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第64話 「貴女達を誕生会に招待するわ」


季節が夏へと近付くに連れて、窓から差し込んでくる陽光は濃くなっていく。

空の色は青さを増し・・・ひんやりとした夜の空気は徐々に温められて、気だるさを感じる温度が朝の訪れを告げる。

そんな季節の変わり目を感じながら、この日の私は・・・


「・・・」


この日の私は・・・一睡も出来なかった。


(・・・プレゼントの事を考えていたら、朝になってる?!)


うっすらと瞼を開き、隣のベッドの様子を伺う・・・しっかりと膨らみを保った掛け布団と、そこから流れ落ちる金の糸のような髪が見えた。

よく耳を澄ませば、ごく小さく「すぅぅ・・・」っと寝息が聞こえてくる。

どうやらローゼリア様はまだお休み中のようだ。


あと1週間足らずで16歳のお誕生日を迎えるローゼリア様。

早生まれの私からすれば1つ年上に近い・・・大人びて感じるのはそのせいだろうか。

目前に迫ったお誕生日について、本人からは何も聞いていない・・・それも当然だ、私の誕生日だって話してないのだから。

これまで一緒にいてそういう会話の流れにならなかった、その前に誕生日が来てしまった・・・残念ではあるけど、それだけの話。


・・・ことローゼリア様に関しては『祝日なのだから言うまでもない』という話ではあるんだけど。


この国で1番、じゃないにしてもかなり偉い王女様・・・その気になれば何でも手に入りそう。

そんな彼女にいったい何を贈れば良いのだろうか・・・何なら喜んでもらえるんだろうか。


物音を立てないように気を付けて起き上がった私は、そうっとローゼリア様の寝顔を覗き込んだ。

何か都合よく寝言で欲しい物とか言ってくれないかな・・・せめてヒントになるような事を・・・

そんな期待をしながら、寝顔に耳を近付けると・・・


「・・・ナデシコ、ダメよ」

「ひ・・・!・・・ご、ごめんなさ」


反射的に身を遠ざける・・・そこで物音を立てなかったのはただの幸運だった。

目を覚ましたかと思ったローゼリア様だったけれど、そのベッドの上に動きはなく。

ひょっとして、まだ眠ってる?・・・私がもう一度、彼女の側に近付いてみると・・・


「・・・プティングをひと口で食べてはいけないわ」

「・・・ふぅぅ」


あからさまに場違いなその言葉に、私は大きく安堵の息を吐いた。

どうやら寝言みたいだ・・・た、助かった。

ローゼリア様の夢の中で私はプティング・・・プリンの事だった気がする・・・をがっついているみたいだ。


プティング・・・お菓子かぁ・・・残念ながら日本のお菓子は『キノコの山』しか持っていない。

お茶会で何度も出してきたし、今更これを誕生日プレゼントにするのは気が引ける。

せめてレアな限定キノコが残ってたら良かったんだけど・・・もう食べてしまっていた。


「・・・ん・・・」


小さな吐息と共にローゼリア様が寝返りをうち・・・それと共に目を覚ましたみたいだ。


「あ・・・ナデシコ?」


私のベッドが空なのに気付いて、周りを見回す・・・寝起きだからか、その所作が子供っぽい。

ちょうど反対方向にいるんだけど、ローゼリア様はなかなか気付かないみたいで・・・

人形みたいに首を左右に振って、その度に金色の髪がベッドの上で跳ね回った。


「ローゼリア様、おはようございます」

「!!」


その背中に声を掛けると、ローゼリア様はビクッと震えて、また髪が跳ねた。


「ナデシコ、そんな所に・・・今朝は早いのね」


その場で振り返ったローゼリア様が上目遣いに私を見上げてきて・・・いつもとは違う、愛らしさみたいなのを感じた。

普段は身長差があるので、私が見上げる方だから・・・なかなか貴重な体験かも知れない。

早起きは三文の得、そんな言葉を思い出した・・・今日は寝れてないんだけど。



いつものように私達は身支度を整え、朝食を食べて、学園に向かった。

まだ2ヵ月も経ってないけれど、もうすっかり『いつもの』光景になっている。

今私の隣を歩く相手は一国の王女様だというのに・・・慣れってすごい。


教室に到着すると、私は足早に自分の席へと向かった。

目当ての人物は、これまたいつものように私よりも先に隣の席に・・・


「・・・お、おはよう、アクアちゃん!」

「おはようナデシコ・・・って、どうしたの?なんか鼻息が荒いんだけど・・・」

「ご、ごめん・・・すぅぅ・・・はぁ」


逸る気持ちを抑えるべく、一度深呼吸をして・・・私はアクアちゃんに相談を持ち掛けた。

もちろん内容は、ローゼリア様のお誕生日の件で。


「あのね・・・アクアちゃんは・・・ローゼリア様の誕生日、知ってる?」

「・・・次の連休の?」

「そ、その・・・誕生日プレゼントとか、どうするのかな・・・って」


話の意図がわからなかったのか、アクアちゃんは一瞬不思議そうな顔をしたけれど。

私の言動から察するものがあったらしい。


「ああ・・・ナデシコ、さては知らなかったのね? それで今頃になって・・・」

「う・・・」


・・・その通りでございます。

自分ひとりで考えてもどうにもならなかったので、アクアちゃんを頼ってみたんだけど。


「私はクッションを作ったわ・・・実家のAランクバッフ羽毛100%の」

「Aランク・・・バッフ羽毛・・・」


アクアちゃんの実家で飼ってる家畜の羽毛は、上質なものだと高級素材になるらしく。

このAランクというのが、まさにそれだった。


「王女様へのプレゼントとしてはちょっと弱いけど、うちみたいな貧乏貴族だとこれが精一杯ね」

