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第84話 「友達になりたいって・・・言えば・・・」


「おはようナデシコ、勉強は進んでる?」

「な、なんとか・・・」


教室の席に着くなり進捗を聞いてきたアクアちゃんに、私は苦笑いで答える。

もう追試までの日数も少なくなってきているからだろう・・・正直な所、自信はない。

連日の図書館通いのおかげで、多少はマシになってる・・・とは思うんだけど。


「別にナデシコはそんなに悲観しなくても良いと思うわよ」

「そ、そうかな・・・」


辛辣なアクアちゃんにしては、随分と優しいお言葉。

成績優秀なアクアちゃんがそう言うなら・・・再テストも怖くない、かも・・・


「・・・『学園で過ごす夏』ってのも悪くないんじゃない?」

「ふ、ふぇぇ・・・」


やっぱりアクアちゃんは辛辣だった。


「ナデシコ、テスト勉強は大丈夫です?」

「あ、あぅ・・・」


お昼にはメイドリーも心配してやって来た。

割と本気で心配してくれてるあたり、私も危機感を覚えずにはいられない。

出来れば、彼女に図書館へ付き合ってもらいたい所なんだけど・・・


「ごめんなさい、うちの姉も崖っぷちで・・・私が付いてないと本当にやばいし」

「あ、ああ・・・が、がんばって・・・」


あのお姉さん・・・一学年下の妹に勉強を見てもらうレベルなのか。

『異世界からの留学生』という事で多少は大目に見て貰える私と違って、彼女は本当にやばいみたいだ。


「ナデシコ、勉強は・・・」

「あ、あはは・・・これから図書館・・・行ってきます」


放課後にはフィーラも声を掛けてきた。

なんか皆から心配されてる・・・ぼっち時代を思えば、喜ぶべき事なんだろうな・・・


そんなわけで、今日も私は図書館へ向かった。

いつものように壁際のスペースへ直行して、リールの姿を探す・・・


・・・あれ?・・・いない。


日本に興味がありそうなリールに喜んでもらおうと、今日は日本のお菓子の代表選手『キノコの山』を鞄に忍ばせてきたんだけど・・・今日に限って、リールの姿は見かけなかった。

