第58話 「うそついてましたごめんなさい」
「寮に着いたら、フィーラを連れてくるから・・・」
それまで寮の外で大人しく待っているように・・・3人組にそう言おうとした私だったけれど、そこで思わぬ事態に遭遇した。
「ナデシコ!?無事だったのね!」
「ローゼリア様?!・・・はわっ!」
学園と学生寮へ続く一本道・・・その先に居たのはローゼリア様だった。
ローゼリア様は私を見るなり、勢いよく走って来て・・・思い切り抱き着かれてしまった。
「ぜんぜん帰ってこないから、皆で探したのよ・・・無事で良かった」
「あ・・・」
そっか・・・私、元は3人組に攫われて・・・一晩ぐっすりと。
3人組の変なノリのせいで、自分の置かれた立場をすっかり忘れていた。
夜通し私を探していたのか、ローゼリア様は赤く充血した瞳を潤ませて・・・こんなに心配されていたなんて。
「・・・ごめんなさい」
「無事ならそれでいいの・・・部屋に帰りましょう」
「あ・・・その・・・それが・・・」
その間も、エルフ3人組は私の後ろにぴったりついて来ていて・・・不安そうにこちらの様子を伺っていた。
ど、どうしよう・・・『このエルフ達に攫われてました』とか言おうものなら、大事件になってしまうかも知れない。
留学生が留学先の国で拉致被害に遭ったなんて・・・国際問題だ。
全身にダラダラと変な汗が伝う・・・どうやってやり過ごせば。
「ナデシコ、そのエルフ達は・・・」
「?!」
ローゼリア様に気付かれた・・・まぁ、3人ものエルフが私の後ろで立ち止まってるんだもの、気付かない方がおかしい。
何か言い訳を考えないと、フィーラを連れて来るどころじゃなくなる・・・そうか、フィーラだ。
「このひ・・・エルフ達、フィーラに会いに来たらしくて・・・」
「ああ、フィーラの・・・」
「だから私、フィーラを呼んで来ようと・・・」
うん、フィーラを訊ねてきたお客さん・・・これなら矛盾はない。
なんとかなる・・・そう思ったのもつかの間。
「なら私がフィーラを呼んでくるわ、ナデシコは部屋に戻っていて」
「え・・・いや、その・・・ローゼリア様はお疲れなんじゃ・・・」
「いいえ、ナデシコこそ疲れているでしょう?・・・なにせ一晩も帰ってこないくらいだもの」
「う・・・」
そう言ってくるローゼリア様は疲れなど感じさせない表情で・・・簡単には引かないであろう強い意志を感じられた。
これは・・・さすがに何か気付かれてるやつだ。
もしここで私がいなくなったら・・・あの3人組にどんな疑いが掛かる事か・・・
「ナデシコ・・・本当の事を話して」
「くぅ・・・」
これ以上欺くのは無理がある・・・いや、最初からローゼリア様を欺けるはずがなかったんだ。
「・・・うそついてましたごめんなさい」
私はローゼリア様に白旗を掲げ・・・洗いざらい白状した。
私が攫われたってあたりで、3人組を見る目が鋭くなったけど・・・だ、大丈夫かなぁ。
私が最後まで・・・フィーラへの謝罪を条件に、シィリオを森に帰す手伝いをするという所まで話すと・・・ローゼリア様は小さくため息を吐いた。
「もう・・・ナデシコは人が良いというか・・・本当にそれで彼らを許すのね?」
「え・・・まぁ・・・」
「この国の王女としては・・・人攫いの賊として、彼らを捕らえて裁く事も出来るのだけど」
「そんな・・・と、とんでもない!・・・や、やめて・・・」
攫われたと言っても、そんなに酷い待遇じゃなかったし・・・お肉美味しかったし。
幸運な事に、今日は学園もお休みの日なので・・・学業にも影響は出ていない。
慌ててエルフ達を庇おうとする私を見て・・・ローゼリア様はくすりと表情を和らげた。
「わかったわ、今回の件は不問にします」
ホッ…
「ふふっ、ナデシコったら・・・私が本気で彼らを裁くとでも思ったの?」
「あ・・・あはは・・・」
・・・割と思ってました、さっき怖い顔してたし。
「じゃあフィーラを呼んで来るから、ここで待ってて」
「あ・・・はい」
そう言い残すと、ローゼリア様は寮の中へ・・・きっとすぐに連れてきてくれるだろう。
それは良いんだけど・・・何やら後ろの方から視線を感じる。
ちょっとだけ嫌な予感・・・と言うか面倒そうな予感を覚えながら、振り返ると・・・
「「「大和撫子様、ありがとうございます!!」」」
「うわ・・・」
・・・またもや3人組が平伏していた。
こんな道の真ん中で・・・誰かに見られたりしたら恥ずかしいんだけど。
「や・・・やめ・・・」
「今の方って、この国の王女殿下ですよね?!そんな方を相手に俺達を庇ってくださるなんて!」
「しかも、その王女を使いに走らせるとは・・・さすが大和撫子様!」
「貴女様を頼った俺達は間違っていなかった!」
いや、勘違いも甚だしいんだけど・・・けれど彼らの誤解を解いているような時間は残されていなかった。
「ナデシコ!本当に帰ってきたのね!」
「あ・・・フィーラ」
思った以上に早く・・・ローゼリア様がフィーラを連れてきた。
それもそのはずで、フィーラもまたローゼリア様と一緒に、攫われた私を探して走り回っていたらしい。
だからなのか、フィーラも私を見るなり勢いよく駆け寄ってきて・・・だ、抱き着かれる?!
「・・・!」
ローゼリア様の時を思い出して、私はとっさに身構えた・・・しかし、予想していた衝撃はなく・・・
「ロック、カラバ、ジオ・・・貴方達、どうしてここに?」
「いや・・・その・・・」
途中で立ち止まったフィーラの視線は私の後方へと・・・あっ、今のってこの3人組の名前か。
さすがに顔見知りなんだ・・・3人組の方はと言うと、気まずそうな表情を浮かべて・・・ちゃんと謝れると良いんだけど。
「まさか・・・シィリオを追いかけ回していた3人組って・・・」
「「「!!!」」」
はい・・・そこの3人です。
これはますます彼らの立場が悪くなってきてるんだけど・・・ど、どうしよう。
誠心誠意謝ればフィーラだって許してくれる、仲直りだって・・・そう思っていたんだけど。
明らかに警戒した様子のフィーラ・・・この張り詰めた空気は嫌な予感が・・・
「黙ってないで、何か言って欲しいんですけど・・・私なんかには何も言う事ないって事?」
ふぇぇ・・・フィーラから殺気みたいな圧を感じる。
こんなんじゃさすがにあの3人組も、謝るに謝れないかも・・・私がそう思った、その瞬間・・・
ファサッ…
旗か何か・・・布が風にたなびくような音がした。
しかしそれは旗でも布切れでもなく・・・風に舞うかのように滑空した、エルフ3人組の発した音だった。
滑空・・・そう、エルフ達は前方の地面に向かって、一糸乱れぬ綺麗なフォームで・・・こ、これは?!
「「「申し訳ありませんでした!!!」」」
ジャンピングとか、ダイビングとかファイヤーとか色々あるけど・・・この場合は、スライディング?
創作のネタとして聞いた事はあるけど、まさか実物を見る事になるなんて・・・しかもこの異世界で。
そのまま前のめりに、滑るように着地したエルフ達が見せた姿勢は間違いなく・・・
私の世界で『土下座』と呼ばれる姿勢だった。




