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第62話 「緑は、金に・・・」


・・・ずっと夢を見ていた。


夢の中の私は、手足がすらりと伸びた大人の身体をしていて。

前を見ると、私と同じ視線の高さの姉様と目が合って・・・姉様は私を褒めてくれるんだ、立派になったねって。

姉様の手には花の冠が握られていて、優しくそっと私の頭に乗せてくれる。


それはあの日見た姉様の・・・緑葉の儀の時の記憶が、私に見せる泡沫の幻。

金色の輝きも、姉様の温もりも・・・私が目を覚ませば儚く消えてしまう夢。

だけど、今日のそれはいつもと違った。


まるで頭の中にまで響いてくるような謎の騒音と共に現れた人間の子。

いったいどこからこの部屋に入ってきたのか・・・がんがんする頭では何も考える事が出来なかった。

ただ、不思議とその人間から姉様の匂いがして・・・抱き締められると、姉様に包まれているみたいで・・・すぅっと頭が楽になっていった。


私が森を出て、人間の国に来てからもう何日も経つ。

きっと今日の夢は、人間の国での影響が混ざって来ているんだ。

そういえば、この人間もなんか見覚えがある・・・たしか学園で姉様と・・・


「外でフィーラが・・・待ってるからね・・・がんばって」

「・・・姉様が?」


やっぱり私の夢だ、姉様の事を考えた途端に姉様の名前が出てきた。

外?・・・よくわからないけれど、姉様の匂いがするこの人間が連れてってくれるみたい。

ああ、たしかに姉様の気配を近くに感じる・・・そっちの方向が明るく光って・・・


「さぁ、行ってらっしゃい」


人間に背中を押されて、私の身体が樹の外に出る・・・ひんやりとした夜の風と、森にない草花の匂い。

冷やされた身体が肌寒さを訴え、意識もはっきりしてきて・・・あれ、この感じは・・・夢じゃない?

