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第79話 「ね、猫カフェだこれ・・・」


「ナナーニャが・・・獣人族・・・」


長らく実体を知られていなかった獣人族、まさかそれがこんな・・・『喋る猫』だとは。

漫画とかの獣系が好きな人の間でも、これは物議を醸すかも知れない。

そんな獣人族と発覚したナナーニャ・・・だけど、ひとつ問題があった。


「じゃあ、泥棒って話は・・・」

「?? 何も盗んでないですにゃ」


たしか、モラウスキー家の屋敷に泥棒が入って、その犯人が獣人族。

聞いた話ではこうだった・・・はず。


でも、ナナーニャは何も盗んでいないという・・・そもそもナナーニャは子猫だ、何かを盗めるような姿には見えない。

となると・・・怪しいのは・・・


「そのモラウスキーって人間が怪しいわね・・・ナナーニャを捕まえて、どうするつもりだったのかしら」

「ただの猫好きって事は・・・ありえないし」


状況的に見て、あのごろつき達を雇ったのも、モラウスキーの可能性が高い。

猫が好きなら、猫を弱らせるようなあの煙は使わせないはず・・・とても猫好きとは思えなかった。


「まぁ、喋る猫ってだけで高く売れそうだけど・・・」


元々貴重な北方種の子猫、しかも人間の言葉を喋るとあれば、すごい高値で取引されるかも知れない。

モラウスキー男爵の評判も良くないみたいだし、それはありそうな感じがする。

しかしナナーニャから出てきたのは、それとは違う意外な言葉だった。


「ナナーニャは、猫質なのにゃ」

「「・・・猫質?」」


ねこじち・・・聞き慣れない言葉に、皆で首を傾げる。

それが人質の猫版である事に、ローゼリア様はいち早く気付いたようだった。


「もしかして、他にも獣人族が捕まっているのかしら?」

「はいにゃ・・・」



それは数年前。

辺境の山にひっそりと暮らしていた獣人族を襲った悲劇。


ある日、獣人族の村を包み込んだのは濛々と立ち込める煙・・・猫を弱らせるあの煙が獣人族を襲ったのだ。

村で暮らす獣人族達はたちまち捕らえられ、知らない土地に連れて行かれたのだという。

その中でナナーニャだけが他の獣人族から引き離され、モラウスキーの屋敷に監禁されていたのだとか。


「でも、なんで・・・ナナーニャだけが・・・」

「ナナーニャは獣人族の姫なのにゃ」


北方種と見紛う程のもふもふの毛並みは、獣人族の王家の血統の証なのだとか。

他の獣人族はだいたい短毛で柄も様々、雑種猫みたいな感じらしい。


「だからナナーニャを猫質にして、皆に言う事を聞かせているのにゃ」

「・・・!」


その話が事実なら、とんでもない事だ。

捕らえられた獣人族達は、今もどこかでこき使われて・・・


「でも・・・猫なんでしょ?」

「え・・・」


深刻な事態に水を差したのはアクアちゃんだった。

小首を傾げ、その唇に指を当てながら・・・彼女は素朴な疑問を思ったまま口にした。


「猫質で言う事を聞かせられるって言っても・・・猫に何が出来るの?」

「「・・・・・・」」


そう言われると・・・たしかに。

これが人間なら、労働力として色々こき使う方法があると思うけど・・・猫となると・・・いまいち想像がつかない。

『猫の手も借りたい』なんて言葉はあるけれど、本当に猫の手を借りれるとしたら何が出来るだろう?


