第71話 「まぁ、可愛らしいこと」
王女生誕祭、2日目___
今日は第1王女であるローゼリア様のお誕生日だ。
この国の王様は、こと娘に対しては相当甘いらしく・・・2人の王女の誕生日がちょうど続いているのを祝って、国民の休日に制定したのだとか。
元々休日だったメリアーナの誕生日はそのままで、別に明日が振替休日とかにはならないけど・・・王様自身や、現在日本に留学中の第1王子の誕生日は普通に平日だというのだから、それでもかなりの特別扱いだろう。
メイドリーによると、今日も王都では朝早くから人が詰めかけて、場所取りが行われているらしい。
そのお目当ては、もちろんローゼリア様を乗せた馬車によるパレード。
今日はお誕生日当日とあって、広場に乗り入れてのイベントも行われるのだとか。
だから今日の場所取りの激戦区は主に広場の方で・・・通りの方はその分だけ人が少ない・・・そう予想されていた。
昨日のパレードを観て、それで満足した人もいるだろう。
この状況でパレード本体を盛り上げるには、何か新しい要素が必要と言えた。
「・・・だからって、なんで私が・・・こんな・・・」
豪華に飾り付けられた馬車を前に、メリアーナが不貞腐れた顔で呟く。
今日のメリアーナは昨日と打って変わってピンク色の可愛らしいドレス、白のレースとフリルが要所要所に入っていて、まるでホイップでデコレートされたケーキのよう・・・大きく膨らんだスカートがまた彼女の少女らしさを演出している。
今のメリアーナに一番似合う物を・・・と、ローゼリア様に選んでもらった結果だ。
今日のパレードに出るように頼んだ私に、メリアーナはすごく嫌がった、これでもかというくらい拒絶してきた。
人気者の姉ローゼリア様と違って、自分は国民に求められていないから・・・と。
メリアーナのその意志は固く・・・だから私も、躊躇う事無く切り札を使ったのだ・・・ローゼリア様への告げ口という。
「メリアーナ、文句を言ってもダメ・・・大事な日に仮病を使って、皆に心配をかけた罰なのだから」
「うぅ・・・」
その効果は覿面。
すぐさま予備の馬車がメリアーナ専用に用立てられた。
よって、今日のパレードは予定を変更しての豪華仕様、2台の馬車で行われる。
「こういう祝事に、国民の皆様に元気な姿を見せるのも王家の務め・・・しっかり務めなさい」
「・・・はい」
さしものメリアーナも、厳しい姉の顔で接してくるローゼリア様には素直に従うしかない。
色々あったみたいだけど、しっかり姉妹してる2人・・・傍から見ていると、ちょっと羨ましくもあった。
くれぐれも逃げ出したりしないように、とメリアーナに釘を刺して・・・ローゼリア様は自分の馬車に乗り込んだ。
「まさか出発する所を見れるなんて・・・ローゼリア様、がんばってきてください」
「メイドリー、ありがとう・・・行ってくるわね、ナデシコ」
「は、はい・・・ローゼリア様、行ってらっしゃい・・・ませ?」
こういう時、なんて言って送り出すのが良いのか・・・ちょっと迷ってしまった。
ローゼリア様を乗せた馬車がゆっくりと動き出し、今日はお城の裏門の方から出るようだ・・・そして入れ替わりにメリアーナ用の馬車がやって来て停まった。
元が予備だっただけに見た目はローゼリア様の馬車とほぼ同じ、オープンタイプなので誰が乗っているのかがよく見える造りだ。
「はぁ・・・しょうがないわね・・・」
ため息を吐きながらも、メリアーナは馬車に乗り込み、かけて・・・途中で動きが止まった。
・・・何があったんだろう?
「ナデシコ、手伝って・・・ドレスが引っ掛かっちゃって・・・」
「え・・・あ・・・うん」
どうやら彼女のドレスのどこかが馬車の乗り口に引っ掛かったらしい。
あちこちに飾りのついたドレスだから、そういう事もあるんだね・・・破いたりしないように気をつけなきゃ。
呼ばれるまま、私は駆け寄って・・・メリアーナのドレスの状態を確かめ・・・?!
