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第63話 「皆が知ってる国民の休日だし」



拝啓 お父さん、お母さん


日本ではそろそろ梅雨の時期ですが、いかがお過ごしでしょうか?


私が異世界に留学をして、もう1ヶ月が経ちました


最初は不安でいっぱいだったけど、今では楽しく学園生活を送れています


異世界のお友達もたくさん出来ました、お母さんには信じられないかも知れないけど本当です


もし紹介する事が出来たら、2人ともきっと驚くと思います


あ、お土産代わりに学園の中庭で採れた花を同封します


乾燥した押し花なら大丈夫だって外務省の人達から聞いたので


色々あったけど、私は元気にやれていますので、心配しないでください


撫子



_________________




「よし・・・書けたぁ」


椅子に座ったまま軽く伸びをしたところで、こちらを伺うローゼリア様の視線に気が付いた。

さすがに手紙の内容が読めるような距離でもないけど、ちょっと恥ずかしい。


「ニホン国のご両親への手紙かしら?」

「は、はい・・・よくわかりましたね」

「ふふ・・・だってナデシコったら、すごく真剣な顔で悩みながら手紙を書いているのだもの」

「そ、そんなに真剣でも・・・ないんですけど・・・」


手紙書くのとか得意じゃないからなぁ・・・それに・・・


実はついさっき、長久保さんが家族に手紙を送らないか聞いてきたのだ。

たぶんだけど・・・体育祭で撮ってたやつを送るついでなんだと思う。

いったいどんな撮られ方をしてるのか・・・それがわからないので、手紙にも迂闊な事は書けなかった。


王女様とお友達だと知ったら、お母さんはびっくりするだろうなぁ・・・

エルフとお友達っていうのも、なかなかインパクトがあるんじゃないかと思う。

いやむしろ私が嘘ついてると思うかも知れない。

そもそも、私にお友達が出来たってだけでも信じてくれるかどうか・・・さすがに信じて欲しい。


「ローゼリア様はご家族に・・・あ・・・よく王宮に行ってましたね」

「え、ええ・・・そうね」


ローゼリア様に話を振ろうとして、ここから実家が近い事にすぐに気付いた。

世界を隔てた私と違って、会おうと思えばいつでも会える距離だったよ。

しかも最近はよく王宮に出掛けているし・・・きっと家族にも顔を合わせているのだろう。


「それなのだけれど・・・明日も放課後は王宮に行かないといけないの」

「わかりました、がんばってきてください」

「ありがとう・・・楽しみにしててね」

「?」

「な、なんでもないわ・・・今日はもう遅いから休みましょう」

「はーい」


ローゼリア様が何か言ったような気がするけど・・・まぁいいや。

言われてみればもう結構なお時間、手紙を書くのに結構かかってしまったみたいで・・・眠気が・・・

ローゼリア様が片手を振ると魔法の明かりが消えて・・・部屋を暗闇が包み込んだ。




その翌日___ローゼリア様のいない放課後。


私が1人で帰ろうとすると、すかさずメイドリーが寄ってきた。

メイドリーも私がエルフ3人組に攫われた時の捜索に加わってくれてたみたいで・・・

あれ以来、私が1人にならないように気を遣ってくれているようだ。


「ナデシコ、今日この後って空いてるし?」

「うん・・・特に予定はないけど」

「じゃ、じゃあ・・・街まで買い物に付き合って欲しいんですけど・・・」


もちろん、そのお誘いを断る理由なんてない。

お友達と学校帰りにお買い物・・・以前の私では考えられないシチュエーションだ。

私ってば、本当に充実した学園ライフが出来てるかも・・・そう思うと街へ向かう足取りも軽くなる・・・けれど。


「・・・?」

「・・・ナデシコ?」


2人で王都までやって来ると、街のあちこちに違和感を覚えた。

大勢の人で賑わっているのは相変わらずなんだけど・・・何かが・・・私の記憶と何かが違うような。


「なんだか・・・いつもと違う感じがする」

「ああ、お祭りが近いからですね・・・この国にとって、すごく大切な」


お祭りか・・・先日出会ったフィーラの妹、シィリオが思い出された。

エルフの森でもお祭りがあるみたいだし、この世界的にそういう時期なんだろうね。

確かに、お祭りって意識してみると・・・街灯に銀細工がぶら下がってたり、それっぽい飾り付けがされてる事に気付いた。

私の地元でも、お祭りが近付くと提灯とか櫓とかが少しずつ出来上がっていくんだよね・・・ちょっと懐かしい。


「あ・・・このお店です」


メイドリーについて行った先は、小さな裁縫のお店だった。

ちょっと薄暗い店内。

2人並んで歩くのも難しい程狭い通路の両脇には、布地や毛糸、裁縫道具といった物がびっしりと並べられている。

その中でもメイドリーのお目当ては・・・毛糸みたい。


「とりあえずこれは確保で・・・うーん、黄色が迷うし」


見るも鮮やかな赤の毛糸玉を迷わず掴み取ると、メイドリーは黄色系の毛糸玉をとっかえひっかえしては首を捻っていた。

どうやら何か編み物をするみたいだ・・・毛糸のマフラーとか?これから夏なのに?