「ナナーニャ・・・獣人族特有の能力が、何かないかしら?」

「それです! 獣の力で、何かすごい事が出来たり・・・」


エルフのフィーラが植物を操ったりしたように、獣人族にも何かすごい力があるかも知れない。

きっとモラウスキーはそれを目当てに獣人族を・・・


「うーん・・・特別すごい事は、出来ないですにゃ」

「「・・・」」


ただ単に言葉を喋る猫・・・それ以上でも以下でもないようだ。

そんな獣人族を攫ってきて、言う事を聞かせて・・・いったいモラウスキーに何の得があるのか。

それがわからない事には、何の手掛かりも・・・と、その時だった。


「あ・・・ひょっとして・・・いや、でも・・・なんでもないです」

「メイドリー?」


メイドリーが、何かを言い出そうとして・・・引っ込めた。

けどそんな事をされると、逆に気になってしまう・・・それはローゼリア様も同じだった。


「メイドリー・・・何か気付いたのなら話して貰えないかしら?」

「ろ、ローゼリア様・・・でも・・・」

「遠慮しないで、貴女の意見が聞きたいわ」

「は、はひぃ・・・」


ローゼリア様に真正面から見つめられ・・・その手をぎゅっと握られて・・・

・・・メイドリーの頭から湯気が立つのが見えた気がした。


「ち、違ってたらごめんなさいし・・・」


最初にそう前置きしてから、メイドリーが語ったのは・・・モラウスキーが経営しているという会員制クラブの話だった。

たしか、女の人がエッチな事をするお店って聞いてた気がするけど・・・


「『にゃんにゃんする』お店・・・もしこれが言葉通りの、猫がにゃんにゃんするお店だったらって・・・」

「「!?」」

「ご、ごめんなさい! そんな馬鹿げた話のわけないですし!」


言ってる内容に恥ずかしくなったのか、メイドリーは赤面しながら俯いた。

けれど・・・


「・・・ありえるわね」

「そのお店の事、もっと詳しく・・・」

「なんとか、そのお店に入れないかしら?」

「え・・・ええっ?!」


確かに馬鹿げた話だけど、一応話は繋がる・・・真面目な顔の3人に詰め寄られ、メイドリーは困惑するばかりだ。

・・・そういえば『溺れる者は藁にも縋る』なんて言葉があったっけ。

今は他に手掛かりらしい物もなく・・・なんとかメイドリーの両親の伝手で、私達は件の会員制クラブの会員証を手に入れた。


そして、意を決して潜入を試みた私達が見たものは・・・


「ね、猫カフェだこれ・・・」


うん・・・女の子しかいないのに入り口で怪しまれない時点でね・・・そんな気はしてた。

むしろお店の人は良い笑顔で「楽しんでいってください」って・・・きっと女性客も多いのだろう。

なにせ・・・店内、見渡す限りの猫ちゃんだ。


ニャーン…


「か、かわいい・・・」


白、黒、茶トラ、鯖に雉・・・様々な柄の猫ちゃんが、可愛らしく愛想を振りまいていた。

ごろごろと寝転がったり、しっぽを振ったり・・・猫好きなら一瞬で陥落する事請け合いだ。


潜入メンバーは私とメイドリー・・・目立ちにくい人選だ。

店員に案内されたテーブルに着くと、さっそく猫ちゃん達が寄ってくる・・・いかにも接客用に調教された猫といった感じだ。

けれど・・・それが猫質を取られた獣人族だとしたら・・・

問題はどうやってそれを確かめるかだけど、それは向こうの方からやってきた。


ニャーン…


「え・・・ちょ・・・?!」


いきなり飛びついて来て、顔をすりすりしてくる猫ちゃん。

猫好きなら狂喜乱舞する懐きっぷり・・・しかし、その猫ちゃんは私の耳元で・・・


「人間、ナナーニャを知っているのか?」

「?!」


喋った・・・やっぱりナナーニャと同じ、獣人族。

隣を見れば、メイドリーも同じような目に遭っていて・・・互いに交わした視線で状況を察する事が出来た。

そのままじゃれつく猫に弄ばれるようにしながら・・・私達はナナーニャの無事を伝えて、代わりに獣人達から状況を聞き出す。

度々店員が巡回してきたけれど、怪しまれた感じはしない・・・ただの猫好きの客と思われているようだ。



「ありがとうございました! またのお越しを!」


それから1時間程の後___


笑顔の店員に見送られながら、私達は店を後にした。

猫ちゃん満喫にゃんにゃんプラン1時間で、料金は金貨で2枚・・・かなりの高額だけど、ここに通う猫好きは少なくないようだ。

それも獣人族達による必死の接客あっての事・・・裏を知ってしまうと放置しては置けない。



「・・・以上が獣人達から得た情報です」


翌日、メイドリーが纏めてくれた情報を皆で共有する。

お店で働く獣人族は交代制で、常に半数が地下室に閉じ込められているようだ。

例の煙を出す草も常備されているらしく・・・猫質のナナーニャが無事と知っても、簡単には逃げられそうにはない。


そこで、私達が採用した救出作戦・・・それは・・・


「あ、あの・・・本当に・・・こんな・・・」

「ええ、良く似合ってるわナデシコ」

「たしかに・・・これはこれで・・・ぷぷ」


救出作戦の決行当日___


満足そうに頷くローゼリア様と、笑いを堪えるアクアちゃん。

その後ろで、いい仕事をした顔をしているのはメイドリーとフィーラ。


そんな4人に囲まれて、私は・・・


茶色に染めてポニテにされた頭には同じ色の猫耳。

顔と露出している肌には、少し癖の強いメイクが施され・・・

毛皮で出来た服、やっぱり毛皮の手袋・・・お尻には長い尻尾が緩やかな曲線を描いて・・・


「さぁ皆、始めましょう・・・救出作戦を」

「「おー!」」

「ふ、ふぇぇ・・・」


すっかり獣人風の姿にされた私を中心にして・・・皆は意気揚々と右手を振り上げたのだった。


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