第59話 「大和撫子様に免じて、ね」
まさかこの異世界に、それもエルフ族に土下座文化が存在していたなんて。
これもやはり何らかの形で日本から伝わったのか・・・いやスライディングスタイルなあたり、独自発生した可能性も・・・
ともあれ、このエルフ3人組による土下座は、決して私に言われたから渋々謝った・・・という上辺だけの物には見えない。
「悪気はなかった、とは言わない・・・あの時、お前を邪魔に思って皆で色々当たってしまった・・・すまん」
「族長でもないのに、いちいち細かいしきたりを持ち出してくるのを鬱陶しいって思ってました!すいません!」
「人間から聞いた留学の話を利用しようって言い出したの俺です!ごめんなさい!」
三者三様・・・それぞれが感じていた事を包み数さず・・・
やっぱりエルフ族のフィーラへの嫌がらせは聞いていた通りで・・・でも彼らなりに後ろめたさを感じていたんだろう。
だから当時の事を知らずにフィーラを慕うシィリオには、皆で嘘をついてまで隠していたんだ。
「正直やり過ぎた・・・ってのは森の皆も思ってるはずだ、俺達だけじゃなく」
「お前が学園で行方不明になったって聞いた時は皆心配してた、本当だ!」
「森から除け者にして・・・辛い思いをさせて・・・本当に済まなかった、許してくれ」
土下座して謝罪した3人に対して、フィーラは冷ややかな視線を向けて・・・その表情からは何も読めない。
いったい今、彼女の胸中では何を思っているのか。
都合よく水に流して仲直りって雰囲気ではないのは確かだ・・・世の中、謝っても許せない事ってのもあるしなぁ・・・
重苦しい沈黙・・・3人組の肩が緊張に震える。
フィーラはすぅっと息を吐くと、胡乱げな目線を向けながら・・・
「・・・どうせ、そこのナデシコに言われたから謝ってるんでしょう?」
う・・・それは、まぁ・・・その通りだけど。
さすがフィーラ鋭い・・・ひょっとしたらローゼリア様から聞いてるのかも知れないけど。
「いや、大和撫子様は・・・」
「確かに、大和撫子様から謝るように言われてはいるけど・・・」
「おい馬鹿!・・・そ、それ抜きでもだな・・・」
ああ・・・3人組もわかりやすく動揺しちゃって・・・これじゃフィーラの心証も最悪だ。
ほら、現にフィーラもくすりと笑って・・・え・・・笑ってる?
「ふぅん・・・大和撫子様、ねぇ・・・」
フィーラは妙にニヤついた顔で、視線を流して・・・こっちを見てきた。
え・・・私?! 謝れとしか言ってないよ?!
視線を受けて慌てふためく私を見て、フィーラはもう一度くすりと笑った、その後・・・
「しょうがない、許してあげるわ・・・大和撫子様に免じて、ね」
「「「!!!」」」
フィーラから出た許しの言葉・・・それを受けて、3人組が一斉にこっちを向いてきた。
え・・・いや・・・ちょっとフィーラ?! そんな風にされたら、このエルフ達・・・
「「「ありがとうございます!!」」」
「ひ、ひぃ・・・」
やっぱり・・・満面の笑みを浮かべながら、私に頭を下げてきた。
お礼を言うべきなのはフィーラに対して、でしょうに。
そんな私を見て、フィーラも笑顔を浮かべて・・・くぅ・・・わざとか。
意図を察した私は、恨めしげにフィーラを睨む。
「うぅ・・・フィーラ」
「まぁ、どの道・・・そんなに気にしてなかったからね、今は人間の文化も悪くないって思ってるし」
「「「ほ、本当か?!」」」
「本当よ、それも全部この大和撫子様のおかげ・・・よく覚えておいて」
「「「は、ははぁ~!」」」
またしてもフィーラに焚きつけられた3人が私に向かって平伏した。
もう、フィーラってば・・・絶対遊んでるでしょ。
「・・・という訳だから、シィリオの事も私達に任せて・・・貴方達は森に帰ってて貰える?」
「え・・・シィリオの事も?」
「任せてしまって・・・良いのか?」
「姉の私と、大和撫子様が協力するって言ってるのよ?・・・何か不安でも?」
「「「いえ、ありません!」」」
フィーラの言葉を受けて、3人組がビシッと立ち上がった。
ひょっとして・・・エルフ達の力関係的には、フィーラって結構・・・偉かったり?
「じゃあ、さっさと行きなさい!・・・あ、族長には気が向いたら帰るって言っといて」
「「「・・・え」」」
「気が向いたら、だからね・・・いつになるかはわからないけど」
「「「は、はい」」」
最後に信じられない物を見たような顔をして・・・3人組は森へ帰っていった。
そっか、フィーラも森に・・・それがいつになるかわからないけど、森のエルフ達とも仲直りが出来る日が来るのかな。
などと思っていると・・・いつの間にか、そのフィーラがすぐ傍まで来ていた。
「・・・ナデシコ、私からもお礼を言わないといけないわね」
「そ、そんな・・・私は何も・・・」
「ううん、全部ナデシコのおかげ・・・ナデシコと出会ってなければ、きっと人間もエルフも嫌ったままだったわ」
「そ、そうかな・・・」
改まって面と向かって言われると、なんだか照れ臭い。
きっと私じゃなくても・・・いつかは誰かと出会って、今のフィーラになってるとは思うんだけど。
「ありがとう、ナデシ・・・」
コホン…
その瞬間・・・背後で咳払いが聞こえた。
「そろそろ、私も加わって良いかしら?」
「ローゼリア様?!」
そうか、ローゼリア様がフィーラを連れてきてくれたんだった。
エルフ達の問題だからか、気を利かせて今まで外していてくれていたらしい。
「あらごめんなさい、王女様に私達の仲を見せつけちゃったかしら?」
「ちょ・・・フィーラ?!」
そう言いながら、フィーラは私の腕に抱き着いてきた。
「!!・・・私はべ、別に気にしてなんて・・・」
「そう? それにしては顔が真っ赤だけど?」
フィーラってば、また私で遊んで・・・ってローゼリア様、本当に顔色が赤くなってる?!
平気そうに振舞ってはいたけど、やっぱり無理をしていたんだ。
私が攫われたりして、余計な心配をかけたせいで・・・
「ローゼリア様、やっぱり疲れが・・・お、お部屋で休んだ方が」
「・・・」
「・・・」
あ・・・あれ・・・なぜかローゼリア様とフィーラが無言で顔を見合わせて・・・
「「ふふっ」」
これまた2人して笑い出した。
え・・・え・・・どういうこと?
「ふふふ・・・これだからナデシコは」
「ふふ・・・もう・・・しょうがない子ね」
「・・・???」
結局2人の笑いが収まるまで・・・私は1人で途方に暮れるしかなかったのだった。




