわ」
「おきゃくさん、たくさんくる?」
「ええ・・・いつか、小さい子供達もたくさん来るようになる・・・その時はファムが面倒を見てあげるのよ」
「わたしが?」
「ここの絵本を誰よりもたくさん読んでるのはあなたでしょう? お願いね、小さな館長さん」
その後・・・お母さんの言った通り、図書館に来る人が少しずつ増えていった。
興味本位で覗きにきただけだった人が、何を読めば良いか聞いてくるようになり。
どこからか噂を聞きつけた本好きが珍しい本を求めて尋ねて来るようになり。
仕事に必要な知識を求めて相談にやって来る人もいた。
父や母が真摯にそれらへ対応する度に、その評判が新たな来客を連れて来る。
ようやく図書館は軌道に乗り始めた、増え続ける来客への対応が追い付かないので職員も補充されるそうだ。
そして、ついに私の王国もお客様を迎える時が来た。
「さぁ、こちらへどうぞ」
「・・・!」
その日お母さんに案内されて児童コーナーにやってきたのは、私と同じ年くらいの女の子。
真っ直ぐ切り揃えられた前髪の向こうで、綺麗な瞳が不安げに震えていた。
調べ物をしに来た家族に放置され、所在なさげに居た所をお母さんが声を掛けて、ここに連れてきたのだ。
「ファム、この子をお願いね」
「う、うん・・・わたしはファム、よろしくね・・・あなたは」
「・・・リール」
棚に並んだたくさんの絵本の中から、私は迷う事無くその1冊を抜き取った。
今からこの子・・・リールにおもてなしをするのだ、私のとっておきの1冊で。