それなのに、今私の目の前に広がる光景は・・・夢で見たのと同じ、緑葉の儀・・・そして・・・


「・・・姉様?」


やっぱり姉様が、花の冠を持って、私に微笑みかけていた。

私はゆっくりと足を進め、姉様の前に跪いた・・・夢で何度も繰り返してきた手順の通りに。




緑葉の儀___


それはエルフ族に古くから伝わる大人になる儀式らしい。


フィーラが、跪いたシィリオの頭に花の冠を乗せると・・・

次の瞬間、弾けるように冠から花弁が零れて・・・シィリオの周りを蝶のように舞い踊った。


「緑は、金に・・・」


フィーラの祝詞と共に、シィリオの身を包む衣の色が金色に染まり、輝きを放った。

2人を包みこむように、金色の光が中庭に広がっていく・・・


「・・・!」


金色に染まったのはシィリオの衣だけではなかった。

光に触れた中庭の草木が、トーテムが・・・各々が夜の闇を照らすように金色に染まり、輝きだした。

なんて神秘的な光景・・・思わず見惚れて、私は足元がおろそかになってしまった。


「あわわ・・・っ!」


足を滑らせて転びそうになった私の身体を、誰かが受け止めてくれた・・・ローゼリア様だ。


「あ・・・ありがとうございます・・・」

「ごくろうさま・・・上手くいったみたいね」

「あ・・・はい・・・」


あまり上手くやれた・・・という気はしないんだけど。

目の前に広がる美しい光景と・・・金色に染まった衣の裾を翻しながら、幸せそうに舞い踊るシィリオを見ていると・・・


「上手く・・・やれた、のかな・・・」


達成感?・・・みたいなものを感じた。

蝶が羽ばたきと共に鱗粉を放つかのように・・・シィリオの所作のひとつひとつに、光の粒子が舞い散っていく。

なるほど、これなら祭りのメインイベントとしても盛り上がる事だろう。


「我らの家族シィリオよ・・・末永く大いなる森と共にあれ」


締めの祝詞と共に、周囲の金色の光は掻き消えて・・・儀式は厳かに幕を閉じた。

踊り終えて息を切らすシィリオの肩を支えるフィーラ・・・2人の元へ私達は駆け寄った。


「フィーラ・・・シィリオ・・・あ、あの・・・すごかった」


我ながら貧困な語彙・・・

散々儀式を鑑賞しておいて・・・2人へ伝える感想として出てきた言葉がこれである。

けれど気持ちは伝わったのか、フィーラは笑顔を返してくれた、そして・・・


「ふふ・・・ナデシコ、ありがとう」

「ふーん、ナデシコっていうんだ?」

「う、うん・・・」


シィリオが、子犬のように私の周りを嗅ぎ回り・・・いや、本当にくんくんと。


「・・・やっぱり姉様の匂いがする・・・姉様と仲良いの?」

「え・・・うん、フィーラとは・・・友達だから」

「ふーん、そうなんだ・・・いたっ!」

「シィリオ、失礼な事しない!・・・ここは森じゃないのよ」

「うぅ・・・ごめんなさい」


フィーラに叩かれながらも、シィリオは悪戯っぽい微笑むを私に向けてくる。

やっぱり人懐っこい子犬みたいだ・・・シィリオが人間達の間で人気というのも、ちょっとわかる気がした。


「これがエルフ族に伝わる緑葉の儀なのね・・・貴重なものを見せて貰ったわ、ありがとう」

「それはこっちの台詞・・・正直森の外で出来るかどうかは賭けだったのだけど・・・貴女達のおかげでなんとかなったわ」


本来はエルフ族の住む森でないと出来ない儀式なのだとか。

私達が必要な物を揃えたのはもちろん、この中庭に長年フィーラが引き籠っていたのも大きな要因だろう。

フィーラが何年も大樹の中に住んで、ここの草木を世話をしてきた事で、疑似的なエルフの森として機能したのだ。


「それにしても・・・なんと言うか」


シィリオを見ながら、ローゼリア様が眩しそうに目を細めた。

彼女が何を言わんとしているのか、私にもわかる・・・だって今のシィリオは・・・


「それって・・・元の色には戻らないのかしら?」

「・・・?」


私達の注目を集め、不思議そうに首を傾げるシィリオ。

・・・その衣装は儀式の終わった今もなお、金色に光り輝いていた。

踊ってた時は綺麗だと思ったけど・・・今はなんというか、すごく・・・目に痛い。


「・・・シィリオ」


フィーラが非難がましげな視線を投げかけるあたり、どうやらその原因はシィリオにあるようだ。


「だって・・・せっかく姉様が私を大人にしてくれたんだもの・・・」

「はやく戻しなさい、聞いたわよ・・・祭りの場で正式に披露するんでしょう?」

「それは、そうだけど・・・私にとっては、今の緑葉の儀が正式で・・・」


やっぱり私の思った通り、シィリオは大好きなお姉さんから緑葉の儀を受けたかったんだね。

今やもう次期族長の件や祭りについて拒絶反応は見られない・・・それらに対してはそこまで嫌でもなかったみたいだ。


「森に帰るまでには戻すから、もうちょっとだけ・・・ね?」

「もう・・・せめて目立たないように、上に何か羽織りなさい」

「はーい」


ローブか何かで金色衣装を隠す、という事で話が付いたみたいだ。


「じゃあ姉様、森で待ってるから・・・必ず帰って来てね?」

「はいはい・・・そのうち帰るわよ」

「必ず、だよ?・・・じゃないと、また来ちゃうからね?」

「う・・・」


シィリオに念を押されて、フィーラが渋い顔で頷いた。

これはフィーラよりもシィリオの方が一枚上手・・・族長にもシィリオの方が向いてたりするかも知れない。


「絶対帰って来てねー!」


何度も念を押しながら、シィリオは学園から旅立っていった。

背後に昇ってくる朝陽が、ローブの隙間の金色を反射して眩しい。


「あの様子では、夏休みには帰ってあげないといけないのではなくて?・・・フィーラお姉ちゃん?」

「はぁ・・・今から気が重いわ」


ローゼリア様にからかわれ、面倒臭そうに肩を落とすフィーラ。


・・・けれど、その顔はどこか楽しそうに見えた。



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