メイドリーは他にも何色か毛糸を選び取り・・・最後に黄色系から2つ取って私に見せてきた。


「ナデシコはどっちの黄色が良いと思います?」

「え・・・」


いや、どっちって言われても・・・私が返答に困っているとメイドリーは更に別の選択肢を持ち出した。


「ここは思い切って金糸という手もあると思うんですけど・・・ローゼリア様を表現するには、少し俗っぽいと言いますか」

「ローゼリア様?・・・表現?」

「あ、ごめんなさい・・・言ってませんでした」


突然出てきたローゼリア様の名前に疑問符を浮かべていると、メイドリーもようやく目的を話していない事に気付いたみたいだ。

果たして、彼女がここで毛糸を買い漁るその目的は・・・


「ローゼリア様の・・・ぬいぐるみ?」

「はい、あの御髪をどの色で表現しようかと思いまして・・・」


なるほど・・・ローゼリア様のぬいぐるみを作ろうとしてるのか。

所謂『推しぬい』ってやつだね・・・しかし、ローゼリア様の金色の髪の再現かぁ。

それで金糸にまで・・・でも、ぬいぐるみってリアルさを求めるよりはデフォルメが重要だから、もっとこう・・・

私は毛糸玉の棚を見回して・・・パステルカラーというか、淡い色合いの黄色を探す・・・あった。


「あの・・・この黄色が・・・良いのでは?」

「・・・!」


私がそれを指さすと、メイドリーは抱えていた毛糸玉を取り落とした。


「わわっ・・・ご、ごめんなさ・・・」


呆然と立ち尽くすメイドリーの代わりに、毛糸玉を拾い集める。

幸いな事にお店の人は奥の方に居て・・・怒られずに済んだ。


「・・・メイドリー、これ・・・!?」

「こ、この色だし!」


拾い集めた毛糸玉をメイドリーに渡そうとした所で、メイドリーは私の肩を掴んできた。

痛たた・・・拾った毛糸玉をまた落としそうになりながら、なんとか堪える。


「私ってばローゼリア様の髪色の再現ばかりに気を取られて全体の調和を失念していたし!」

「うん・・・そうだね」

「間違いない完成したぬいぐるみの全体像をイメージすればこの黄色がベストむしろこれ以外ないし!」

「うん・・・うん・・・」


私の肩を掴んだまま、早口でまくし立てるメイドリー。

・・・彼女がその手を離してくれるまで、私は頷くしか出来なかった。


「まいどあり、仲の良い姉妹だねぇ」

「あ、あはは・・・」


私達を姉妹だと勘違いしたお店のおばさんに苦笑いしながら、買い物を済ませた私達はお店を後にした。

・・・例によって、メイドリーが私と同じ髪型にしてるからだろう。

すっかり陽も傾いてきて、王都の街並みが夕日色に染まっていく中・・・毛糸の詰まった買い物袋を抱えたメイドリーと並んで、学生寮への帰路につく・・・


「ナデシコ、今日はありがとう」

「いや・・・私も楽しかったから・・・」

「・・・おかげでローゼリア様への誕生日プレゼントはバッチリだし」

「え」


一瞬・・・我が耳を疑った。


「メイドリー・・・今、なんて・・・」

「え・・・ナデシコ、ありがとうって・・・」

「そ、そこじゃなくて・・・その後・・・」


その後だよメイドリー、すごく重要な事を言ってたよね?!

メイドリーは不思議そうに首を稼げ・・・再びその言葉を口に・・・


「??・・・ローゼリア様への、おたんじょう・・・」

「それ!・・・いつ?!」


やっぱり・・・私の聞き間違いじゃない。

間違いなく、メイドリーは、ローゼリア様のお誕生日って・・・

思わず我を忘れて問い詰める私に、メイドリーはまるで信じられない物を見るような顔を見せた。


「皆が知ってる国民の休日だし、次のお休みからの連休になってて・・・ナデシコ、まさか・・・」

「・・・」


・・・そのまさかだった。


異世界の祝日とか、その由来とか・・・これまでまったく気にしてなかった。

だから私は知らなかったんだ、ローゼリア様のお誕生日が祝日になってるだなんて。


そして・・・『王女生誕祭』なるお祭りまで存在する事も。


「ど、どど・・・どうしよう・・・」


お祭りムードに染まっていく大通りを歩きながら・・・


(ローゼリア様への誕生日プレゼント・・・何も用意してない!)


・・・私は激しい焦りに囚われていた。

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