ここは広い図書館だから、どこか違う所で本を読んでいるのかも知れないけど・・・探しに行って迷子になってしまうのも困る。

まぁ、いないものは仕方ない・・・私は勉強しに来てるんだ、集中しなきゃ。



・・・・・・と、意気込んで勉強を始めたのは良いけれど。


私の集中力もそんなに長くは続かなかった。

しかも今日は鞄の中にキノコが・・・何かにつけてチラチラと私の視界に入ってくる。

ちょっとくらいなら良いかな・・・疲れた脳には糖分が必要って聞くし・・・


10分だけ・・・そう、10分だけ・・・私は、おやつ休憩をとる事にした。

糖分でリフレッシュして、再び勉強に集中するんだ。


もう一度閉じれるように、丁寧に箱を開けて・・・ぴっ、と内袋を破く。

たちまち立ち上るチョコの甘い香り・・・ああ、やっぱりキノコはミルクチョコレートが王道か。

まずはこの香りを堪能した後、私はおもむろにキノコへ手を伸ばし・・・


「そこ、何をしてるの!」

「ごごご、ごめんなさい!」


突然背後から鋭く声を掛けられて・・・私は反射的に立ち上がりながらも、謝罪の言葉を口にしていた。

『飲食禁止』・・・その可能性は頭の片隅にはあったんだ。

けれど私はキノコの誘惑に捕らわれて・・・つい・・・あっ。


振り返った先に居たのは、三つ編みの頭にリボンをつけた女の子。

たしか、図書館長の娘という・・・ええと、ファムだ。


「・・・また貴女なの?!」

「あ、あぅ・・・」


どうやら、向こうも私を覚えているらしい。

まるで動物の耳のようにリボンを揺らしながらも、厳しい目で睨んで来る。

相手が子供だとか今の私には関係ない、すっかり蛇に睨まれた蛙状態だ。


「お、お菓子ダメって・・・知らなくて・・・」


無駄かとは思いつつ、言い訳を口にする・・・なんとか、初犯って事で許して貰えたりしないかな。

出禁は、出禁だけは・・・そんな私の祈りが通じたのか、ファムはきょとんとした顔になって。


「?? ダメじゃないですの」

「えっ」


あ、ダメじゃないんだ・・・

そう聞いて安心した私の手を、ファムは素早く掴み上げた。


「?!」

「問題なのはこっち、素手じゃありませんこと?!」

「え・・・」


うん・・・まぁ、たしかに素手だけど・・・


「お菓子を触って、べとついた手で、あちこち触られたら困りますの!」


ぷりぷりと頬を膨らませながら、ファムのお説教が始まった。


「ここには貴重な本がたくさんありましてよ! かと言って、壁や机だって汚して良いわけじゃなく・・・」


お怒りの本人には申し訳ないけれど、可愛らしい声でのお説教は、なんと言うか・・・聞いてると微笑ましい気分になってくる。

お嬢様風の言葉遣いなのも、背伸びしてる感じがして・・・うん、ぜんぜん怖くないや。


「せめてですわね・・・食べる時はハンカチをお使いになって・・・?」


そっとキノコをひとつ摘まんで、お説教中のファムに差し出した。


なるほど、手を汚さない範囲でならお菓子はOK・・・そのルールは理解したよ。

でも・・・このお菓子は日本が誇る至高のお菓子『キノコの山』なんだ。


「?? な、何を・・・」

「よ、よく・・・見て・・・」

「・・・!!」


それは一目瞭然・・・ひと目見れば、よくわかるはず・・・

そう・・・キノコの軸の部分を掴めば、手は汚れない。

驚きの表情を浮かべたファムの、その小さな口元へ・・・そのままキノコを押し込んだ。


「・・・おいしい」


口の中でとろけるチョコのように、ファムの表情がとろけるのを見て・・・私は勝利を確信した。

やっぱりキノコは至高のお菓子なんだ。


「しょ、しょうがありませんの・・・今回は不問に・・・」

「・・・まだ、食べる?」

「えっ、良いの?!」


まだキノコがたっぷり入った箱を、そっとファムに差し出す。

・・・そこには背伸びをやめた、子供らしい無邪気な笑顔があった。



「もぐもぐ・・・リールさん? なら、今日はいらっしゃらない日ですの」


キノコを頬ばりながら、ファムは私の質問に答えてくれた。

毎日通ってそうな雰囲気をさせていたリールだけど、定期的に図書館に来ない日があるようだ。


「家の仕事の手伝いをしないといけないとかで・・・大衆向けの食堂という話ですの」

「なんか、詳しい・・・」

「た、たまたま聞いただけですの!」


そう言いながら、ファムは顔を赤くしてそっぽを向いた。

あ、この反応・・・ひょっとして・・・

聞いた事がある・・・好きな子に意地悪してしまうという・・・ツンデレ的な・・・


「な、なんで私があんな・・・本しか目に入ってないような人と友達になりたいだなんて・・・」

「・・・」


語るに落ちるというか・・・なんか勝手に喋ってくれた。

そっか、ファムはリールの気を惹こうとして意地悪を・・・それが全部逆効果というか、普通に嫌がらせと思われてるという。

まぁ・・・嫌がらせそのものだったもんなぁ・・・


「す、素直に・・・友達になりたいって・・・言えば・・・」

「そんな事っ、言えるわけがありませんの!」

「あ・・・ごめん・・・」


うん、私・・・自分でも出来ない事言った。

本当に・・・すごく申し訳ない。


こういうのって、自分ではどうにも出来ないんだよね。

・・・何かこう、外から介入して貰わないと・・・きっかけというか・・・あ。


「・・・あるかも」

「??」


本当はこんな事してる場合じゃないんだろうけれど・・・乗り掛かった舟と言うか、放って置けないと言うか。

私は今思いついた『作戦』を、そっとファムに伝えたのだった。



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