第73話 「こ、これが・・・魔力の光・・・」
王女2人の生誕を祝うお祭りは大盛況だったという。
あまり国民の前に姿を見せない、第2王女のメリアーナがパレードに出てきた事。
そして謎の異世界人『大和撫子』の噂話で街の人々は大いに盛り上がり・・・その日は、夜中になっても王都の灯が消える事の無い『眠らない1日』として後世に名を刻まれる事になったのだ。
そんなお祭りの日の翌日・・・私の朝は、寝坊から始まった。
「むにゃむにゃ・・・あと5ふ・・・あばばばばば?!」
容赦のない電撃の魔法が、私を眠りから叩き起こす・・・最近は寝坊をしなかったので、この感覚は久しぶりだ。
魔法を放った主はもちろんローゼリア様、昨夜は王宮で過ごしたはずなんだけど・・・いつの間にか寮に戻ってきていた。
それだけの時間を私が寝坊していた・・・とも言えるんだけど。
「ナデシコ、目は覚めた? 遅刻するわ、急ぎなさい!」
「は、はひっ!」
いつになく切羽詰まった様子のローゼリア様に急かされ・・・手伝ってもらいながら、私は慌てて支度を済ませた。
そこから朝食をとる時間もなく学園へ・・・どうやら本当に遅刻ギリギリまで眠っていたようだ。
その原因は・・・今まさに私の隣にいる王女様なわけだけど。
誕生日プレゼントに困って苦肉の策として用意した『なんでもする券』・・・それを渡す際の口上が、愛の告白にしか聞こえなかったとメイドリーは言っていた。
はたしてローゼリア様はどう思ってあれを受け取ったのか・・・私としては気が気じゃない。
色々考えちゃって・・・なかなか寝付けなかったのも、しょうがないんじゃないかな。
「もっと速く!・・・体育祭での走りを思い出して」
「ふ、ふぇぇ・・・」
そんな事を言われても、体育祭が終わってからは運動らしい事はしていない。
ヘロヘロになりながらも教室に辿り着き、倒れ込むように席に着く・・・タチアナ先生が入ってきたのはまさにそのタイミングだった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「ナデシコさん? 具合が悪いの?」
「い、いえ・・・ちょっと・・・朝から、体育祭の再現を・・・はぁ・・・」
「?」
先生に訝しげな顔をされながら、今日の授業が始まった。
朝からドタバタしたおかげで変に悩まなくて済んだのは良いけれど・・・
ローゼリア様は・・・特別何か変わった様子はない。
私の考え過ぎか、単にメイドリーが過剰反応だったのか・・・思ったような心配はしなくて良いのかも知れない。
そんな事よりも・・・
「本日から、魔法について・・・その扱いを学んでいきます」
「?!」
つ、ついに魔法の授業が・・・やっぱり異世界と言えば魔法だよね。
けれど異世界人の私に魔法は無理なんじゃ・・・そう思っていました、今日この瞬間までは。
「ニホン人のナデシコさん・・・それにペイターさんは魔力がありませんでしたね、こちらを身に着けて授業を受けてください」
そう言って先生が手渡してきたのは、一対の腕輪だった。
先日の体育祭で身に着けた物に、なんとなく似ているけど・・・その効果は真逆。
中に魔力が充填されていて、魔力が無くても一時的に魔法が使えるのだとか。
「これ・・・すごい貴重な魔道具なんじゃ・・・」
「魔法の仕組みを学んでもらう為の教材として・・・王宮からの特別な貸与です」
「?!」
やっぱり、すごくお高い品らしい・・・それはペイター君の反応からも伺えた。
魔法の授業の度に借りて、返却する流れらしい・・・落としたりして壊さないように気をつけなきゃ。
さっそく腕輪を身に着けると、腕輪についている宝玉が煌々と光り出した・・・お、おおぅ。
「こ、これが・・・魔力の光・・・」
「?!」
充填された魔力が切れると光らなくなる仕組みのようで、今は満タン、眩しいくらいだ。
すごい魔道具らしく、クラスメイト達の視線が集まってくるのを感じる。
・・・ちょっと恥ずかしいけど、今回注目されてるのは貴重なこの魔道具の方、私じゃないから気楽だ。
ペイター君の方も同じように腕輪を装着、男の子用だからかデザインがちょっと違うみたい。
準備が整ったところで、ついに魔法の授業が始まった。
日本人の私が初めて放つ、記念すべき最初の魔法は・・・光の魔法だった。
「光に満ちた昼間の時間は、光素が豊富にあります・・・それらを1カ所に集めるように意識して・・・」
タチアナ先生の広げた手のひらの上に小さな光の玉が浮かぶ。
これが一番簡単な、初歩の魔法・・・もっとも夜になると難易度が上がるらしいけど。
ローゼリア様やメイドリーが当たり前のように使ってるのを見てきているけど、はたして・・・私に出来るのか。
結論から言うと、あっさり出来ました。
光ってる腕輪の宝玉の先に、ちょっと意識を向けただけで・・・そこそこ大きな、バレーボールくらいの光の玉が。
こ、これを私が・・・正直あんまり実感がないんだけど、それが私の初めての魔法だった。
「火や氷の魔法は怪我をする危険が高いので、今は決して手を出さないように」
「は、はい・・・」
・・・魔法によって怪我をすると、癒しの魔法が効きにくいのだとか。
異なる魔力が干渉するとかなんとかで・・・とりあえず、怖いという事だけはよくわかった。
そう思うと、毎回無傷で済んでいるローゼリア様の電撃は、かなり繊細に手加減してくれているんだろう。