「よ、弱いんだ・・・」


・・・Aランク羽毛でも。

どうしよう・・・参考に出来ないどころか、プレゼントのハードルが上がってしまった。


「ナデシコはニホン国の物を贈れば良いんじゃない?」

「それは・・・そうなんだけど」


この異世界に持ち込んだ荷物の大半が『キノコの山』である。

あとは黒い歴史を綴った『ナデシコノート』・・・こっちは論外だ。

日々の消耗品の類はプレゼントに向かないし・・・長久保さんに頼んで何か送ってもらうには時間が掛かる。

どう考えても、この路線は『なし』だ。



ここは相談相手を変えて・・・私は昼休みにフィーラを捕まえた。

人間とは異なる文化に精通したフィーラの事だ、きっと参考にな・・・


「別に・・・何も贈らないわよ?」

「へ?」

「元々誕生日に物を贈るという習慣がないのよ、私達」


そ、そうですか・・・エルフ族はそういう文化でしたか。

まさかプレゼント無しとは・・・これはさすがに、参考にしたらいけないやつだ。


「でもその日の食事は豪華にするわね・・・と言っても皆で食べるんだけど」

「へ、へぇ~・・・」


豪華な食事・・・それこそ王女様であるローゼリア様は食べ慣れている事だろう。

だいたい私は料理が得意なわけでもない、変な料理をお出ししてお腹を壊されたら一大事だ。


結局お友達の知恵を借りる作戦は上手くいかず・・・放課後、私は街まで出掛ける事にした。


「メイドリー・・・いいの?」

「はい、昨日は私が付き合わせてしまいましたし、お返しです」


昨日と同じく、街にはメイドリーが一緒について来てくれた。

ああは言ってくれてるけれど、プレゼントの話で責任を感じてしまったなら、ちょっと申し訳ない。


街の雰囲気は相変わらずお祭りムード。

昨日よりも飾り付けが進んでいるみたいで、銀細工の数が増えている。

銀の飾りの中には王女様をあしらった物もあるらしく・・・あんまり似てないけど、デフォルメ?された女の子の形の物がそれなのかな。


「ナデシコも何か作るんでしたら、素材のお店を案内出来ますけど・・・」


そう言ってくれるメイドリーに、私は情けない顔で首を振った。

残念ながら、私は編み物や裁縫が出来る程器用じゃないんだ。

だから何か出来合いの物を探して・・・お店を物色していると、さっそく声が掛かった。


「手のひらサイズ!王女様人形はいかが!」

「これが・・・王女様人形?」

「そう、王女殿下の可愛らしいお姿を完全再現!よく出来てるだろう?」


観光地のお土産物のノリで売られている王女様人形・・・ぶら下げる用のストラップ付。

けれど手渡された見本がまた・・・似てなかった。

ここの国民の目は節穴か・・・いやいや、王女様と接する機会なんてないだけ・・・だよね?

もちろん、こんな品を本人にプレゼントするわけにはいかない。


その後も王女様クッキー、王女様ロール・・・これはローゼリア様の髪型っぽいかも。

さまざま王女様グッズ、商品がここぞとばかりに売り出されていて・・・ローゼリア様が国民に愛されてる事が伝わってくる。

けれど・・・肝心の誕生日プレゼントに良さそうな品には、結局出会えず仕舞いで・・・


「メイドリー、ごめん・・・せっかく付き合ってくれたのに・・・」

「いや、私も役に立てなかったし!」


互いに謝りながら、学生寮への帰路につく。

夕日の赤に染まる地面を2人並んで、とぼとぼと・・・

心なしか足が重いのは、深く沈み込んだ心の重さか・・・何の成果もなかったから・・・


ちょうど学園の入り口付近を通過しようとした時・・・ふと、隣でメイドリーの足が止まった。

学生寮はもうすぐ傍、目と鼻の先だというのに・・・昨日今日と歩き詰めで疲れてしまったのだろうか。

心配して彼女の方を見ると、驚愕の表情を浮かべていて・・・??

私もその視線の先を追って見てみる・・・夕日が逆光になっててよく見えな・・・あっ。


「街に出ていたのね・・・ナデシコ、メイドリー」

「・・・ローゼリア様」


学園の門の所に立っていたローゼリア様が、そのまま私達の方へと歩み寄ってくる。

たちまち緊張で硬くなったメイドリーの背中をさする・・・これで少しは緊張が解けないかな。


「メイドリー、リラックス・・・リラックス」

「な、ナデシコ?!くすぐったいし!」

「ふふっ・・・仲が良いのね」


くすぐったつもりはないんだけど、メイドリーは身を捩って私の手から逃れた。

そんな私達を見て微笑むローゼリア様・・・その手に何かを持っていて・・・


「ちょうど2人を探していたの」

「・・・2人?」

「え・・・私も・・・ですか?」


意外そうな顔でメイドリーが問い返すと、少しだけいつもと違う笑顔でローゼリア様が頷いた。

なんと言うか、少しの不安の色・・・それでいて、いつもよりも楽しそうな。

ローゼリア様は私達のすぐ傍まで来ると、持っていた何かを差し出してきた・・・これは、手紙?


「体育祭の時、2人にご褒美を用意するって約束したでしょう?・・・受け取って」

「「あ、はい・・・」」


奇しくも同じ反応で、同じ髪型も相まってまるで双子の姉妹のように。

私とメイドリーはぎこちない手つきで・・・ローゼリア様に言われるがまま、差し出された手紙を受け取った。


「貴女達を誕生会に招待するわ」

「「!?」」


ピシ…


隣で石化したように固まるメイドリーの気配を感じながら・・・


私は目の前の光景に・・・私達に向かって、はにかんで微笑むローゼリア様に見蕩れていた。


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