「かかったわね! こうなったら道連れよ!」
「ふぇっ?!」
メリアーナは何処にも引っ掛かっていない滑らかな動きで私を掴む。
一瞬身体が浮かぶような感覚を味わった後・・・私は柔らかなクッションの中へと着地した。
え・・・な、何が起こって・・・
「レーネフィール、馬車を出しなさい!」
「かしこまりました」
御者台の上で、メリアーナ付きのメイドさんが鞭を振るうのが下方に見えた。
あ、なんか視点がだいぶ高い・・・横を見ればすぐ傍にメリア―ナが・・・これって、まさか・・・
「め、メリアーナ・・・?」
「ふふ・・・王女専用の馬車に乗れるんだから、名誉に思うことね」
「あ・・・やっぱり・・・」
なぜか私まで、メリア―ナの馬車に乗せられてしまっていた。
慌てて降りようにももう馬車は動いていて・・・しかも結構な高さがあった。
運動音痴の私では無事に済むとはとても思えない。
私という異物を乗せたまま、馬車が城門を潜り抜ける・・・しかも正門だ。
どうやらローゼリア様の馬車とは違うコースを通るらしい。
馬車はそのまま真っ直ぐに進み・・・昨日通った大通りへ向かうコースだ。
「ほらナデシコ、国民達が待ってるわ・・・これから一緒に味わいましょう?」
「味わうって・・・な、何を・・・」
「・・・乗ってるのがお義姉様じゃない、ってがっかりされる気持ちを、よ」
メリア―ナが自虐的にそう呟く。
そうだよね、メリア―ナはそれが嫌だったんだよね。
けど・・・
そんな事にはならないって・・・私は知っていた。
だって私は・・・大通りにあったお店で・・・
「来た、メリアーナ王女だ!」
馬車が大通りに入った瞬間・・・待ち構えていた人々から歓声が沸き上がった。
そのどれもがローゼリア様ではなく、メリアーナ王女の名前を呼んで・・・
「やっぱり言った通りになっただろ? 昨日はメリアーナ様来なかったから今日だって!」
「ああ・・・ここで待ってて正解だった!」
「メリアーナ様、お誕生日おめでとうございます!」
人々から昨日のお誕生日を祝う声が・・・そして、それと同時に掲げられたのは、いつか見た王女様人形。
あの時は『ローゼリア様にぜんぜん似ていない』と不満を覚えたんだけど。
それもそのはずだ・・・だってあの人形はメリアーナを模した物なんだもの。
今ならよくわかる。
長いストレートの髪型はメリアーナの特徴だ、ちゃんと人形は『王女様を再現』していたんだ。
メリアーナを慕う国民の手によって・・・
「う、嘘・・・なんで・・・こんな、こんなのって・・・」
「メリア―ナ・・・ほら手を・・・振ってあげたりとか」
「あ・・・うん!」
全方位からメリアーナ王女を呼ぶ声・・・瞳を潤ませながら、メリアーナはそれらに手を振って応える。
皆が王女様グッズを振りながら、1日遅れのメリア―ナの誕生日を祝っている。
そうだよメリア―ナ・・・貴女は出来損ないの王女なんかじゃない、ちゃんと国民に愛された本物の・・・
「??・・・隣にいるのは、誰だ?」
「ローゼリア王女?・・・じゃないな、どう見ても・・・」
「歳は同じくらいか・・・黒い髪の女の子・・・いったい、何者なんだ?」
それまでメリア―ナを見ていた人達が、すぐ傍にある異物に反応し始めた。
そう・・・それは私だ。
「あ・・・ああ・・・」
ついに人々が、私の存在に気付いてしまった。
さすがにこの状況・・・存在感や気配をなくした所で、どうにかなるような場面じゃない。
オープンタイプの馬車には隠れる場所もなく・・・大勢の奇異の視線が、容赦なく私に・・・
「ふ、ふぇぇ・・・」
こんな事なら、多少怪我してでも馬車から降りていれば良かった。
いや、今からでも遅くは・・・そうだ、これは私なんか乗っていい馬車じゃない・・・
私は意を決して馬車から・・・あ・・・やっぱり怖・・・
「・・・もうっ!しょうがないわね!」
「えっ・・・」
馬車から飛び降りようとした次の瞬間、私の腕に何かが絡みついた・・・って、メリア―ナ?!
メリアーナが私に密着して、その腕を絡めてきて・・・これじゃまるで・・・
「め、メリアーナ?!」
「ほら笑顔・・・貴女も手を振りなさいよ」
「え・・・ええと・・・こう?」
もうわけもわからず、私は言われるがまま・・・メリアーナと一緒に手を振った。
あと・・・え、笑顔?・・・どうすれば笑顔になるんだっけ・・・
「まぁ、可愛らしいこと」
「メリアーナ様とあんなに仲良さそうに・・・」
「ご友人かしら? どこの名家の?」
よく知らないけど、お友達の貴族の誰か、みたいに思われてるみたい。
これはこれで、誤魔化せる・・・のかな。
メリアーナは終始これで押し切るつもりらしい・・・パレードはまだ始まったばかりだけど、大丈夫かなぁ。
「ナデシコ、堂々としてれば大丈夫だから・・・」
「う、うん・・・」
メリアーナ王女と仲の良いお友達貴族・・・そんな顔で乗り切ろうとしたのもつかの間。
群衆の中から聞き覚えのある声がしてきた。
あれはたしか・・・クラスの男子の・・・
「あれがニホン国からの高貴な客人、大和撫子だ・・・この機会に覚えておくと良い」
「大和撫子?! ニホン国だって?!」
「あれが・・・ニホン国の・・・言われてみれば独特の雰囲気があるな」
あ・・・あはは・・・
ライゼンのその言葉が、人々の間にあっという間に広まって・・・
どうしよう・・・もう街を歩けないかも・・・
「「メリアーナ様! 大和撫子様!」」
メリアーナコールと大和撫子コールに包まれながら、馬車は王都中を駆け巡る。
ほんの数時間が、まるで永劫の時のように感じられた。
そしてパレードは無事に?終わり・・・
「なぜか国民の中からナデシコを呼ぶ声を聞いたのだけど・・・?」
「き、聞き間違え・・・じゃないかな・・・」
「そうよね・・・疲れが溜まっているのかしら・・・メリアーナ、ちゃんと務めは果たせた?」
「はいお義姉様みんなよろこんでくれました」
私を馬車に乗せた事を隠すメリアーナ、思い切り目が泳いでるんだけど。
だ、大丈夫かな・・・正直に話した方が良いと思うんだけど・・・
もちろんローゼリア様には後でしっかりバレて・・・メリア―ナはたっぷり怒られたらしい。