「・・・ローゼリア様・・・ありがとうございます」
「・・・ナデシコ?」
「い、いえ・・・なんでもないです・・・」
思わず感謝の言葉を呟いてしまった。
不思議そうに首を傾げるローゼリア様は、やっぱりいつも通り・・・いつものローゼリア様だ。
光の魔法を何回か反復して・・・今日の魔法の授業は終わり、今後少しずつ扱う種類が増えていくのだろう。
魔道具という制限付きとはいえ、ちょっと楽しみだ・・・怪我は怖いけど。
そして迎えたお昼休みの時間・・・今日はメイドリーとアクアちゃんが一緒だ。
ローゼリア様は何かと忙しいらしく・・・王女様は大変だ。
話題は昨日の生誕祭・・・と思いきや、その裏でちょっとした事件があったらしい。
「泥棒?!」
「そう、生誕祭の準備で慌ただしくしている所を狙われたらしいわ」
被害に遭ったのはモラウスキー家という貴族・・・そこそこの力を持つ貴族らしい。
少なくともメイドリーやアクアちゃんの実家よりも格上の貴族なのだとか。
何が盗まれたのかとか詳しい事は公表されていないけれど・・・犯人は獣人族だという。
「獣人族・・・って何?」
「私も見た事はないけど・・・半獣半人の姿で・・・獣の力を使う種族らしいわ」
「へぇ~、メイドリーは知ってる?」
「いえ・・・私も噂話程度でしか・・・」
結構珍しい種族らしい・・・エルフやドワーフとは違って、この学園にも獣人族の生徒はいないのだとか。
獣の力・・・よくわからないけど強そうだ・・・でもその力を泥棒に使うなんて。
獣人族については知らない2人だけど、貴族の方・・・モラウスキー家については、それなりに知っているみたいで・・・
「貧乏貴族のひがみと思われるかもしれないけど・・・」
と、切り出したのはアクアちゃん。
「うちと違って随分羽振りが良いらしいけど・・・正直、あんまりいい話は聞かないわね」
結構お金持ちの貴族らしい・・・泥棒が入るのもそのお金が目当てなんだろうか。
お金持ちという事で悪い噂も付き纏う・・・その辺もよくある話な気がする。
「うちも取引があるんですけど、やたら金払いが良いとかで・・・ある意味で評判は良いというか・・・」
と、そこでメイドリーは言葉を濁した。
周囲を気にするように、声を潜めて・・・
「ここだけの話なんですけど・・・会員制のクラブを経営しているとかで・・・そこで大金を稼いでるらしいです」
「!!」
そ、それは・・・ひょっとして・・・
「何かの暗喩と思いますが・・・そこは『にゃんにゃんする』所らしいです」
「・・・」
「・・・最低」
ああ・・・女の人が接待するやつ。
所謂、いかがわしいお店なんだろう・・・そこで大金を稼いでいる、と。
この国の法律的にどうなのかは知らないけれど、あまり良い行いではなさそうだ。
「となると・・・泥棒って言うのも、そんなに悪いやつじゃないのかも・・・」
「あ、アクアさん、あまり滅多な事は言わない方が・・・」
学園内にもその関係者がいるとでも言うかのように、メイドリーは周囲を気にしていた。
モラウスキー家か・・・結構やばい貴族なのかも知れない。
そしてそこに盗みに入ったという泥棒・・・アクアちゃんじゃないけど義賊って感じがしてくる。
「ま、そういう事なら私達が心配する事はなさそうね・・・貧乏人から盗む物なんてないし・・・あ、私自身があるか」
「「・・・」」
「・・・何よ」
いや・・・まぁ・・・アクアちゃんがかわいい、というのは認めるけど。
さすがに・・・そういうのは・・・
泥棒の話はそれくらいにして、話題を変えて・・・私達は楽しくお昼休みを過ごしたのだった。
そして、その日の放課後・・・例によって私は補習を受けていた。
タチアナ先生は懇切丁寧に教えてくれるんだけど・・・出来が悪くてごめんなさい。
けど魔法に関しては筋が良いって褒めてくれた・・・借り物の魔力なんだけど。
時間は夕暮れ、もう他の生徒の姿も見かけない学園を1人とぼとぼと歩いていると・・・
ニャーン…
ぴくっと、私の耳が反応した。
こ・・・この鳴き声は・・・猫ちゃん?!
この異世界に来てからというもの、まだ遭遇していない生き物・・・そもそもこの世界に存在しているのかも怪しかった。
けどっ・・・今の鳴き声は・・・紛れもなく・・・
私は吸い寄せられるように、その声が下方向へ・・・
私、猫は大好きなんだ・・・小さい頃から猫を飼うのに憧れていて・・・でもお父さんが猫アレルギーで。
近所の猫スポットを巡る事が数少ない楽しみだったんだけど・・・最近は保健所が厳しくて、野良を見掛ける事も少なくなってきていた。
ニャーン…
その猫の声が、今すぐ近くに・・・うん、近い・・・この近くにいるよ。
そこは薄暗い校舎裏・・・この複雑な形をした学園の中でも、かなり端っこの方だ。
あまり使われた形跡のない黒ずんだ通用口?・・・その足元に。
ニャーン…
「ね、ねこちゃ・・・ひっ?!」
雑草に紛れるようにして転がっていたのは、1匹の可愛らしい子猫。
見た感じ毛の長い種類・・・め、めいくいんだっけ・・・アレに似てる。
しかし猫ちゃんとの邂逅を喜んでいる場合ではなかった・・・何故なら・・・
「・・・誰だ?」
「あ・・・ああ・・・」
猫ちゃんの転がるその先に・・・身体の大きな男子生徒が1人。
茶色い髪の中にひと房だけ・・・存在感を示すように、真っ赤に染めた色が混ざっている。
それは、入学式の時に一度だけ遭遇した・・・不良だった。




