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第77話 「ここが・・・連中のアジトってやつね」


「・・・アクアちゃん、フィーラ」

「「ナデシコ?」」


ぐったりとしたナナーニャを抱えて教室に駆け込みながら、私は友達の名前を呼んだ。

出来る限りの大声を出したつもりなんだけど・・・日頃が日頃なせいでたいした声量が出ない。

それでも2人は私に気付いてくれた・・・やっぱり持つべきものは友達だ。


明らかに何者かに狙われているナナーニャを隠すのに、中庭の大樹は都合が良かった。

アクアちゃんと、エルフのフィーラにナナーニャを任せると・・・ぐったりしている原因が判明した。

燃やすと猫を弱らせる煙を出す植物というのがあるらしい・・・朝見たあの霧の匂いが、その煙の特徴と一致するようだ。


「煙の効果は一時的なものだから、しばらく休ませていれば大丈夫よ」

「それよりも怪我の方が気になるわね・・・いったい誰がこんな・・・」

「そ、それなんだけど・・・」


私はアクアちゃん、フィーラ、メイドリーの3人に昨日の出来事を話した。

泥棒の捜査で忙しいはずの王都の警備隊が、なぜかこの猫を探していた事。

そして今朝、あの不良・・・ブレンヴェルグがあの人達に捕まって、連れていかれた事も。


「・・・どう見ても、そいつらが怪しいわね」

「私も昨日見かけたけど・・・あの人間達、本当に警備隊なのかしら」

「うん・・・それで今、ローゼリア様が・・・王宮に」

「ふーん・・・なら、王女様が戻ってくるのを待つのが得策かしら」

「う、うん・・・」


アクアちゃんの言うように、ここはローゼリア様を待つのが最善だと思う。

ナナーニャは、ここに隠しておけば大丈夫だと思うし・・・ただの学生の私が関わるには、危ない気配も感じられる。

今から教室に戻れば、授業だって遅刻で済む。


でも・・・


(ブレンヴェルグを・・・助けて・・・)


