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第56話 「はい・・・私が・・・大和撫子です」


お肉もぐもぐ・・・もぐもぐ。

パンに挟んでもぐもぐ・・・もぐもぐ。


パンに挟むと言えば、サンドイッチ伯爵が有名だけど・・・

実は伯爵が産まれる以前からサンドイッチは普通に食べられていたらしい。

その頃は何と呼ばれていたのか、そこからなんでサンドイッチで定着したのかは、永遠の謎だ。


私を取り囲む3人の男達・・・長い耳から3人ともエルフだと思われる。

そのエルフ達が呆気にとられた顔で見守る中、私はもぐもぐと食欲を満たした。

串焼きのお肉は程よい焼き加減で柔らかく、ジューシーだった。


「・・・ごちそうさまでした」


美味しく食べ終えたお肉に感謝の祈りを捧げ、満腹感に満たされる。

私が食べている間、3人組は全く手も口も出してこなかった・・・それどころか、食事の為に私を縛ったロープを解いてくれた・・・人攫いにしては良心的な対応な気がする。

いやいや、そう見えても裏で何を企んでいるのかわからない・・・気を引き締めないと。


「腹はいっぱいになったか?」

「あ・・・はい」


空腹だったからって結構な量を食べてしまった・・・ちょっと恥ずかしい。

けれど、男達は満足そうな顔で頷いて・・・やっぱり悪い人って感じがしない。


「君には手荒な事をして悪かった・・・どうか許してほしい」

「え・・・」


なんか、いきなり謝られた。

やっぱり悪い人じゃないのかな・・・どう反応して良いのかわからない。

この人達・・・エルフ達の目的を知らない事には、なんとも・・・今の所はシィリオを追いかけてきた事しか知らないし。


「俺達は仲間の・・・エルフ族の女の子を連れ戻しに来ただけなんだ、信じて欲しい」

「シィリオを・・・連れ戻しに?」


そう尋ねると、3人仲良く頷いた。

森にフィーラを連れ戻しに来たシィリオ・・・を連れ戻しに来た3人組か。

なんかややこしい・・・シィリオはなんて言ってたっけ・・・うろ覚えの記憶をがんばって探る・・・ええと。


「あ・・・次の族長になるのが、嫌だって・・・」

「シィリオがそう言ってたのか?」

「う・・・うん・・・フィーラの方が、相応しいのに・・・って」

「「「・・・」」」


フィーラの名前を出した途端に、3人組が渋い顔をした。

・・・やっぱりフィーラはエルフ達に嫌われてるのか・・・古いエルフの伝統を大事にしたばかりに。

だからって、そこまで目の敵にしなくても良いと思うんだけど・・・


「その・・・シィリオは、出会ってしまったのか?・・・フィーラに」

「え・・・まぁ・・・うん」

「「「・・・はぁ」」」


今度は3人揃ってため息を吐いた・・・なんか、仲良いね。

この様子から察するに、彼らはシィリオとフィーラを出会わせたくなかったんだろう。

その理由についても察しが付く・・・何も知らないシィリオに、エルフ達がフィーラに何をしたのかがバレるのを恐れたのだ。

・・・一応まだバレてはいないんだけど。


「・・・やっぱり、その・・・怒ってたか?」


恐る恐る、と言った感じでそう尋ねてくるエルフ達。

もっと血も涙もないいじめっ子みたいなのをイメージしてたけど、少しは罪の意識があるのかな。

それとも次期族長のシィリオに知られるのが、そんなに怖いのか・・・ここはもう少し様子を見てみよう。


「・・・森に帰らない、って・・・言ってました」

「「「・・・!!」」」


うん・・・嘘は言ってない、理由は全然違うけど。

しかし私の言葉に、3人組はすっかり顔色を悪くして・・・相当堪えたらしい。


「止められなかった時点である程度覚悟はしていたが・・・考えうる中でも最悪の状況だ」

「くっ・・・シィリオがいないんじゃ、例の計画が台無しだぞ」

「至急対策を考えないと・・・」


・・・例の計画?

このエルフ達はなにやら企んでいるらしい・・・それでシィリオがいないと困るみたいだ。

3人組は仲良く円陣を組んで、作戦会議を始めた・・・もはや私の事など眼中に入ってなさそう。

彼らが色々と喋ってくれるのをここで聞いているべきか、それともこの隙にここから脱出すべきか・・・


「まずシィリオだが・・・学園の中に居られては、俺達には手が出せないぞ」

「何かの用事で外に出てくるかも知れない、そこを待って・・・」

「ここ数日待っても出て来なかったじゃないか・・・それに悠長に待ってられるような時間は残されていない」

「「「・・・」」」


どうやら作戦会議はすぐに頓挫したようで・・・彼らの間に重苦しい沈黙が流れる。

こう無言になられると、私の立てる物音が目立ってしまう・・・こっそり抜け出すにはちょっと難しい。

なんとか気配を殺して・・・もう少し入り口の方にポジションを取りたいんだけど・・・と、ここで3人組の1人が口を開いた。


「俺、思ったんだけど・・・ここはやっぱり、例の『大和撫子』を探して頼るべきなんじゃ・・・」

「学園でフィーラを救ったという『大和撫子』の叡智を頼るか・・・そんなに都合良く出会えるとも思」

「ふぁっ?!」


思わぬ単語に、つい声が出てしまった。

慌てて口を押えるけれどもう手遅れだ、完全に3人組の注意を惹いてしまった。

それよりも今の『大和撫子』って、ひょっとして・・・いやひょっとしなくても1人しか思い当たらない。


「急に変な声を出して・・・どうしたお前?」

「いやちょっと待て、この人間・・・今俺達の話を聞いて・・・まさか、大和撫子」


ギクッ


「・・・を知ってるんじゃないか?」

「そうか、同じ学園の生徒だったな!」

「もし知り合いなら頼む・・・どうか俺達を大和撫子に引き合わせてくれないか?」

「あ・・・あの・・・その・・・」


たぶん、私がその大和撫子なんですけど・・・でも自分で大和撫子名乗っちゃうのには抵抗が。

これが『日本国の留学生』とかだったらね、素直に名乗り出れるんだけど・・・

そもそも、このエルフ達は私なんかに何を期待しているのか。


「もちろん、その後は自由にしてくれて構わない・・・詫びも謝礼もしっかり出す!」

「俺達エルフ族の・・・森の未来が掛かってるんだ、頼む!」

「どうか・・・どうか、この通り!」


逃げ場なく3方向をエルフ達に囲まれながら、なぜか土下座で頼まれる・・・なんだこれ。

なんか思ったより話が大きいし・・・エルフ族の未来? どういう事?

土下座をしたかと思えば、エルフ達は私を拝むような仕草で・・・


「「「お願いします!お願いします!お願いします!」」」


なんか・・・変な宗教の教祖にされたような気分だ、拝まないで、祈らないで。

もう恥ずかしいとか言ってる場合じゃない・・・私は名乗り出るしかなかった。


「あ・・・だ、だからね・・・わ、私が・・・その」

「「「___?!」」」


救いを求めるように、3人組が一斉に顔を上げる中。

こみ上げてくる恥ずかしさを必死に堪えて・・・私は、名乗り出た。


「はい・・・私が・・・大和撫子です」


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