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第08話 「驚かせてしまったかしら」

ローゼリア様のおかげでクラスメイト達の質問攻めからは脱出できた。

・・・けれど。


「・・・」


ど・・・どうしよう。

ローゼリア様は私の手を引いたまま、校舎内をずんずんと進んでいく。

いったい私をどこに連れて行こうというのか・・・途中ですれ違う生徒達が必ずこっちを見てくるのがちょっと怖い。

まぁ・・・王女様だし・・・決して私を見てるわけじゃない、私なんて存在を認識されてるかも怪しいレベルだ。


ローゼリア様は校舎内を一筆書きするかのように順番に巡っていく・・・どこに行くんだろう。

実は道に迷ってたりは・・・さすがにそれはないか、私じゃあるまいし。

結局大きく遠回りをしたような形で、校舎の出入り口のある玄関ホールまで来てしまった。


「・・・」


ローゼリア様はここで足を止めると、可愛らしい仕草で首を傾げた。

何かを探しているのだろうか・・・ちょっと聞いてみるべきか・・・いや、でも・・・

相手はこの国の第一王女・・・私なんかが軽々しく声をかけて良いわけが・・・


「・・・困ったわ」


王女様がお困りだ・・・な、なら仕方ない・・・よね?

え、ええと・・・昨日は片言でも話せたのに、相手が王女様だと思うと、もっと緊張してしまう。


「な・・・なな、にかを・・・探して、いるんです・・・か?」

「ええ、どこかに談話室がないかと・・・」


だん・・・わ、しつ? ひょっとして昨日の・・・お茶した部屋みたいな?

学校にそんなのあるっけ? 自習室ならあるかも知れないけど・・・

いやいや、異世界の学校だしなぁ・・・どこかにはあるのかも知れない。


でも厄介な事に学園の見取り図などの資料は、寮の部屋に置いてきてしまっている。

朝は寝坊して慌ててたから、ゆっくり資料とか見る時間が無かったのだ。

一度取りに戻るか・・・寮はすぐ近くだし、下手に探すよりも早いかも知れない。


「あ、あの・・・がが、学生・・・寮に・・・」

「それがあったわ! 学生寮のお部屋にしましょう!」

「え・・・」


私が全部言い終える前に・・・

ローゼリア様はまるで名案を思い付いたとばかりに、喜色満面の微笑みを浮かべて私の手を握った。

まぁ・・・学生寮には食堂もあるし・・・お茶をするくらいは出来そうだけど。


しかし、ローゼリア様はカレーに・・・もとい、華麗に食堂をスルー。

一目散に階段を昇っていく・・・二階に登って一番手前にあるのが201号室・・・私の部屋だ。

まるでそれを知っていたかのように、ローゼリア様は迷わず201号室の扉に手をかける。


部屋の鍵は・・・あの朝のドタバタが思い出される・・・うん、かけてるわけがなかった。


ガチャリ…

音を立てて扉が開かれ、私の部屋が王女様に見られ・・・あ、まだ荷物とか出してないから恥ずかしくはないや。

扉の向こうにあるのは、何もない殺風景な部屋・・・ではなかった。


「へ・・・?」


えっと、部屋を間違えた・・・かな?

念のため扉の裏に回ると・・・201号室・・・うん、たしかに私の部屋・・・のはずだ。

なんか家具が増えてる・・・カーテンの色まで変わってる?!


私の荷物、リュックとダンボールは・・・部屋の隅っこに追いやられていた。

こ、これは・・・いったい・・・

呆然となって部屋の入り口で立ち尽くしていると・・・背後に気配を感じた。


「はぁ・・・はぁ・・・あ、撫子ちゃん・・・もう帰ってきてる?!」

「え・・・ちょっ」


息を切らしながら階段を昇ってきた長久保さんは、なんかクラシックな・・・高級そうなテーブルを抱えていた。

どうやらそのまま部屋に入ってくるようなので、私は慌てて道を空ける。


「こ、こ・・・これは・・・いったい・・・」

「ちょっと待ってて・・・これで、最後だから・・・よっと」


部屋の中央・・・2つ置かれているベッドのちょうど中間の辺りにテーブルを設置すると、長久保さんは大きく息を吐いた。


「ふぅ・・・やっと終わった・・・寮長め・・・肉体労働は事務員の仕事じゃないだろ」


なんか小さい声で愚痴をこぼしてる・・・聞こえてるんだけど、良いのかな。

しかし、そんな長久保さんに対して、ローゼリア様は冷ややかな視線を向けると、容赦のない言葉を放った。


「これで終わり?・・・家具がいくつか足りないのですが?」

「はぁ・・・はぁ・・・勘弁してくださいよ・・・学生寮に持ち込める家具には・・・規定があって、ですね」


部屋を見回すと、片方のクローゼットの隣には2mくらいの高さの食器棚・・・これも長久保さんが運んだんだろうか。

ベッドの脇に化粧箱とそれ用の台座?が置かれていて、今運んできたテーブルとよく似た装飾の椅子が2つ。

カーテンは薄手の茶色から真っ赤なビロードに・・・内側には白いレースのカーテンも見えた。


二人の会話を聞く限り、どうやらこれらの家具は王女様が運び込ませた物らしい。


「よく見てください、部屋もそんなに広くないでしょう?・・・これでも融通は効かせた方なんです」

「・・・たしかに・・・仕方ありませんね」


必死の表情で嘆願する長久保さんに対して、ローゼリア様は渋々といった顔で納得した。

遠巻きに様子を伺う私の方を一瞬チラッと見たような気がするけど・・・たぶん気のせいだろう。


「事務員の方・・・我儘を言ってしまい、申し訳ありません」

「いえ・・・納得していただけてありがとうございます、では、俺はここで・・・失礼しますっ!」


長久保さんはあからさまにホッとした表情を浮かべると、逃げるように部屋を退出していった。

・・・事務員って、大変だなぁ。


パタン…


扉が閉まると同時にローゼリア様はこちらへと向き直ると、悪戯っぽく微笑んだ。


「ふふっ・・・ナデシコ、驚かせてしまったかしら」

「あ・・・はい・・・すごく」


部屋に持ち込まれた、ローゼリア様の私物と思われる家具の数々・・・それらが意味する事は。

さすがに私でも察する事は出来た。

・・・出来たけど、すんなり適応出来るかというのは別の話でして・・・


「私も王立学園の生徒として、今日からここにお世話になります・・・よろしくね」

「や、やっぱり・・・」


予想通りの展開・・・でも私の頭の中はもうパンク寸前だ。


しかし、こんなものはまだ序の口。

このすぐ後に、私は彼女が何者であるか、そしてここがどこであるかを思い知る事になったのである。


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