あの時のナナーニャの言葉が思い出される。

もし、あの人達が警備隊じゃないのだとしたら・・・彼がどんな目に遭わされるか・・・

不良、と言っても・・・私が知る限りでは悪い人ではなかった・・・ちょっと見た目は怖いけど、ただの猫が好きな男子生徒だ。


「ごめん・・・私、行ってくる」

「え・・・ナデシコ?!」


完全に授業をサボる決断をした私を、3人は止めないでくれた。

学園を飛び出して、まっすぐ王宮へ・・・まずはローゼリア様と合流しなきゃ。


「はぁ・・・はぁ・・・」


出来る限り急いで向かっているんだけど・・・そこは運動神経のない私だ、すぐに息が切れて来る。

今や歩いてるのか走ってるのか、わからないような速度で・・・足取りもどんどんおぼつかなくなって・・・


「わわっ・・・!!」


しまいには、足をもつれさせて転びそうになった私の両手を・・・後ろから誰かが引っ張り上げた。


「ナデシコ、怪我はないですか?」

「もう、世話が焼けるんだから」

「メイドリー?!アクアちゃんまで・・・」


2人に両側から支えられて、なんとか体勢を立て直す・・・どうやら後から私を追いかけてきてくれたみたいだ。

そればかりか、私と違って2人とも息ひとつ切らしていない・・・これが運動神経の差というやつか。


「ナデシコ1人で王宮に行っても、迷子になるだけだし」

「泥棒と間違われたりするんじゃない?」

「う・・・」


過去にそれをやらかした経験がある身としては・・・何も言い返せない。

授業をサボらせてしまったのは申し訳ないけど、2人が来てくれたのはすごく心強い。

1人ついて来ていないフィーラは・・・ナナーニャを診てくれているとの事で、そちらも安心だ。


警備隊の詰め所は、お城の正門からは少し離れた所にあって・・・私1人では迷ってたかも知れない。

そちらへ向かうと・・・ちょうど見慣れた後ろ姿が。

くるっと巻かれた金色の髪・・・後ろ姿だけでも充分特定出来る。


「ろ・・・ローゼリア様っ」

「ナデシコ?・・・それに貴女達・・・どうして」

「あ、あの・・・実は・・・」


今朝の事を話すと、ローゼリア様はすぐに警備隊に確認をしてくれた・・・その結果。


「そんな生徒は捕らえていないそうよ・・・もちろん昨日の件も」

「・・・」


・・・やっぱり、あの警備隊は偽者だったんだ。

なら・・・ブレンヴェルグは、いったいどこへ連れて行かれたんだろう。


「警備隊の偽者については、これから捜査してもらうわ・・・ナデシコ達は学園に戻りなさい」

「で、でも・・・」

「その生徒を心配する気持ちはわかるわ・・・でもナデシコ、私は貴女が心配なの」

「う・・・」


さすがにそう言われてしまうと、私も従うしかない。

ここはローゼリア様と本物の警備隊の人達に任せて・・・私達は学園に引き返す事にした。


「・・・」

「大丈夫ですよ、ローゼリア様達を信じましょう」

「そうそう、どうせ私達に出来る事なんてたかが知れてるわよ・・・なにか手掛かりとか、あればともかく・・・」

「手掛かり・・・かぁ」


あの人達に連れていかれるブレンヴェルグを追いかけていれば良かったのかな・・・

いやいや、馬車に乗せられてたし・・・私の体力じゃすぐに見失ってしまったに違いない。

よくよく考えたら、あの馬車からして警備隊っぽくなかったんだよなぁ・・・安っぽいと言うか汚いと言うか。


ちょうどその時、私達の前を一台の馬車が横切った。

車軸が歪んでいるのかガタガタと大きな音を響かせて・・・荷台の部分はむき出しで、薄汚れていて・・・そうそう、こんな感じの・・・


「あ・・・」


そのものだった・・・こんな感じ、どころの話じゃない。

決定的なのは、あの変な匂い・・・馬車の荷台に積まれた干し草からだ。


「ナデシコ?」

「どうしたのぼーっとして?」

「あ、あの・・・馬車・・・」


震える声で私が馬車を指さすと、2人の表情が変わった。


「・・・私達で追いかけるわよ」

「え・・・アクアちゃ・・・むぐぐ」

「しずかに・・・気付かれちゃいますし」


干し草を乗せた馬車は、ガタガタと音を立てながら街の外れの方に向かっていく。

私達3人はこっそりとその後を追いかけた。

馬車そのものが立てる騒音のおかげもあって、私達は気付かれる事なく・・・


「ここが・・・連中のアジトってやつね」

「アクアちゃん・・・楽しんでない?」

「まさか・・・ふふ」


やっぱり楽しそうにしてる・・・こういうの好きなのかな。

私について来たのも、実はこういう展開を期待してたりして。

馬車はたいした速度も出せないようで・・・追いかけるのも難しくはなかった。


やがて馬車が辿り着いたのは・・・周囲に何もない場所にひっそりと建つ、朽ちかけた屋敷だった。


かつては周囲を囲んでいただろう塀は、城攻めにあったかのように崩れ落ち。

もう何年も手入れされてなさそうな庭には雑草が生い茂っていた・・・所々穴の開いた建物の壁面には、植物の蔦がびっしりと。

・・・ボロ屋敷と言っても過言じゃない、とても人が住んでるとは思えない見た目だ。


馬車に乗っていた男は、積荷の干し草をそのままに屋敷の中へ入って行った。

きっとこの屋敷の中に仲間が・・・そしてブレンヴェルグも・・・


「ナデシコ、アクア・・・これ見るし」


かろうじて残っている塀の影に隠れて屋敷の様子を伺っていると・・・裏手に回ったメイドリーが何かを見つけたらしい。

メイドリーは大きな袋を抱えてきて・・・その中身は・・・警備隊の制服?!


