閑話 第2王女が主役の日
「か、かえし・・・て・・・」
「嫌、返さない」
見るからに気の弱そうな、黒い髪の女の子。
私の手の中の『これ』が、よっぽど大切なのか、必死に手を伸ばしてくる。
けど・・・返したりはしない。
ナデシコ・・・ニホン国から来た、ローゼリアお義姉様のお友達。
何も知らない、かわいそうな女の子。
今日は私の誕生日だという事も知らずに・・・そんなものを見せびらかすから。
「へぇ~、キノコの中にキノコが入ってるのね・・・かわいい」
半透明なキノコの形の容器の中に、キノコが入っているのが透けて見える。
かわいらしい、それに結構凝ったプレゼントだ・・・もっとも、それがお義姉様の趣味に合うとも思えないけれど。
蓋を開けると・・・思っていたのとは逆の、甘い匂いが広がって・・・
「なにこれ・・・良い匂い・・・ひょっとして、お菓子なの?」
「だ、ダメ・・・」
キノコをひとつ摘まみ上がると、ナデシコの顔が悲しそうに歪んだ。
もしも、これを食べてしまったら・・・また泣いてしまうのかしら?
自分あての誕生日プレゼントを横取りされたと知ったら、さすがのお義姉様も私を怒るかも知れない。
けれど・・・
「あっ・・・」
甘いチョコレートの味が舌の上でとろけていく・・・美味しい。
続いて軸を嚙み砕く・・・サクサクとした歯ごたえが子気味良いアクセントとなって、私の食欲を刺激した。
もうひとつ・・・またひとつ・・・手が止まらない。
「そ・・・そんな・・・」
目の前のナデシコの絶望する顔・・・あのローゼリアお義姉様の物を奪ったという背徳感。
それらがない交ぜになって・・・何とも言えない至福の瞬間を私にもたらしてくれた。
それにしてもこのキノコのお菓子・・・こんなに美味しいお菓子があったなんて。
「・・・もう、なくなってしまったわ」
そんな至福の時も、あっという間に終わってしまった。
あんなに美味しいのなら、もっと大事に食べるべきだったかしら。
「・・・」
無言でうなだれるナデシコ・・・けれど、これで終わりじゃない。
貴女にはこの後も、たっぷりと付き合ってもらうんだ。
今日はお義姉様のではなく、私の誕生日なんだから。
今頃お義姉様は、王都中を巡るパレードの真っ只中。
王宮でお友達がこんな事になっているだなんて気付きもしない。
誰も・・・私の事なんて、気付きもしない。
優秀で、運動も魔法も何でも出来て、誰よりも美しいローゼリアお義姉様。
お父様も、お母様も、国の民の全てが・・・お義姉様にくびったけ。
でも今日は、今日だけは私が主役なんだ・・・私が・・・主役なんだ。
「この私が命じるわ、ナデシコ、着いて来なさい!」
「ふぇっ・・・」
ふふっ・・・情けない声をあげちゃって。
かわいそうなナデシコ、貴女は人柱に選ばれたのよ。
今日はたっぷり・・・私と遊んでもらうわ。




