第61話 「名付けて・・・天岩戸作戦」
日本の神話に天岩戸伝説というのがある。
岩戸の向こうに引き籠ってしまった天照大神に出てきてもらうために、皆でお祭り騒ぎをするという・・・私が知ってるくらいだから、結構有名なやつじゃないかな。
「・・・名付けて・・・天岩戸作戦」
・・・なんちゃって。
さすがにちょっと恥ずかしいので2人には内緒、これは私だけの作戦名。
必要になる物はフィーラに聞いて、ローゼリア様に用意して貰った。
緑葉の儀・・・エルフ族に伝わる儀式。
可能な限り正式な作法に則ったそれを、学園の中庭で行えるように。
・・・私達は今、夜の学園でせっせと作業していた。
「すいません・・・先生にまで・・・」
「まぁ、私の見ていない所で生徒に勝手にやられても困りますので・・・」
儀式は深夜に執り行うという事で・・・
夜の学園に出入りする許可を貰おうとお願いしたら、タチアナ先生は手伝いを申し出てくれたのだ。
今私達は森の動物たちを象った人形・・・トーテムに飾りを付けているんだけれど・・・さすが先生、手際が良い。
ローゼリア様は図面を片手に中庭の方で作業中だ。
魔法を使って一時的に儀式の場を建築する・・・魔法に長けたローゼリア様ならそんなに時間はかからない。
フィーラの話では、シィリオは陽が沈むと眠くなるタイプらしく・・・今もぐっすり睡眠中のようだ。
縫い糸と格闘しつつ完成させたトーテムの数々を台車に乗せて、中庭へ運び込む。
中庭の雰囲気が違って見えたのは、今が夜だからというだけじゃない・・・ローゼリア様の作業の賜物だ。
中央の大樹を取り囲むように石柱が建ち並ぶその光景は・・・ストーンヘンジだっけ? 西洋の遺跡を思わせた。
「さすがローゼリアだわ、文句のつけようがないくらい完璧な仕上がりよ」
「そ、そうかしら・・・図面の通りには出来たつもりだけれど」
「じゃあ柱の周りにトーテムを並べて・・・出来るだけ均等に・・・」
魔法で生み出された小さな明かりを頼りに、トーテムを並べていく。
・・・暗くてちょっとわかりにくいけど、雰囲気はよく出てる気がする。
一連の作業が終わった所で、いよいよ主役にご登場願う時が来た・・・んだけど。
「シィリオ!起きて・・・起きなさい!」
「・・・」
何度もフィーラが呼び掛けてるんだけど・・・反応がない。
どうやら私達が思ってる以上にぐっすり眠っているみたいで・・・健康優良児め。
このままシィリオが起きるのを待っていては、夜が明けてしまう・・・なので作戦は次の段階へ。
それ即ち・・・
「しょうがないわ・・・ナデシコ、お願い」
「う、うん・・・」
魔法の明かりを引き連れて・・・私は大樹の根元を探った。
以前フィーラが引き籠っていた時と同じ・・・抜け穴から侵入するのだ。
「確かこの辺り・・・あった」
小柄な私とアクアちゃんくらいしか通れないような道だ・・・やっぱり塞がれる事なく、そこにあった。
この先はちょっと怖いんだけど・・・すでに何回か通った道。
・・・勇気を出して、私は穴へ飛び込んだ。
「____!」
暗い穴の中で加速していく感覚に相変わらずの恐怖を覚えながら、私は衝撃に備えて身を丸めた。
ポスッ…
そして到着・・・弾力のある大きなきのこが私の身体を受け止めた。
シィリオはキノコ嫌いと聞いてちょっと不安だったけど、ここのきのこはそのままだった。
身構えていたおかげもあって、怪我もなく無事だ。
内部は以前と変わらない・・・全体的に薄暗く、たまに魔法の明かりがぽつぽつと・・・
シィリオが寝室にしている場所についても、おそらくはフィーラの時と一緒だろう。
特に迷う事もなく、私は足を進め・・・目的の部屋に辿り着いた。
「・・・むにゃむにゃ・・・姉様・・・」
「・・・」
予想通りシィリオはフィーラの使っていたベッドの上で、健やかに寝息を立てていた。
寝言が漏れ聞こえてくる・・・フィーラの夢でも見ているのかな・・・幸せそうな寝顔。
少女の無邪気な寝顔を見ていると、これから起こしてしまう事に罪悪感を覚える。
「シィリオ・・・ごめんね」
シィリオに謝りながら、私は左手で左の耳を抑えつつ・・・右手に握った鉱石を思い切り投げつけた。
キイイイイイィィィン!!!
音素の詰まった音の結晶・・・音晶石がベッドに当たって砕けながら、物凄い音を発した。
慌てて右の耳も塞いだけど・・・これはきつい・・・音晶石って、こんなに鳴るものなんだ。
前にペイター君の工房で聞いた時はここまでじゃなかったと思うんだけど・・・たまたまそういう石を引き当てちゃったのかな。
「うぅ・・・な・・・なにが・・・」
騒音の成果はあったようで、ベッドの上からシィリオが起き上がるのが見えた。
でもすごくフラフラしてる・・・本当にごめん・・・こんなつもりじゃなかったんだ。
大丈夫かな・・・その、鼓膜とか・・・
「うぅ・・・頭が・・・がんがんする・・・?!」
そこで振り向いたシィリオはようやく私の存在に気付いたらしく、その瞳に警戒の色が灯る。
だけど身体の方はまだふらついていて・・・申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「姉様といた人間?!・・・しゅうげき、され・・・うっ」
「だ、大丈夫?!」
ふらついて、倒れそうになったシィリオを慌てて抱き止めた。
我ながら、こんな子供になんてことを・・・
「ひ・・・ひきょうよ・・・こんな」
「そ、そうだよね・・・ごめんね・・・」
「な、なにを謝って・・・」
言葉が通じた・・・よかった、耳は無事みたいだ。
とりあえず落ち着くまで支えていよう・・・シィリオが小さくて良かった。
「・・・姉様の・・・にお・・・」
「まだ、動かないで・・・」
ふらついた身体で動こうとするシィリオを抑えて、回復を待つ。
もし待ってもダメなようなら、私ががんばって外に運び出すしかない。
「大丈夫・・・だからね・・・もう少し・・・」
「・・・」
私なりに一生懸命シィリオ声を掛けながら、しばらく待って・・・ゆっくりと手を離す。
シィリオの身体はふらつく事なく安定して・・・なんとか調子を取り戻したみたいだ。
「・・・大丈夫?・・・歩ける?」
「・・・うん」
意外と大人しい・・・ひょっとしたら、まだダメージが残ってるのかも知れない。
念のためその手を握って、ゆっくりと外に連れ出す。
「外でフィーラが・・・待ってるからね・・・がんばって」
「・・・姉様が?」
不思議そうにこちらを見るシィリオ・・・この子には悪い事しちゃったけれど・・・
この先で待ってる出来事は、その分の罪滅ぼしくらいにはなる・・・といいな。
勝手知ったる感覚で、シィリオを出口まで連れて行く・・・出口の向こうが明るくなっていて、向こうは準備万端のようだ。
「??・・・いったい・・・なにが」
「さぁ、行ってらっしゃい」
出口から差し込む光に向かって・・・私はシィリオの背中を押した。