「!!」

「・・・これで確定ね」


よく見るとやっぱり偽物の制服だ、これは証拠として充分。

これを見せれば、警備隊はすぐに動いてくれるだろう。

王宮へはメイドリーに行ってもらう事にして、私とアクアちゃんはここに残って見張る事にした。


今の所、屋敷の中から人が出て来るような事もなく・・・辺りは不気味な程静まり返っていた。

ちょっと怖いけど、この分なら何事もないまま警備隊が来てくれるかもしれない。

そんな風に思っていると・・・不意に屋敷の方から・・・


「ぐああああああ!」


・・・悲鳴が上がった。


「何?!今の・・・」

「あ・・・あわわ・・・」


男の人の・・・たぶんブレンヴェルグだ・・・それもただ事じゃない感じの。

い・・・いったい、中で何が・・・

悲鳴はその後も断続的に聞こえてきて・・・


「あ、アクアちゃん・・・ど、どうしよう」

「落ち着きなさいよ・・・私達まで見つかっちゃうでしょ」


そう言いながらも、アクアちゃんの声は震えている。

も、もうすぐ・・・もうすぐ警備隊の人達が来てくれるはず・・・でも・・・このままじゃ・・・

最悪の事態になる前に・・・ブレンヴェルグを助けないと・・・


何か、良い方法は・・・周囲を見回した私の目に入ってきたのは・・・


「あ・・・アクアちゃん・・・あれ・・・」

「・・・何よ?」


言いながら、薄汚い馬車を指差した私を見て・・・アクアちゃんは首を傾げた。




「か、火事だ!」

「おい、押すなよ」

「うるせぇ!早く出ろ!」


視界を埋め尽くすように濛々と立ち込める煙の中から、男達が次々と出て来る。

いったいあのボロ屋敷の中に何人いたのか・・・とにかく、たくさんだ。


「あのグレン族は?」

「あんなの放って置きゃいいだろ」


グレン族・・・やっぱりブレンヴェルグがここに捕らえられていたようだ。


「アクアちゃん・・・」

「わかってる・・・ナデシコもはぐれないでよ」


偽の警備隊がひと通り出てきたのを見計らって、私達は煙に紛れて屋敷に突入する。

例の干し草を燃やした煙は思った以上に濃くて・・・周囲は何も見えない。

はぐれないように、私はアクアちゃんの手を握って引っ張られる形だ。


外から見ても穴だらけだっただけに、屋敷の中にも煙はしっかりと入り込んでいた。

数十センチ程度の視界の中で、屋敷の捜索を続けると・・・


「う・・・うぅ・・・」

「アクアちゃん・・・あっち」


ブレンヴェルグの呻き声が聞こえた。

声はちょっと下の方から・・・地下に降りる階段があるみたいだ。


「ここから階段よ・・・気を付けて」

「・・・うん」


先を進んでくれるアクアちゃんに身体を預けるようにして、視界の悪い中で階段を下っていく。

さすがに煙は下の方にはいかないのか、段々と視界が開けてきた。

階段を下りた先は、少しひんやりとした空間になっていて・・・その隅の方に、人が転がっているのが見えた。


「ブレンヴェルグ?!」

「・・・その声、大和撫子か・・・くっ」


ブレンヴェルグは随分と痛めつけられた様子で、服のあちこちが破けて・・・痛々しい。

その周囲には棒や鞭といった物が転がっていて・・・ここで何が行われていたかを物語っていた。


「大丈夫?1人で立てる?」

「へ・・・たいした事・・・ねーよ」


強がってはいるけど、傷だらけの身体を引き摺って・・・私は慌ててその肩を支えた。


「お、お前・・・」

「は、はやく・・・ここから、逃げ・・・」


外ではもう煙の正体に気付かれているかも知れない。

魔法のあるこの世界では、あれくらいの消火は簡単だろう。

煙が晴れる前に脱出しないと・・・


私達は急いで階段を駆け上り、屋敷の外へと・・・


「おっと、逃がさねぇぞ」

「「?!」」

「く・・・」


思った通りと言うか・・・屋敷の外はもう煙が薄まってきていて・・・

私達は偽警備隊にすっかり取り囲まれてしまっていた。

こうして見ると皆人相が悪い・・・警備隊どころか、ただのごろつきだ。


「お、可愛いのがいるじゃねぇか」

「ぐへへ・・・たっぷりと遊んでもらおうかな」

「ひぇぇ・・・」


男達の下卑た視線に晒され・・・背中のあたりにゾクゾクとした感覚が走る。

もっとも、その視線の大半はアクアちゃんに集まって来ているんだけど。

確かにアクアちゃんはかわいいからね・・・でもそれは必ずしも良い事じゃない・・・今知ったよ。


「お、おでは・・・あっちの子の方が・・・」

「ふぇっ?!」


こわいこわいこわい。

なんか色んな意味で怖いよ・・・に、逃げないと・・・でもどっちへ?

周囲180度完全に囲まれて、逃げ場なんてない。

ど、どうしよう・・・私の身体は震えるばかりで・・・


ポン…


「え・・・」


何かが私の頭に触れた・・・次の瞬間・・・


「・・・お前らの相手は・・・俺だろうが!」


そう言うなり、ブレンヴェルグが私達の前に進んで・・・


「うぉおおおおおおおおおお!!」


耳をつんざくばかりの咆哮・・・周囲を囲むごろつき達の顔に、緊張が走るのが見えた。


「おい・・・痛めつけたんだよな?」

「く・・・まるで狂戦士か・・・蛮族が」


数の上では圧倒的だというのに・・・ごろつき達は怯んで、なかなか手を出してこない。


「さぁ・・・どいつからだ?!」


ごろつき達を挑発しながら、ブレンヴェルグは私達に目配せした。

この隙に逃げろ・・・と、言葉にしなくてもそれは充分にわかった。


「ナデシコ・・・せーのでいくわよ」

「で、でも・・・」


覚悟を決めたらしいアクアちゃんが小声で囁く・・・でも私は動けずに・・・


「な、なにビビってやがる!お前ら、全員で掛かるぞ!」


ごろつきのリーダー格らしき人物が声を張り上げるのと同時に・・・その周囲の人達が一斉に・・・


「「「ふぇっ?!どぅっ?!ぐごぉっ?!」」」


・・・後方からやって来た別の集団に叩き伏せられた。

警備隊・・・偽者じゃない、本物の警備隊だ。


そして、警備隊の人達に囲まれるようにして、彼らの指揮を執るのは・・・


「ナデシコ、アクア!もう大丈夫よ!」

「・・・ローゼリア様!!」


体育祭の時の戦女神のような、凛々しい立ち姿で・・・金色の髪が風にたなびく・・・

うん・・・もう大丈夫だ・・・よかった・・・

その姿を見て・・・私は、全身の力が抜けていくのを感じた。



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